過去トラ検索が難しいのは「同じ現象が違う言葉で書かれる」から
不具合報告の自由記述欄は、同じ現象でも書き手によって表現が変わります。「バリ」「かえり」「エッジ残り」、「ガタ」「がたつき」「遊び過大」、「ショート」「短絡」のように、部門や世代で言い方が違います。略語や社内の通称(設備の愛称、治具番号)も混ざります。
生成AIの意味検索(ベクトル検索)は、言い換えにはある程度強い一方、品番や不良コードのような記号の一致には弱いという性質があります。品番「12345-A」と「12345-B」は文字列としてはほぼ同じですが、別の部品です。過去トラ検索では、言い換えへの強さと、記号の厳密な一致の両方が必要になります。
日立は2026年6月に提供を始めた品質保証業務向けの「品質ナレッジシステム」で、自社工場のトラブル対応事例の検索時間を約9割削減したとしています(同社発表)。こうした成果は、記録の側の整備があって初めて出るものです。以下の4条件を順に確認してください。
記録の側の条件:構造化項目と不良コード
4つの条件のうち、最初の2つは記録の側、残りの2つは検索と回答の側の条件です。
条件1:構造化項目と自由記述を分けて持つ
不具合報告のうち、品番、工程、設備、不良コード、発生日、ロット、顧客は構造化項目として持ち、現象・原因・対策の自由記述とは分けて保存します。構造化項目はキーワードや絞込みで、自由記述は意味検索で探します。
| 項目 | 種類 | 検索での使い方 |
|---|---|---|
| 品番・品番群 | 構造化 | 完全一致または品番群での絞込み |
| 工程・設備 | 構造化 | 絞込み、類似工程への拡張 |
| 不良コード | 構造化 | 絞込み、上位分類での集約 |
| 発生日・ロット | 構造化 | 期間の絞込み、MESのロット履歴との突合 |
| 現象の記述 | 自由記述 | 意味検索(言い換えに強い) |
| 原因・対策の記述 | 自由記述 | 意味検索、回答の根拠として提示 |
構造化項目が報告書に入っていない場合は、MESや品質管理システムから補います。ロット番号が分かれば、MESのロット履歴から品番・工程・設備・作業日を引けるためです。
条件2:不良コードの粒度が揃っている
構造化項目の中でも、不良コードの品質が検索精度を大きく左右します。「その他」が全体の3割を占める、工場ごとにコード体系が違う、同じ現象に複数のコードが使われている、といった状態では、絞込みがかえって取りこぼしを生みます。
不良コードは、上位分類(外観・寸法・機能・異物など)と下位分類の2階層にし、検索ではまず上位分類で絞り、件数が多いときに下位分類で絞る使い方が安定します。コード体系の見直し方は不良コード・停止理由コードの設計で扱っています。
検索と回答の側の条件:ハイブリッド検索と原文の提示
条件3:ハイブリッド検索と同義語辞書を使う
意味検索とキーワード検索を組み合わせるハイブリッド検索にし、社内の同義語辞書を用意します。
同義語辞書は、過去の報告書から頻出語を抜き出し、品質保証の担当者が「同じ意味」のグループを決めて作ります。生成AIに候補を出させて人が確認すると、作業が速くなります。数百語程度の辞書でも、取りこぼしは目に見えて減ります。
条件4:回答には事例番号と原文を必ず付ける
過去トラ検索の回答は、生成AIの要約だけを見せず、根拠にした事例の番号と原文へのリンクを必ず付けます。過去の対策が現在の設計や工程にそのまま当てはまるとは限らず、判断には原文の条件(当時の材料、設備、設計)を読む必要があるためです。
評価の手順は社内文書RAGの評価方法、過去トラを8Dレポートの下書きに使う方法は8Dレポート・不具合報告書を生成AIで下書きするで扱っています。
顧客問い合わせ対応への広げ方
過去トラの検索基盤は、顧客からの品質問い合わせへの回答にも使えます。パナソニック プロジェクター&ディスプレイは2026年9月、PKSHAのAI SaaS 2製品を導入し、品番単位の専門的な問い合わせに答えられるようにしたと報じられています。社外向けの回答に使う場合は、回答を担当者が確認してから送る工程を必ず残します。
よくある質問
紙の不具合報告書しかない場合はどうすればよいですか?
まずスキャンとOCRでテキスト化し、品番・発生日・不良区分だけは人が入力して構造化項目にします。全件を一度に整備する必要はなく、直近数年分から始めて、よく参照される品番群を優先します。
他工場や海外工場の不具合報告も一緒に検索できますか?
できますが、不良コード体系や言語が違うと精度が落ちます。コード体系の対応表を作り、他言語の報告は原文と翻訳文の両方を索引に入れる方法が一般的です。
不具合の真因を生成AIに推定させてもよいですか?
過去の類似事例から原因の候補を挙げさせることはできます。ただし真因の判定は、現物の調査と再現試験に基づいて品質保証の担当者が行います。生成AIの候補は調査の抜け漏れ確認に使ってください。
