製品系譜とは何か、なぜ要因分析の母体になるのか

製品系譜(ジェネオロジー、genealogy)は、完成品から部品・中間品・原材料へと、親子関係を辿れる形で記録した製造履歴です。家系図のように、1つの完成品が「どの中間品ロットからできていて、その中間品はどの原料ロットと設備・条件で作られたか」を表します。MESの多くは、部材の投入実績からこの親子関係を自動で記録する機能を持っています。

要因分析で系譜が効くのは、不良の原因が不良の見つかった工程にあるとは限らないからです。最終検査で見つかった寸法不良の原因が、2工程前の熱処理炉の温度だったり、購入した素材のロットだったりします。系譜を辿れば、最終検査の結果を上流のすべての工程の条件と結び付けられます。

トレーサビリティ全体の考え方と、品質AIで何ができるかはトレーサビリティ×AIで扱っています。この記事では、系譜を使って実際に要因を絞り込む手順に絞ります。

系譜を「分析表」に展開する

系譜のデータは、MESの中では親子関係のツリー(多対多の関係)として持たれています。統計やAIで分析するには、これを「製品(またはロット)1行 × 上流の条件を列に並べた表」に展開する必要があります。

原料ロットから中間品、完成品へのツリーを、完成品ごとの1行の分析表に展開する流れ 素材ロット A12 素材ロット A13 熱処理ロット H7炉2・温度・時間 購入部品 P5 加工・組立設備M3・作業者締付トルク波形 完成品 S001 検査NG 分析表(製品1行) 製品|素材ロット|炉|炉温平均|設備|トルク最大|良否 S001|A12/A13|炉2|852℃|M3|24.1|NG S002|A13  |炉2|849℃|M3|22.8|OK S003|A14  |炉1|861℃|M4|23.0|OK ← 1行=1製品、列=上流の条件と結果
製品系譜のツリーを、製品1行×上流工程の条件を列に持つ分析表に展開する。この表が品質AIの特徴量の母体になる。

展開のときに決めることは次の4つです。

  1. 分析の単位:完成品1個(シリアル)か、ロットか。シリアルが取れていない工程は、ロット単位の値を同じロットの全製品に配る
  2. 多対1の集約:1つの製品に複数の素材ロットが混ざる場合、「主に使ったロット」「ロットの切替を含むか」などの列にする
  3. 時系列の要約:工程の時系列データ(炉温・トルク波形)は、製品ごとの区間で平均・最大・傾き・規格外の時間などに要約する
  4. 時刻の結合規則:工程の開始・終了時刻と設備データの時刻を結合する。時刻がずれていると要約値が別の製品のものになるため、工場データの時刻ずれ対策の確認を先に済ませる

要因分析の6手順

分析表ができたら、次の順で要因を絞り込みます。いきなり複雑なAIモデルに入れるより、単純な層別から始めた方が、データの不備にも早く気付けます。

手順やること使う手法の例ここで分かること
1 問題の定義対象の不良モード、期間、比較対象(良品)を決めるパレート図分析の範囲。不良コードが粗いと先に進めない
2 層別設備・素材ロット・作業者・シフト別に不良率を比べる層別グラフ、カイ二乗検定1つの要因で説明できるか
3 時系列で見る不良率の推移と、段取り・部材切替・保全の時刻を重ねる管理図、イベント重ね合わせ変化点と出来事の対応
4 多変量モデル多数の条件を同時に入れ、不良と関係の強い条件を候補として出す決定木、勾配ブースティング+SHAP、PLS交互作用を含む候補の順位
5 技術的な妥当性候補が物理的に説明できるかを工程の専門家と確認するなぜなぜ分析、FMEA偶然の相関を除外
6 検証候補の条件を変えた試作、または過去データでの再現確認実験計画法、A/B運転真因かどうか

手順4の多変量モデルは強力ですが、出てくるのは相関の強さで、因果ではありません。例えば「炉2で作った製品に不良が多い」という結果は、炉2が原因なのか、炉2に特定の素材ロットばかりが流れていたのかを区別できません。手順5と6を飛ばさないことが、要因分析の質を決めます。

分析を「毎回の調査」から「仕組み」にする

要因分析を不良のたびに一から行うと、データの抽出と分析表の作成に毎回数日かかります。系譜を分析表に展開する処理を、データ基盤側で定期的に動かしておくと、不良が出たその日に層別までを済ませられます。

この分析表は、品質予測AIの特徴量としても再利用できます。不良を事後に分析するだけでなく、製造中の条件から不良の発生確率を予測し、検査を強化するロットを決める用途にも広げられます。MESから学習に使えるデータの種類はAI学習に使えるMESデータ一覧で整理しています。

よくある質問

系譜がMESにない場合はどうすればよいですか?

部材の投入記録が紙やExcelにあるなら、まず対象の不良に関係する工程だけでも、ロット番号と時刻を電子的に記録するようにします。過去分は、作業指示書と出荷記録から部分的に再構成できることもありますが、手間がかかるため、これからのデータを正しく貯めることを優先します。

どのくらいの件数があれば多変量モデルが使えますか?

不良の件数が少ないと、モデルは偶然の組合せを拾います。目安として、対象の不良モードで数十件以上、調べる条件の数より十分多い件数があることが望ましいです(編集部の目安)。件数が少ないうちは、層別と時系列の重ね合わせで仮説を立てる方が確実です。

化学・食品などのバッチ工程でも系譜は使えますか?

使えますが、ロットの混合を考慮した系譜が必要です。タンクの切替や配管内の滞留を考えると、製品と原料の対応は割合(何%がどのロット由来か)で表すことになります。この割合を列として分析表に持たせます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。