Gartnerが指摘した「エージェント・ウォッシング」
Gartnerは2025年6月25日、エージェント型AI(Agentic AI)のプロジェクトの40%超が、コストの増大、価値の不明確さ、リスク管理の不足を理由に2027年末までに中止されるという予測を発表しました。同じ発表で、既存のAIアシスタント、RPA、チャットボットを「エージェント」と称して売る動きを「エージェント・ウォッシング(agent washing)」と呼び、エージェント型AIをうたうベンダー数千社のうち、実態を伴うのは約130社と推定しています。
同じGartnerの2025年1月の調査(3,412人)では、エージェント型AIに大規模に投資している組織は19%、控えめな投資が42%、投資していないが8%、様子見・不明が31%でした。製造業に絞ると、Manufacturing Leadership Councilの2025年初頭の調査で、エージェント型AIを現在使っている製造業は6%、2年以内に使う予定は24%です(Deloitteの2025年9月のレポートによる)。
製造業向け製品は「何を実行するか」で3段階に分ける
「エージェント」の定義は各社で異なるため、名称で比べても意味がありません。当サイトでは、AIが何を実行できるかで3段階に分けて比べることを勧めています。
この軸で欧米大手の製造業向け製品を見ると、公表資料の範囲では次のように整理できます。
| 製品 | 公表されている動作 | 区分の目安 |
|---|---|---|
| Siemens Industrial Copilot(Engineering) | 自然言語からPLCコード(SCL)を生成。2025年5月に背後へオーケストレーター型のエージェントを導入すると発表し、「ユーザーがどのタスクを委ねるかを選ぶ」設計 | 1→2へ移行中 |
| SAP Joule Agents(Production Planning and Operations Agent) | 製造指図をリリースする前に資材・能力・日程の準備状況を確認 | 2 |
| SAP Field Service Dispatcher Agent | 各提案をディスパッチャーが検証する | 2 |
| Microsoft Factory Operations Agent | OT/ITデータを統合し、自然言語で生産の洞察を返す | 1 |
| Tulip AI Composer | 文書からアプリを生成し、人がレビュー・修正して選択適用する | 2 |
| AWS Bedrock AgentCore | エージェントの実行基盤。2025年12月にツールアクセス制御(Policy)と品質の継続監視(Evaluations)を追加 | 基盤(区分は作り方次第) |
製品名に「Agent」と付いていても、公表された動作の大半は区分1か2です。区分3の自律実行を製造現場の業務システムで行っている公開事例は、公表情報の範囲ではまだ限られます。
選定時に確認する5つの質問
製品がどの区分に当たるかは、デモや資料ではなく、次の質問への回答で判断します。
- どのシステムに書き込めるか:MES・ERP・CMMS・設備(PLC)のうち、書き込みのAPIを持つのはどれか
- 書き込みの前に誰が承認するか:承認のUI、承認者の設定、承認を省略できる条件
- 複数手順の計画を自分で立てるか:固定のワークフローを順に呼ぶだけか、状況に応じて手順を組み替えるか
- 失敗したときにどう止まるか:途中で失敗した処理の取り消し、人への引き継ぎ
- 何を記録するか:判断の根拠、呼び出したツール、変更前後の値の監査証跡
3の答えが「固定のワークフロー」であれば、従来のワークフロー自動化とAIアシスタントの組み合わせです。それ自体は悪いことではなく、製造現場ではむしろ安全な設計です。問題は、それを自律的なエージェントとして価格付けしている場合です。
日本での受け止め方との差
日本語の報道では2025年以降「エージェント元年」という表現が多く使われました。一方、欧米の調査が示すのは、実導入率の低さ(製造業で6%)と、中止の多さの予測です。この温度差の背景にある数字は製造業のエージェント型AI利用は6%で詳しく比較しています。また、エージェント・ウォッシングを製品選定の観点から扱った記事として生成AIの「エージェント」表記を見分けるもあります。
GartnerはエージェントAIの将来を否定しているわけではなく、2028年までにエンタープライズソフトウェアの33%がエージェント型AIを組み込み(2024年は1%未満)、日常業務の判断の約15%を自律的に行うとも予測しています。現時点の製品の多くが名称に追いついていないというのが、同社の指摘の趣旨です。
よくある質問
「Copilot」と「エージェント」の違いは何ですか?
各社の定義は統一されていません。一般には、Copilotは人の作業を支援して回答や下書きを返すもの、エージェントは目標に向けて複数の手順を計画し、ツールを呼び出して実行するものを指します。製品を比べるときは名称ではなく、書き込み権限と承認の仕組みで判断します。
約130社というのは製造業向けのベンダー数ですか?
いいえ。Gartnerの推定は業種を問わないエージェント型AIのベンダー全体についてのものです。製造業向けに限った数字は公表されていません。
区分3の自律実行は製造業では使わないほうがよいですか?
使ってはいけないわけではありません。再スケジュールの範囲、変更できるパラメータの上下限、停止条件を明確に決め、監査証跡を残せるなら、限定された範囲での自律実行は成り立ちます。ただし安全に関わる制御には使わないのが原則です。
- Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027(Gartner, 2025年6月25日)
- From vision to value: Agentic AI in manufacturing(Deloitte Insights, 2025年9月23日)
- Siemens introduces AI agents for industrial automation(Siemens, 2025年5月12日)
- SAP's New Joule Agents Automate Key Supply Chain Management Tasks(Food Logistics, 2025年10月9日)
- SAP Business AI Release Highlights Q2 2025(SAP, 2025年7月24日)
- Microsoft Launches New AI Agents for Factory Automation(AI Business, 2025年4月1日)
- AI Composer: Operations-First Design(Tulip, 2026年1月2日)
- AWS re:Invent 2025 recap: automotive and manufacturing highlights(AWS, 2025年12月18日)
