AIは両端に偏り、中央の「生産」は薄い

中国信通院の魏凯チームが数百件の工業AI事例を分析したところ、AIの活用は研究開発・設計と、マーケティング・サービスの両端に集中し、中央の生産製造段階が薄い「スマイルカーブ」型でした(经济日报/新华网、2026年1月9日)。

ただし、生産製造段階の事例比率は2025年に19.9%から25.9%へ上がっています。両端に偏る構造は変わらないものの、生産段階への浸透が進み始めていると読めます。

研究開発、設計、生産製造、サプライチェーン、サービスの段階別に見たAI事例の分布 生産製造:19.9%→25.9% 研究開発 設計 生産製造 SC・管理 販売・サービス 事例の多さ(模式) 曲線は傾向の模式。生産製造の比率のみ信通院の数値(经济日报/新华网、2026年1月9日)
工業AIの事例分布の模式図(スマイルカーブ)。両端に厚く、生産段階が薄いが、生産段階の比率は上昇中。

小モデルは生産、大モデルはR&D・管理に偏る「U字」

もう1つの分析が、腾讯研究院などの「工业大模型应用报告」(2024年3月)が引いた信通院の507事例の集計です。小モデル(判別型のAI。画像の良否判定や異常検知など)の事例の57%が生産製造段階に集中していました。一方、大モデル(生成型のAI)の99事例は、研究開発・設計と経営管理に偏る「U字」だったとされます。

区分主な段階典型的な用途
小モデル(判別型)生産製造(事例の57%)外観検査、異常検知、品質予測、工程制御
大モデル(生成型)研究開発・設計、経営管理文書作成、知識検索、設計支援、BI照会

2つの分析を合わせると、次のように読めます。生産段階のAIは主に判別型の小モデルが担い、生成AIは生産の外側から入っている。そして2025年にかけて、生産段階の比率がやや上がっている、という構図です。

なぜ生産段階には入りにくいのか

生産段階にAIが入りにくい理由は、中国に限らず共通しています。

  1. 失敗のコストが高い:研究開発や文書作成でAIが誤っても人が直せますが、生産工程での誤判定は不良の流出や設備停止に直結します
  2. リアルタイム性が要る:工程制御や検査は秒・ミリ秒単位の応答が必要で、大規模モデルの推論速度や費用が合わないことが多い
  3. データが現場ごとにばらばら:設備ごとにデータの形式や時刻がそろっておらず、学習に使える状態にするまでの手間が大きい
  4. 責任の所在:生産の判断をAIに任せたときの品質保証上の責任を、組織として決める必要がある

中国の政策が工業向けの「小モデル」を明記し、大小モデルの協同を求めているのは、この構造を前提にした設計と読めます(中国政策が「工業小モデル」を明記した理由を参照)。

工業AI事例のうち生産製造段階の比率
25.9%
中国信通院(2025年、经济日报/新华网2026年1月9日)
小モデル事例のうち生産製造段階の比率
57%
信通院507事例(腾讯研究院ほか、2024年3月)

日本の工場がテーマを選ぶときの示唆

スマイルカーブは「生産段階のAIは難しいから避けるべき」という意味ではありません。生産段階のAIは、成功したときの効果(不良率・稼働率・歩留り)が大きく、競争力に直結します。一方で、立ち上げにはデータ基盤と品質保証の体制が要ります。

中国政策は生成と判別の使い分けを明記した

この構造は政策にも反映されています。工信部の「推动工业互联网平台高质量发展行动方案(2026—2028年)」は、ルールが明確な生産制御やリスク識別には判別式AIを、工程最適化や設計には生成式AIを使い分けるよう定めました(C114、2026年1月13日)。

スマイルカーブとU字の分析が示した「生産は判別、R&Dと管理は生成」という実態を、政策が追認した形です。日本の工場がAIのテーマを並べるときも、生産段階のテーマには判別型、文書・設計・管理のテーマには生成型を、まず候補として当てる整理が使えます。

生産段階を押し上げているもの

19.9%から25.9%への上昇の要因について、信通院の分析そのものは今回の出典で詳しく確認できていません。ただし、同時期の中国の動きを見ると、智能工厂認定でAI応用シーンの比率が要件化されたこと(卓越级20%以上、领航级60%以上)や、プロセス産業向けの時系列モデルの商用化が進んだことは、生産段階の事例を増やす方向に働いたと考えられます(推測)。具体例は中控技术TPT 2で扱っています。

よくある質問

スマイルカーブは日本でも同じですか

日本で同じ方法で事例を集計した公的データは、今回の調査では確認できていません。ただし、生成AIが文書業務から入り、生産工程では判別型AIが中心という傾向は、日本の導入事例を見ても共通しています。

小モデルとは何パラメータ以下を指しますか

信通院・腾讯研究院の分析では、生成型の大規模モデルと対比して、特定タスク向けの判別型モデルを小モデルと呼んでいます。パラメータ数での明確な線引きは出典では示されていません。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この特集について

中国の「AI+製造」を追う

工業大模型、政策と補助金、日系工場への影響。日本語圏に届いていない一次情報 全75本

  1. 中国「人工智能+」行動意見とは:2027年に智能体普及70%超が製造業に意味すること
  2. 中国「AI+製造」専項行動(2026年1月)全解説:7分野21措置と2027年目標
  3. 中国データ越境規定(16号令)と日系工場:製造データを日本へ送れるか
  4. 中国「AI+製造」が日系企業に与える影響:競争・調達・規制の3つの視点
特集の記事をすべて見る →

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。