「最も切迫した課題は市場側にある」

IDC中国の杜艳泽は、「中短期内,'AI+制造'产业升级面临的最核心、最迫切的挑战,仍然主要来自'市场侧'而非'技术侧'」と述べています(经济参考报/新华网、2026年3月9日)。中短期で見ると、AI+製造の高度化で最も核心的で切迫した課題は、技術側ではなく市場側にある、という趣旨です。

この発言を裏づけるのが、中国信通院の2025年調査です。AIを使う中小企業(サンプル6,000超)のうち、全業務プロセスにAIを組み込んでいる企業は4%にとどまりました(南方财经、2026年7月15日)。

AIを全業務プロセスに組み込んだ中小企業の比率
4%
中国信通院2025年調査(AI利用中小企業6,000超、南方财经2026年7月15日)
大模型・智能体を使う工業企業の比率
47.5%
IDC(2025年、新华网2026年3月9日報道)
中国のAI企業数
6,600社超
中国信通院(2026年6月時点、中国日报2026年8月3日)

「使っている」企業は多いが、「業務に組み込んだ」企業は少ない。供給側には6,600社超のAI企業がいる。この3つの数字は、定義も対象も違うため直接比較はできませんが、供給が先行し、需要側の組込みが追いついていない構図を示しています。

供給側は厚い:政策・資金・ベンダー

供給側の厚さは、他の記事で扱った数字からも分かります。2026年1月の「"人工智能+制造"专项行动实施意见」は、2027年までに3〜5個の通用大模型の製造業への深度応用や、高品質データセット100個を目標にしました。8銀行は「AI+制造」向けに4,000億元の与信枠を設けています(上海证券报、2025年7月29日)。モデル提供者も増え、信通院のデータではAI産業のモデル層が2025年に189%伸びました。

需要側の壁は何でできているか

市場側の課題の中身について、杜艳泽の発言そのものは詳しく分解していません。ここからは、中国の公開情報と、日本の工場で見られる課題を重ねて整理します(分類は本記事による)。

供給側の3要素と需要側の4つの壁の対比 供給側(先行) 政策目標・補助金融(与信4,000億元)AI企業6,600社超 壁 需要側(遅れ) データが整っていない投資の50〜60% 効果が測れないKPIと業務が未定義 人と組織使う人・決める人 支払い能力中小の資金と回収
供給側と需要側のギャップ。技術と資金は届いていても、需要側の4つの壁で組込みが止まる。
壁中国の公開情報日本の工場での現れ方
データが整っていない当局者が「投資の50〜60%はデータ工学」と発言(新华网、2025年9月)PoCは手作業のデータで成功、本番化で収集の仕組みがない
効果が測れない政策が「效果付费」(成果報酬型)を支持(C114、2026年1月)効果のKPIが決まらず、継続投資の判断ができない
人と組織実施意見が企業の首席データ官制度を推進AIの出力を誰が使い、誰が責任を持つか決まっていない
支払い能力地方政府が算力券・模型券で中小企業を支援中小企業はAIの継続費用を負担しにくい

中国の政策が、データセットの国家整備、成果報酬型の課金、首席データ官、バウチャーといった需要側の手当てを並べているのは、壁がこの4つにあると当局も見ているからだと読めます(推測)。

日本の工場への示唆:壁は同じ場所にある

日本でも、製造業のAIがPoCで止まる理由として、データ整備・効果測定・推進体制の不足がよく挙げられます(PoCで止まる製造業AIを本番に載せる6つの条件を参照)。中国は政策と資金で供給側を大きく押し上げましたが、それでも需要側の組込みは4%にとどまっています。供給を増やすだけでは壁を越えられないことを、中国のデータは示しています。

中小企業ほど壁は高い

信通院の4%は中小企業の調査です。大企業では、美的や海尔のように自社でAIプラットフォームを作り、数十のエージェントを工場に展開する例が出ています。一方、中小企業は、データの整備、AI人材、継続費用のいずれも不足しがちです。

中国で中小企業向けに出てきている解決策は、年額制のAIツールや成果報酬型の課金、政府のバウチャーです。中小企業がゼロからAIを作るのではなく、業務に合わせたツールを安く使う方向で、日本の中小製造業にとっても参考になる形です。事例は中国の中小製造業とAIエージェントで扱っています。

よくある質問

「市場側」とは具体的に何を指しますか

発言の原文は「市场侧」と「技术侧」を対比したもので、詳細な分解は示されていません。本記事では、需要側の企業がAIを受け入れて業務に組み込む能力(データ、効果測定、組織、資金)を指すものとして整理しています。

4%は大企業も含めた数字ですか

信通院の調査はAIを使う中小企業を対象にしたものです。大企業を含む全体の組込み率としては使えません。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。