8Dで生成AIが効くのは「文書化」、効かないのは「判定」

8D(Eight Disciplines)は、不具合の発生から再発防止までを8つのステップで記録する問題解決の手法で、自動車業界を中心に顧客への報告書の形式として広く使われています。8Dレポートの作成に時間がかかる理由は、調査そのものより、散らばった事実を集めて顧客が読める文章にまとめる作業にあることが多くあります。

生成AIが効くのはこの「集めてまとめる」部分です。一方で、真因が何か、対策が十分かを判定するのは、現物を調べ、再現試験を行った担当者の仕事です。生成AIの出力を判定の根拠にすると、もっともらしいが検証されていない原因が報告書に入り込みます。

D1〜D8ごとの任せ方

ステップ内容生成AIに任せる範囲人が行うこと
D1 チーム編成対応メンバーの決定過去の類似案件の担当部門の提示メンバーの決定
D2 問題の記述5W2Hで現象を記述クレーム文・検査記録・MESデータからの下書き事実との照合、数値の確認
D3 暫定対策流出防止・選別対象ロットの範囲の集計(MESから)対策の決定と実施
D4 真因の特定発生原因・流出原因過去トラからの要因候補の列挙、なぜなぜの整理現物調査、再現試験、真因の判定
D5 恒久対策の選定対策案の比較過去の対策例の提示対策の選定
D6 恒久対策の実施対策の実施と効果確認効果確認データの集計と文章化効果の判定
D7 再発防止標準類・FMEAの改訂改訂が必要な文書の候補の提示改訂内容の決定と承認
D8 完了チームの評価報告書全体の体裁の統一、翻訳最終承認

表の右列は、どのステップでも省略できません。特にD4の真因の判定とD7の文書改訂の承認は、顧客に対して会社が責任を負う内容です。

D1からD8の各ステップで生成AIに任せる度合いを示した棒グラフ風の図 D1 D2 D3 D4 D5 D6 D7 D8 高い棒=下書きを任せやすい/金色=判定を伴うため候補出しのみ D2(現象記述)とD8(体裁の統一)が最も任せやすい
8Dの各ステップで、生成AIの関与の度合いが変わる。判定のステップでは候補出しに限定する。

D2の下書きにはMESのロット履歴を渡す

D2の問題記述で生成AIに渡すべき材料は、顧客のクレーム文だけではありません。事実の裏付けになるのは、MESや品質管理システムが持つロット履歴です。

  • 対象ロットの製造日、ライン、設備、作業者、材料ロット
  • 対象ロットの工程内検査・出荷検査の記録
  • 同じ期間に発生した設備停止、段取り替え、条件変更の記録
  • 前後のロットの不良率

これらをMESから取り出して生成AIに渡すと、「いつ・どこで・何が」の記述を事実に基づいて下書きできます。逆に、クレーム文だけを渡すと、生成AIは製造条件について推測で補います。ロット履歴の取り出し方は製品系譜(ジェネオロジー)で不良の真因を追うで扱っています。

「入力にない情報は未確認と書く」「原因の推定を書かない」の2つの指示が重要です。これがないと、生成AIは文章を完成させるために推測を埋めます。

D4は「候補の網羅」に使い、判定には使わない

D4で生成AIが役立つのは、要因の候補を漏れなく挙げる場面です。過去トラの検索結果と、4M(人・機械・材料・方法)の観点を与えて候補を出させると、担当者が見落としていた要因が挙がることがあります。過去トラの検索方法は品質記録・過去トラのRAG検索を参照してください。

社外に出す文書としての注意点

8Dレポートは顧客に提出する文書です。生成AIを使う場合、次の点を社内ルールとして決めておきます。

  1. 入力する情報の範囲:顧客名や製品の機密情報を入力してよい環境か(社内環境か、入力データが学習に使われない契約か)
  2. 生成部分の扱い:下書きであることを社内で明示し、最終版は担当者と承認者が全文を確認する
  3. 数値の確認:すべての数値を元データと照合する
  4. 翻訳:海外の顧客向けに翻訳する場合も、品質用語の訳語は社内の用語集に揃える

生成AIの利用ルール全般は製造業の生成AI利用ガイドラインの作り方で扱っています。

よくある質問

8Dの作成時間はどれくらい短くなりますか?

公表された製造業の定量事例は限られます。効果は、事実の収集にかかる時間(MESデータの取り出し)と、文章化の時間の比率で決まります。導入前に、1件あたりの作成時間をステップ別に記録しておくと、効果を測れます。

顧客指定の様式に合わせて出力できますか?

様式の項目と記入例を指示に含めれば、様式に沿った下書きを作れます。様式ごとにテンプレート化した指示文を用意しておくと、担当者による品質のばらつきが減ります。

なぜなぜ分析も生成AIに任せられますか?

なぜの連鎖の候補を出させることはできます。ただし各段階の「なぜ」が事実で裏付けられているかの確認は人が行います。生成AIの出したなぜなぜをそのまま採用すると、検証されていない因果が報告書に入ります。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。