結論:「工程へのAI導入」と「生成AIの利用」は別の指標
製造業のAI導入率を語るとき、まず区別すべきは次の2つです。
- 製造工程へのAI導入率:検査・保全・計画などの工程でAIを使っている企業の割合。2025年版ものづくり白書が引用したJILPT調査(2025年5月)で12.2%、大企業に限ると31.3%
- 生成AIの利用率:従業員がメール作成や文書要約などで生成AIを使っている割合。調査によって24.6%から65.6%まで開く
前者は工場の設備やシステムに組み込まれたAIの話で、後者は個人の事務作業の話です。生成AIの利用率が5割を超えても、工程でAIが動いている企業は1割強にとどまります。この2つを混同した「製造業の半数以上がAIを導入」という表現は、現在地を実態より大きく見せます。
7本の調査を同じ表に並べる
主な調査を、調査主体・対象・設問の違いで整理すると次のようになります。
| 調査 | 時期 | 対象 | 何を聞いたか | 数字 |
|---|---|---|---|---|
| JILPT(ものづくり白書2025で引用) | 2025年5月 | ものづくり企業 | 製造工程へのAI導入 | 12.2%(大企業31.3%) |
| 総務省 令和7年版情報通信白書 | 2024年度 | 日本企業(全産業) | 何らかの業務で生成AIを使用中 | 55.2% |
| 総務省 令和8年版情報通信白書 | 2025年度 | 日本企業(全産業) | 生成AIの活用方針を策定 | 68.9%(大企業74.0%、中小58.1%) |
| IPA「DX動向2026」 | 2026年7月公表 | 日本企業(全産業) | 生成AIを導入 | 44.0%(前年度22.6%) |
| 厚労省 令和8年版労働経済白書 | 2026年9月公表 | 製造業の個人 | 生成AIの利用 | 33.3% |
| MONOist読者調査 | 2025年2月、402件 | 製造業のメルマガ読者 | 業務で生成AIを日常的・時々使う | 65.6% |
| アルダグラム調査 | 2025年6月、各業界500人 | 製造業の就業者 | 生成AIの業務活用 | 24.6% |
同じ「製造業の生成AI利用率」でも、MONOist読者の65.6%と、一般就業者を対象にしたアルダグラム調査の24.6%では2.7倍の差があります。MONOistの読者はITへの関心が高い層で、設問も「時々使う」を含みます。このほか、アルサーガパートナーズの製造業311名調査(2025年7月)では51.0%でした。数字の差は、母集団・設問・時期の差で説明できます。
データ活用の段階で見ると、ボトルネックは「つなぐ」部分
AIの導入率より手前の段階を見ると、製造業の課題がよりはっきりします。2026年版ものづくり白書の図表(RIETI BBL資料のテキストから読み取った値)では、一連の製造プロセスのデータを取得している事業者は66.0%、取得データを活用しているのは51.4%、効果が出たのは43.9%でした。同白書は、企業間のデータ連携が2年前からほとんど進んでいないと指摘しています。
データを取っている企業の約2割強は、そのデータを活用できていません。原因として多いのは、設備ごとにタグ名や単位がばらばらで、ロットや作業指示と紐付かないことです。AIの導入率が上がらない理由は、AIの技術より、この「データがつながらない」段階にあります。点検の方法はAI導入前の製造データ準備で解説しています。
海外と比べた位置
国際比較では、日本の数字はまだ低い水準にあります。総務省のAIガバナンス検討会資料(2025年12月)によると、企業の業務での生成AI利用率は2024年に米国90.6%、中国95.8%、ドイツ90.3%に対し、日本は55.2%でした。令和8年版労働経済白書では、製造業の個人の生成AI利用率33.3%は米国(約60%)のおよそ半分とされています。
ただし海外でも、利用と成果は別です。Rockwell Automationの第10回スマート製造調査(2025年、17か国1,560人)では95%がAI/MLに投資済みか投資予定と答えた一方、Manufacturing Leadership Councilの2025年初頭の調査では、エージェント型AIを使っている製造業は6%でした(Deloitteのレポートで紹介)。国別の比較は日本の製造業AIは遅れているのかで詳しく扱います。
自社の位置を測るときに使う数字
自社の工程を3段階で数えると、どこで止まっているかが分かり、次の投資先(データ整備か、AIのテーマ選定か)を決めやすくなります。
よくある質問
製造業のAI導入率の最新の数字はどれですか?
工程へのAI導入なら、2025年版ものづくり白書が引用したJILPT調査(2025年5月)の12.2%が、公的な調査で確認できる数字です。2026年版ものづくり白書は分析の焦点をDXからAIへ移していますが、本文の詳細な数値は原典での確認をおすすめします。
なぜ調査によって数字がこんなに違うのですか?
主に3つの違いがあります。対象(ITに関心の高い読者か、一般の就業者か、企業か)、設問(使ったことがあるか、業務で日常的に使うか、方針を定めたか)、時期(生成AIの利用は1年で大きく伸びている)です。数字を比べるときは、この3点が揃っているかを確認してください。
大企業と中小企業の差はどのくらいですか?
製造工程へのAI導入は全体12.2%に対し大企業31.3%です。製造工程でのデジタル技術の活用は、従業員301人以上で67.9%、50人以下で31.5%と、36.4ポイントの差があります(2025年版ものづくり白書)。
- ものづくり白書2025を読み解く(1)(MONOist, 2025年6月11日)
- 令和7年版 情報通信白書 企業におけるAI利用の現状(総務省, 2025年)
- 令和8年版 情報通信白書 生成AIの活用方針等(総務省, 2026年)
- DX動向2026(IPA, 2026年7月30日)
- AI投資で成果を出す企業は何が違うのか(ITmedia エンタープライズ, 2026年10月1日)
- 製造業の生成AI活用調査(MONOist, 2025年4月18日)
- 生成AI活用率 業界別調査(MONOist, 2025年9月12日)
- 製造業の生成AI活用実態調査(アルサーガパートナーズ/PR TIMES, 2025年9月9日)
- 2026年版ものづくり白書 RIETI BBL資料(経済産業省, 2026年6月26日)
- 国内動向報告(AI法等)資料2(総務省 AIガバナンス検討会, 2025年12月2日)
- Ninety Five Percent of Manufacturers Are Investing in AI(Rockwell Automation, 2025年6月3日)
- From vision to value: agentic AI in manufacturing(Deloitte Insights, 2025年9月23日)
- IDC国内AIシステム市場(クラウドWatch, 2025年5月2日)
