3つの立ち位置
ロボット基盤モデルに関わる企業は、大きく3つの立ち位置に分けられます。
- 汎用モデルを作る:さまざまなロボット・作業に使える基盤モデルを開発する(Physical Intelligence、NVIDIA、Google DeepMind、Skild AI)
- 用途特化モデルを作る:ピッキングなど特定の用途で実運用されるモデルを作る(Covariant)
- 開発環境・統合を提供する:既存の産業用ロボットにAIを組み込む開発環境を提供する(Intrinsic)
| 企業 | 立ち位置 | 主なモデル・製品 | 公表時期 | 産業用ロボットとの関係 |
|---|---|---|---|---|
| Physical Intelligence(米) | 汎用モデル | π0、π0.5 | 2024年10月、2025年4月 | 8種のロボットで学習(π0) |
| Covariant(米) | 用途特化 | RFM-1 | 2024年3月 | Amazonに非独占ライセンス |
| Intrinsic(米、Alphabet傘下) | 開発環境 | Flowstate | 2021年7月にXから独立 | 全ファナックロボットが対応予定 |
| NVIDIA(米) | 汎用モデル+基盤 | Isaac GR00T N1〜N1.7 | 2025年3月〜 | FANUC・ABB・KUKA・安川電機がJetson採用 |
| Google DeepMind(英米) | 汎用モデル | Gemini Robotics 2・ER 2 | 2026年 | 安川電機・ファナックが連携 |
| Skild AI(米) | 汎用モデル | Skild Brain | 2026年閲覧時点 | 公表資料で特定できず |
Physical Intelligence:π0とπ0.5
Physical Intelligenceは2024年10月31日、汎用ロボット基盤モデル「π0」を公開しました。30億パラメータの視覚言語モデル(VLM)に、flow matchingという手法で動作出力を加えたVLA(Vision-Language-Action)モデルで、最大50Hzで動作指令を出し、8種類のロボットのデータで学習しています。洗濯物畳み、テーブル片付け、箱組立などを実行できるとしています。
2025年4月22日に公開したπ0.5は、学習に含まれない家庭環境で食器の片付けやベッドメイクを実行しました。学習環境の数が約100に達すると、テスト環境で直接学習したモデルに近い性能になると報告しています。一方で、著者自身が「完璧には程遠い」とし、初回で成功しないこと、高レベルの推論と運動指令の両方で誤りが多いことを明記しています。
公開デモの多くは家庭や一般的な物体の操作で、工場の作業で求められるサイクルタイムや成功率の水準で評価されたものではありません。技術的な詳細はPhysical Intelligenceのπ0・π0.5で扱っています。
Covariant:「リバース・アクハイヤー」という出口
Covariantは物流のピッキング向けにAIを提供してきた企業で、2024年3月11日にロボット基盤モデル「RFM-1」を発表しました。
その5か月後の2024年8月30日、AmazonがCovariantと非独占のライセンス契約を結び、創業者3人と従業員の約25%がAmazonに移籍しました。会社を買収するのではなく、技術のライセンスと人材の移籍で実質的に中核を取り込むこの形は「リバース・アクハイヤー」と呼ばれ、反トラスト審査の回避ではないかという指摘も出ています。
ロボット基盤モデルの開発には大量の計算資源とデータが必要で、スタートアップが単独で事業を続けるのは簡単ではありません。Covariantの例は、技術を持つスタートアップの出口が、上場や通常の買収だけでなく、大手への人材移籍という形を取りうることを示しています。
Intrinsic:既存ロボットにAIを載せる側
IntrinsicはAlphabet傘下の産業ロボットソフト企業で、2021年7月にXからスピンアウトしました。開発環境「Flowstate」で、物体の姿勢推定器の学習や、衝突を避ける経路の自動生成を提供しています。
ファナックは2026年5月13日、Gemini Enterpriseを使ったAIエージェントが協働・非協働ロボットを1つのセルとして操るシステムを発表し、すべてのファナックロボットがFlowstate(ROS互換)に対応する予定だとしました。2026年9月には、IntrinsicがNVIDIAのFoundationPoseを機械へのワーク供給の仕組み「Open Machine Tending Solution」で使っていることも紹介されています。
Intrinsicの位置は、汎用モデルで新しいロボットを作るのではなく、既存の産業用ロボットにAIの機能を足す側にあります。日本のロボットメーカーとの組み方としては、この形が最も現実的だと考えられます(推測)。
製造業がこの動きをどう追うか
ロボット基盤モデルの企業動向は変化が速く、1年後に同じ企業が同じ形で存在しているとは限りません。工場の自動化計画に直接組み込むには、次の点を見て判断します。
- 産業用ロボットメーカーの製品に組み込まれて提供されているか(単体のモデルではなく、保守を含む製品として買えるか)
- 商用利用のライセンス条件が明示されているか(NVIDIAはGR00T N1.7を商用ライセンス可能としている一方、開発者ページでは1.7を研究・試作用のEarly Accessとして本番展開は対象外と記載しており、確認が必要)
- 自社の作業で、成功率とサイクルタイムが評価されているか
日本のロボットメーカー側の動きはファナックのフィジカルAI戦略、モデルの比較はロボット基盤モデル5種の比較を参照してください。
よくある質問
ロボット基盤モデルは自社で学習させる必要がありますか
汎用モデルはそのままでは自社の作業に十分な精度が出ないことが多く、自社の作業データでの追加学習が必要になるのが一般的です。追加学習に使う動作データを誰が作り、誰が権利を持つかを、ベンダーとの契約で決めておく必要があります。
Covariantの製品は今も買えますか
Amazonとの契約は非独占ライセンスとされているため、Covariantが他の顧客に提供を続けること自体は排除されていません。ただし、創業者と従業員の一部が移籍しているため、提供体制は個別に確認が必要です。
π0はオープンソースですか
本記事の調査範囲では、π0のライセンス条件の詳細を一次情報で確認できていません。利用を検討する場合は、Physical Intelligenceの公開ページでライセンスを確認してください。
- π0: Our First Generalist Policy(Physical Intelligence, 2024-10-31)
- π0.5: a VLA with Open-World Generalization(Physical Intelligence, 2025-04-22)
- Covariant(Wikipedia, 2026閲覧))
- Intrinsic(Intrinsic, 2026閲覧)
- ファナックはGoogleとの協業でフィジカルAI社会実装を加速(ファナック, 2026-05-13)
- NVIDIA Isaac ROS 5.0 Advances Agentic, Open Source Robotics Development(NVIDIA Blog, 2026-09-22)
- NVIDIA Expands Physical AI Ecosystem with New Models and Industrial Partnerships(The Energy Mag, 2026-03-16)
- NVIDIA Isaac GR00T(NVIDIA Developer, 2026)
- Gemini Robotics(Google DeepMind, 2026)
- Skild AI(Skild AI, 2026閲覧)
この記事に出てくる用語
フィジカルAIは工場に来るのか
ロボット基盤モデルとヒューマノイドの実証。宣伝と量産ラインの距離を測る 全66本
- フィジカルAIとは:従来の産業ロボット・協働ロボットとの違いを4つの軸で整理
- 美的の「智能体工厂」:荆州工場の14エージェント・38シーンと人形ロボット
- ヒューマノイドの工場実証一覧:BMW・Mercedes・Schaeffler・BYDなど10社の現在地
- フィジカルAI導入の判断基準:今やるべき工場・待つべき工場を分ける5つの質問
