設計レビューで生成AIに期待できるのは「見落としの候補」

設計レビュー(DR、デザインレビュー)は、設計の各段階で関係部門が設計内容を確認し、問題を早期に見つける活動です。課題として多いのは、過去に同じ指摘を受けた内容が繰り返される、レビューアによって見る観点が違う、設計基準の改訂が設計者に伝わっていない、の3つです。

生成AIがこれらに効くのは、「過去の指摘・設計基準・過去トラと、今回の設計を照らし合わせ、該当しそうなものを挙げる」作業です。設計が妥当かどうかの判断は、レビューアと設計者が行います。生成AIを判断の代わりに使うと、AIが挙げなかった問題は検討されないという逆効果が生まれます。

動向:3D CADの設計ルールチェックと検図の自動化

設計レビューの周辺では、生成AIや設計ナレッジを使う製品と検証が出てきています。

時期内容状況
2026年9月日立が3D CADの設計ルール違反を自動チェックする「設計ナレッジシステム」を提供開始提供開始(同社発表)
2026年9月新晃工業とABEJAが空調機などの設計業務でAIによる自動検図システムの検証を開始検証段階
2026年7月Dassault Systèmesの3DEXPERIENCE上のAIコンパニオンLEOが全世界提供。単一の指示から組立構造の生成、シミュレーション実行、設計評価が可能とされる提供中(同社ブログ)

日立は品質保証向けの「品質ナレッジシステム」(2026年6月提供開始)に続いて設計向けを出しており、品質と設計のナレッジを分けて整備していることがわかります。CAD・PLMベンダー各社のアシスタントの比較はCAD・PLMの生成AIアシスタント比較で扱っています。

抜け漏れチェックの3手順

照合の仕組みは、ナレッジの整備、変化点での照合、採否の記録の3手順で回します。

手順1:照合の元になるナレッジを整える

生成AIに照合させるには、照合先のナレッジが検索できる状態になっている必要があります。

  • 過去のDR指摘事項:指摘内容、対象部位、設計段階、対応結果。Excelや議事録に散らばっていることが多い
  • 設計基準・設計標準:社内の設計ルール、推奨寸法、材料選定基準。最新版を特定する
  • 過去トラ:市場不具合、工程内不良、試作評価での不具合。設計起因のものを抽出する
  • 顧客要求・法規:顧客の技術要求書、適用法規の要点

過去のDR指摘事項は、最も価値があるのに最も整理されていない情報です。指摘ごとに「部位」「現象」「設計段階」の項目を付けて1件ずつ記録し直すだけでも、検索の精度は大きく上がります。過去トラの検索方法は品質記録・過去トラのRAG検索を参照してください。

手順2:設計の変化点を入力にして照合させる

照合の入力には、設計の全体ではなく、前の設計からの変化点を使います。全体を渡すと、関係の薄い指摘や基準が大量に返り、確認の手間が増えます。

設計の変化点を入力に、過去のDR指摘、設計基準、過去トラを検索し、見落とし候補一覧をレビューアが判断する流れ 設計の変化点形状・材料・部品 過去のDR指摘 設計基準(最新版) 過去トラ 見落とし候補一覧 レビューアが判断
設計レビュー前の照合の流れ。変化点ごとに3種類のナレッジを検索し、該当候補を一覧にする。

手順3:候補をレビューの議題にし、採否を記録する

生成AIが挙げた候補一覧は、設計者が事前に確認し、該当するものは対応方針を決めてからレビューに臨みます。レビューでは候補一覧を議題の1つとし、レビューアが採否を判断します。

採否の記録を残すことが重要です。「候補に挙がったが該当しない」と判断した理由も残しておくと、次の設計で同じ候補が挙がったときの判断が速くなり、指示文の改善にも使えます。

データの扱いと実行環境

設計情報は社内の情報の中でも機密度が高く、顧客から預かった仕様が含まれることもあります。照合に使う生成AIは、入力データが学習に使われない契約の環境か、閉域・オンプレミスの環境で動かします。選択肢は製造業のローカルLLM・オンプレ生成AIで整理しています。

FMEAでの過去トラ照合も、同じナレッジ基盤を使えます。設計レビューとFMEAで基盤を共有すると、整備の手間が一度で済みます。詳しくはFMEAを生成AIで支援するを参照してください。

よくある質問

図面そのものを生成AIにレビューさせることはできますか?

図面から寸法や注記を読み取る技術は進んでいますが、読み取りの誤りが残ります。図面の自動検図は、特定のルール(記入漏れ、規格外の記号など)に限定した検証から始め、寸法の妥当性の判断は人が行う前提にしてください。

過去のDR指摘事項が議事録にしか残っていません。使えますか?

議事録から指摘事項を抽出する作業自体に生成AIを使えます。抽出結果を設計部門の担当者が確認し、部位・現象・設計段階の項目を付けて登録し直すと、検索に使える形になります。

設計レビューの効果はどう測ればよいですか?

後工程(試作評価、量産立上げ、市場)で見つかった設計起因の不具合のうち、DRで見つけられたはずのものの件数を追います。生成AIの照合結果の採用件数だけを効果とすると、レビューの質の変化はわかりません。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。