2つの数字は別のものを数えている

经济参考报(新华网、2026年3月9日)が伝えたIDCのデータによると、大模型または智能体(AIエージェント)を使う中国の工業企業の比率は、2024年の9.6%から2025年に47.5%へ上がりました。研究開発・製造・サプライチェーンを横断して使う企業は、1.7%から35%になっています。

一方、腾讯研究院などが2024年3月に出した「工业大模型应用报告」は、Capgeminiのデータを引いて、中国製造業のAI導入率を11%未満としていました。同じ資料では、欧州のトップが30%超、日本が30%、米国が28%とされています。

1年余りで11%未満から47.5%になったと読むと、急激すぎる変化に見えます。しかし、この2つは定義が違うとみられ、時系列でつなげることはできません。

項目IDC(2025年)Capgemini(腾讯研究院引用、2024年3月時点)
数値47.5%(2024年は9.6%)11%未満
数えている対象大模型または智能体を使う工業企業製造業のAI導入
AIの範囲生成AI系(大模型・エージェント)AI全般(調査の定義による)
「使う」の定義出典の報道では詳細不明出典の報道では詳細不明
調査対象企業出典の報道では詳細不明出典の報道では詳細不明

表のとおり、定義の詳細は二次報道からは確認できません。分かっているのは、IDCは大模型・智能体に限った利用率、Capgeminiはより広いAI導入の指標であり、両者は同じ物差しではないという点までです。

「使っている」の幅は大きい

大模型の「利用」は、社員が業務で汎用チャットを使うだけでも数えられる場合があります。一方、工場の生産工程にAIを組み込むことを「導入」と数える調査もあります。どちらを数えるかで、同じ企業群でも数字は数倍変わります。

個人利用から全業務組込みまでの4段階のピラミッド 全業務に組込み 部門横断で業務に組込み 特定業務・特定ラインで利用 個人・部門が汎用ツールを試用 信通院:中小企業で4% IDC:横断利用35%
「AIを使っている」の段階。どこから数えるかで導入率は大きく変わる。

参考になるのが、中国信通院の2025年調査です。AIを使う中小企業(サンプル6,000超)のうち、全業務プロセスにAIを組み込んでいる企業は4%にとどまりました(南方财经、2026年7月15日)。IDCの「横断利用35%」と信通院の「全業務組込み4%」は、対象企業の規模も定義も違いますが、少なくとも「利用」と「組込み」の間に大きな差があることを示しています。

大模型・智能体を使う中国工業企業の比率
47.5%
IDC(2025年、新华网2026年3月9日報道)
研究開発・製造・SCを横断して使う企業
35%
同上(2024年は1.7%)
全業務プロセスにAIを組み込んだ中小企業
4%
中国信通院2025年調査(AI利用中小企業6,000超、南方财经2026年7月)

日本の数字と比べるときの注意

日本でも、製造業のAI導入率は調査によって大きく違います。製造工程にAIを導入済みの企業を数える調査と、生成AIを個人で使った経験を数える調査では、同じ年でも数倍の差が出ます(製造業のAI導入率はどこまで進んだかを参照)。

日中の数字を比べるときは、少なくとも「AIの範囲(生成AIか全般か)」「使用の段階(試用か組込みか)」「対象(企業か個人か)」の3つが揃っているかを確認してください。揃っていない比較で「中国は日本の○倍進んでいる」と結論づけるのは誤りです。

横断利用35%が示すもの

IDCの数字で、47.5%より注目すべきなのは「研究開発・製造・サプライチェーンを横断して使う企業」が1.7%から35%になったという点です。部門をまたいでAIを使うには、部門間でデータやシステムがつながっている必要があります。

ただし、この「横断」も定義の詳細は報道からは分かりません。3部門それぞれで別々のツールを使っていても「横断」と数えられる可能性があります。日本の工場で同じことを測るなら、部門ごとのツール利用ではなく、ある部門のAIの出力が別の部門の業務に使われているか(例:品質予測の結果が生産計画に反映されているか)で見るほうが、つながりの実態を表します。

自社の導入状況はどの定義で測るべきか

市場データの読み方は、自社の導入状況の測り方にも当てはまります。「AIを使っている部署がある」は導入率としては甘すぎ、経営判断には使えません。

この数え方の詳細はAI応用率が認定要件にでも扱っています。

よくある質問

IDCの47.5%は信頼できない数字ですか

数字自体を否定する根拠はありません。問題は定義が二次報道から読み取れないことと、他の調査と並べて使われることです。引用するときは「IDCによる、大模型または智能体を使う工業企業の比率」と定義ごと書けば、誤解は避けられます。

9.6%から47.5%へ1年で5倍になったのは不自然ではありませんか

汎用チャットなど導入の敷居が低い使い方も「利用」に含まれるなら、短期間で比率が大きく上がること自体はあり得ます。ただし、組込みの深さは別問題で、信通院の4%が示すように、業務への本格的な組込みはまだ少数です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。