AIエージェントは「計画を立て、ツールを使って実行するAI」

AIエージェントは、与えられた目標に対して手順を自分で組み立て、検索・データ照会・システム操作などのツールを呼び出しながら作業を進めるAIです。質問に答えて終わるチャットボットやCopilotとの違いは、複数のステップを自分で連ねる点と、外部システムに働きかける点にあります。

製造業の例で比べると違いがはっきりします。Copilotに「ライン3の昨日の停止理由は」と聞けば、データを引いて答えを返します。エージェントに「ライン3の稼働率低下の原因を調べ、保全依頼を起票して」と頼むと、停止実績の照会、保全記録の検索、原因の仮説立て、CMMS(設備保全管理システム)への起票案の作成までを順に進めます。

項目チャット型CopilotAIエージェント
動き方1回の質問に1回答える目標に向けて複数の手順を自分で組む
外部システム主に読み取り(検索・照会)読み取りに加え、起票・更新などの書き込みもありうる
人の関与毎回、人が次の質問をする承認ゲートで人が確認する設計が必要
主なリスク誤った回答(ハルシネーション)誤った操作、過剰な権限、ループ

自律度の5段階:製造業の製品の多くは2〜3段目

製造業でのAIエージェントは、人がどこまで関与するかで5段階に分けると整理しやすくなります。

AIエージェントの自律度を5段階の階段で示した図 L1 回答のみQ&A・要約 L2 提案手順・案を提示実行は人 L3 承認後実行人が承認するとシステムを操作 L4 限定自律決めた範囲内は自動実行・事後確認 L5 自律人の常時監視なし工場では現実的でない 現在の製造業向け製品の主な範囲
製造業AIエージェントの自律度5段階。2026年時点の製造業向け製品の多くはレベル2〜3。

主要ベンダーの製品を当てはめると、SAPのField Service Dispatcher Agentは各提案をディスパッチャーが検証する設計(レベル2〜3)、Tulip AI Composerは生成したアプリの下書きを人がレビューして選択適用する設計(レベル2)です。Siemensもエージェント構想で「ユーザーがどのタスクを委ねるかを選ぶ」としています。Deloitteは2025年9月のレポートで、調達・生産技術・生産計画の担当者による承認ゲートを置くことを推奨しました。

導入の実態:使っている製造業はまだ少ない

関心は高いものの、本番利用はまだ限られています。

エージェント型AIを現在利用する製造業
6%
Manufacturing Leadership Council調査(2025年初頭)、Deloitte Insights 2025年9月引用
2年以内に利用予定の製造業
24%
同上
2027年末までに中止されうるエージェント型AIプロジェクト
40%超
Gartner予測(2025年6月、全産業)
生成AI活用企業のうちAIエージェントを利用
3.3%
矢野経済研究所(国内500社、2025年6〜9月調査)

数字の定義は調査ごとに異なります。McKinseyの「The state of AI in 2026」(2026年8月公表)では、売上10億ドル超の大企業の40%がAIエージェントをスケール中と答えていますが、これは全産業の大企業が対象で、製造現場での利用率とは別物です。各調査の比較は製造業のエージェント型AI利用は6%で詳しく扱っています。

MES・ERPとの関係:エージェントは業務システムの上に乗る

製造業のAIエージェントは、単体では何もできません。働きかける相手は、MES(製造実行システム)の作業指示や実績、ERPの製造指図や在庫、CMMSの保全記録、品質システムの不具合記録です。エージェントの精度と安全性は、これらのシステムのデータの質と、どこまで操作を許すかで決まります。

MESの実装経験から見ると、注意すべき点は2つあります。1つ目は、MESのトランザクション(着工、実績計上、ロットのホールドなど)には、品質記録やトレーサビリティ上の意味があることです。エージェントに書き込ませる場合、誰の操作として記録するか、取り消しはどうするかを先に決めておく必要があります。2つ目は、マスタの不整合です。品番改番や設備IDのずれが残ったままだと、エージェントは誤ったデータに基づいて「もっともらしい」提案をします。

製造業で現実的なエージェントの用途

Deloitteは製造業のエージェント用途として、代替調達、顧客起点の製品設計、CAD・BOM・品質メモからの作業指示書生成、ライン再構成、アフターサービスを挙げています。日本でも、日立がダイキン工業(2025年4月に試験運用開始)や三菱ケミカル(2025年12月に共同検証開始)と設備故障診断エージェントを検証し、富士通は購買部門で帳票理解・規約解析・適合チェックの3エージェント構成を社内実証しました(2025年12月発表)。

共通しているのは、エージェントが調べて案を作り、判断と実行は人が持つという分担です。生産計画の確定、品質の合否判定、設備の制御といった、誤りのコストが大きい判断をエージェントに任せている公開事例は、2026年10月時点では見当たりません。

よくある質問

AIエージェントとRPAは何が違いますか

RPAは決められた手順をそのとおりに繰り返します。AIエージェントは目標から手順を自分で組み立て、状況に応じて手順を変えます。そのぶん、何をするかを事前に完全には予測できないため、権限と承認の設計が重要になります。

中小製造業でもAIエージェントは使えますか

使えますが、最初は既製のSaaSに含まれる提案型の機能から始めるのが現実的です。自社でエージェントを組む場合も、生産実績や保全記録がデジタル化されていることが前提になります。

Copilotを入れていればエージェントは不要ですか

質問に答えてもらうだけなら、Copilotで足ります。複数のシステムをまたいで調べ、起票や更新まで進めたい業務があるときに、エージェントを検討します。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。