国内AI市場の数字は2社で定義が違う

国内のAI市場規模としてよく引用されるのは、IDC Japanと富士キメラ総研の数字です。両社の数字は並べて比較できません。

IDC Japanは2025年5月、国内AIシステム市場(支出額)が2024年に1兆3,412億円で前年比56.5%増だったと発表しました。2029年には4兆1,873億円(2024年比3.1倍)、2024〜2029年の年平均成長率(CAGR)は25.6%と予測しています。成長要因として、生産性向上型AIアシスタントの急拡大と、マルチエージェント型のエージェンティックAIへの移行を挙げています。

富士キメラ総研は「2026 生成AI/AIエージェントで飛躍するAI市場総調査」で、国内AI関連市場が2025年度に1兆8,301億円、そのうち生成AI関連が36.4%を占めるとしました。2029年度には3兆1,779億円(2024年度比2.1倍)に達すると予測しています。

項目IDC Japan富士キメラ総研
対象AIシステム市場(支出額)AI関連市場
期間の単位暦年年度
直近の実績・見込み2024年 1兆3,412億円2025年度 1兆8,301億円
予測2029年 4兆1,873億円2029年度 3兆1,779億円
伸び2024→2029年で3.1倍2024年度→2029年度で2.1倍
製造業の内訳発表に含まれない発表に含まれない
発表2025年5月2026年(報道は2026年4月)

IDCは2029年に4兆円超、富士キメラ総研は2029年度に3兆円超と予測しており、同じ「国内AI市場」でも約1兆円の差があります。これは片方が誤っているのではなく、何を市場に含めるか(支出か売上か、ハードウェアやサービスをどこまで含むか)と、暦年か年度かが違うためです。

二次報道でも数字はずれます。IDCの発表を伝えたクラウドWatchの記事は、見出しで「56.6%増」、本文で「56.5%」としていました。市場規模を引用するときは、報道記事ではなく発表元のリリースを確認します。

製造業の内訳はどちらも直接示していない

重要な点は、IDCの発表にも富士キメラ総研の発表にも、製造業の内訳が含まれていないことです。「製造業AI市場は◯億円」と書く記事は、全体の市場から製造業の比率を独自に推計していることになります。その推計方法が書かれていない数字は、根拠として使えません。

製造業に関係する数字としては、次のようなものがあります。いずれも「製造業AI市場」とは定義が違う点に注意してください。

  • JEITAは、製造分野の生成AI需要を2030年に日本で約3,932億円、世界で約507億ドルと見込んでいます(2023年12月発表)。生成AIに限った需要額の見通しです
  • 富士キメラ総研は、生成AI導入支援サービスが2030年度に750億円規模になると予測し、製造業でスマートファクトリー投資が省人化・自動化を目的に増えるとしています(2024年4月発表)
  • 富士キメラ総研の業種別IT投資調査では、IT投資額が最も多いのは製造業とされています(2024年10月報道)

海外の推計は6倍開いている

海外の「AI in Manufacturing」市場の推計は、さらに大きく食い違います。

2025年の製造業AI市場
341.8億ドル
MarketsandMarkets(2025年発表)
2025年の製造業AI市場
約70億ドル
BCC Research(2025年12月報道)
2025年の製造業AI市場
71億ドル
Grand View Research(2026年閲覧時点の分析ページ)

2025年時点の推計は約55億〜342億ドルと、約6倍の開きがあります。ハードウェアを含めるか、ソフトウェアだけか、ロボットを含めるかといった市場の定義の違いが原因とされます。同じGrand View Researchでも、2025年5月のリリースでは2030年に478.8億ドル(CAGR 46.5%)、その後の分析ページでは2033年に1,724億ドル(CAGR 50.8%)と、版によって数字が更新されています。

中国でも同様です。IDCによる2024年の中国の工業大模型応用市場は約12.1億元ですが、別の統計である2025年上半期の大模型ソリューション市場は30.7億元(製造業に限らない)で、対象範囲も期間も違います。IDCの中国工業AI支出の予測は、新华网の報道ではCAGR 37.7%、IDCの公式ブログでは38%となっていました。

市場規模を読む4つの軸 何を数えるか支出額 / 売上関連市場の範囲 何を含むかHW・SW・サービスロボットの有無 いつの数字か暦年 / 年度実績 / 見込み / 予測 どの業種か全業種 / 製造業推計方法の明示
市場規模の数字は、定義の4つの軸で読み分ける。

市場規模より自社の判断に効く数字

市場規模は、事業計画や新規事業の検討には使えますが、自社がAIに投資するかどうかの判断にはあまり役立ちません。工場のAI投資を判断するときは、次のような導入率と成果の数字の方が参考になります。

  • 製造工程にAIを導入済みの企業は12.2%、大企業で31.3%(JILPT調査、2025年5月、2025年版ものづくり白書で引用)
  • 製造データを取得している事業者は66.0%、活用は51.4%、効果が出たのは43.9%(2026年版ものづくり白書、RIETI BBL資料)
  • AIで具体的な価値を出せていない企業は74%(BCG、2024年10月)

導入率の数字も調査ごとに定義が違います。詳しくは 製造業のAI導入率はどこまで進んだか で整理しています。海外の市場推計の食い違いは 製造業AI市場規模の推計はなぜ6倍違うのか で詳しく扱っています。

よくある質問

製造業AIだけの国内市場規模はありますか

主要調査会社の公開リリースでは、製造業に絞った国内AI市場規模は示されていません。製造分野の生成AI需要(JEITA)や、スマートファクトリー関連の予測など、定義の違う数字を組み合わせて推計するしかありません。

IDCと富士キメラ総研、どちらの数字を使うべきですか

目的によります。企業のIT支出の規模感を示したいならIDCの支出額、AI関連ビジネスの市場規模を示したいなら富士キメラ総研の関連市場が近い定義です。どちらを使う場合も、定義と年次を併記してください。

海外の市場規模の予測はなぜ版ごとに変わるのですか

調査会社は定期的に定義や基準年を見直し、予測を更新します。同じ会社でも発表時期が違えば数字が変わるため、引用するときは発表日を必ず書きます。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。