製造・サプライチェーン向けJoule Agent 5種

SAP(ドイツ)は、自社の生成AIアシスタント「Joule」の上で、特定の業務を実行するAIエージェント(Joule Agent)を展開しています。製造とサプライチェーンに関係するものは次の5種です。

エージェント主な機能発表・提供状況
Shop Floor Supervisor Agent現場監督者の業務支援Sapphire 2025(2025年5月)で計画発表、Q3 2025リリースでベータ公開
Production Planning and Operations Agent製造指図のリリース前に資材・能力・スケジュールの準備状況を確認2025年10月発表
Maintenance Planner Agent保全計画者の業務支援Q2 2025リリースでベータ
Change Record Management Agent問題報告・変更要求をレビューし、設計変更プロセスを開始2025年10月発表
Supplier Onboarding AgentSAP Business Network上でのサプライヤー登録2025年10月発表

このほか、Field Service Dispatcher Agent(フィールドサービスの配車)やSourcing Agent(調達)も発表されています。2025年5月のSapphire 2025では、JouleとMicrosoft 365 Copilotの双方向連携(2025年Q2〜Q3)も発表されました。

効果の数字はSAPの推定値

SAPは各エージェントの効果を数字で示していますが、いずれも同社の推定値(見込み値)です。

Shop Floor Supervisor Agentによる監督者生産性の向上
50%
SAP推定(Q3 2025リリース、2025年10月)
同・計画外停止の削減
2%
同上
Maintenance Planner Agentによる保全計画者生産性の向上
最大40%
SAP見込み値(Q2 2025リリース、2025年7月)
Joule with SAP Digital Manufacturingによる洞察取得時間の短縮
30%
同上

Q2 2025リリースでは、Maintenance Planner Agent(ベータ)が保全計画者の生産性を最大40%向上・計画外停止を最大1%削減、Field Service Dispatcher Agent(ベータ)がディスパッチャーの生産性を最大50%向上、Sourcing AgentがRFP作成時間を最大70%削減とされました。一般提供されているJoule with SAP Digital Manufacturingは洞察取得時間を30%短縮、AI支援の生産エンジニアリング(ベータ)はエラー分析時間を最大25%短縮としています。

人の承認を前提にした設計

SAPのエージェントは、人の承認を前提にした設計になっています。Field Service Dispatcher Agentについて、SAPは各提案をディスパッチャーが検証すると説明しています。Production Planning and Operations Agentも、製造指図をリリースする前の確認を担う位置づけです。

これは、Deloitteがエージェント型AIの製造業での使い方として、調達担当・生産技術者・生産計画担当による承認ゲートを推奨している考え方と一致します(エージェント型AI利用6%の記事)。

ERP側からMESの上の「エージェント層」を取りに来ている

SAPのJoule Agentの並びを見ると、ERPの業務(計画、保全計画、調達、設計変更)に加えて、Shop Floor Supervisorのように製造現場の監督業務にまで範囲を広げています。これは、MESやERPの上に乗る「エージェント層」をERP側から押さえに来る動きと読めます。

ERP、MES、設備の3層の上にエージェント層があり、SAP、Siemens、Microsoftがそれぞれ異なる方向から狙っている図 エージェント層(現場監督・計画・保全の判断支援) ERP(計画・購買・保全計画) MES(作業指示・実績・品質) 設備・制御(PLC・SCADA) SAP Siemens Microsoft
エージェント層をめぐる位置関係。SAPはERP側から、Siemensは自動化・MES側から、Microsoftは基盤側から同じ層を狙う。

SiemensはIndustrial Copilotの背後にエージェントを入れ、サードパーティ製を含むエージェントのマーケットプレイスを構想しています。MicrosoftはFabricとFactory Operations Agentで基盤側から同じ層を狙っています。どの会社がこの層を握るかは、製造業の今後のシステム構成に大きく影響します(産業AIエージェントの主戦場)。

MESを持つ工場がERP側のエージェントと付き合う方法

SAPのERPを使い、別のMESで現場を管理している工場では、Shop Floor Supervisor Agentのような現場寄りのエージェントの扱いに注意が必要です。

  1. データの正をどこに置くか:作業実績、停止理由、品質判定の正(マスター)がMESにある場合、ERP側のエージェントはMESから連携されたデータで判断することになります。連携の遅れや粒度の違いが、エージェントの判断の精度を左右します
  2. 指示の経路:エージェントが現場への指示(作業の優先順位変更など)を出す場合、それがMESの作業指示とどう整合するかを決めます。ERPとMESから別々の指示が出る状態は避けます
  3. 役割分担:計画・調達・保全計画のようにERPで完結する業務はERP側のエージェント、作業指示・品質判定・トレーサビリティに関わる判断はMES側、と役割を分けて考えるのが現実的です

よくある質問

Shop Floor Supervisor Agentは日本で使えますか?

Q3 2025リリース(2025年10月)でベータとして公開されました。日本での提供状況と日本語対応は、公開資料では確認できません。SAPジャパンに確認が必要です。

SAPのエージェントを使うにはSAP Digital Manufacturingが必要ですか?

エージェントごとに前提となるSAP製品が異なります。Joule with SAP Digital ManufacturingはSAPのMES製品が前提ですが、他社のMESを使う場合の連携方式は、エージェントごとに確認が必要です。

監督者生産性50%向上は実績ですか?

SAPの推定値です。Q3 2025リリースでShop Floor Supervisor Agent(ベータ)について示された数字で、顧客の本番環境での測定値ではありません。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。