コード体系が精度の上限を決める

不良コードと停止理由コードは、品質AIや稼働分析AIにとっての「正解ラベル」です。センサの時系列をいくら細かく取っても、ラベルが「その他」や「調整」のような曖昧な分類なら、モデルはその曖昧さ以上の区別を学べません。つまり、コード体系の粒度がAIの精度の上限を決めます。

現場でよく見るのは、次のような状態です。

  • 停止理由の上位が「その他」「段取り」「調整」で、合計が半分を超える
  • 不良コードに現象(キズ・打痕)と原因(材料不良・設備不良)が混在している
  • 工場や班ごとに独自コードがあり、同じ現象に別の番号が付いている
  • コードが100種類以上あり、作業者が覚えきれずに上の方の選択肢を選ぶ

これらは入力する人の怠慢ではなく、体系と入力方法の設計の問題です。

6つの原則

不良記録を現象、部位、推定原因の3つの軸に分け、それぞれ大分類と小分類の2階層で持つ例 不良記録(1件) 現象:外観>キズ 部位:A面>端部 推定原因:搬送>接触 検査時に確定検査員が入力 検査時に確定図で選択 解析後に確定・更新品証・生技が入力
不良コードを現象・部位・原因の3軸に分けた例。1つのコードに複数の意味を詰め込まない。
  1. 現象と原因を分ける:「キズ」は現象、「搬送接触」は原因です。1つのコードに両方を詰めると、原因が分からない不良の入れ場所がなくなり「その他」に流れます。現象は検査時に確定し、原因は解析後に別の項目として入れます。AIにとっては、現象が正解ラベル、原因は要因分析の検証用データになります。
  2. 2階層にして1画面の選択肢を絞る:大分類5〜8個、小分類は各大分類の下に5〜10個程度が、作業者が迷わず選べる目安です(編集部の経験による目安)。100個のフラットなリストより、2回のタップで選ぶ方が入力の揺れが減ります。
  3. 「その他」に上限を設ける:「その他」を残す場合は、自由記述を必須にし、比率を毎月確認します。比率が一定(たとえば5%)を超えたら、自由記述を読んで新しいコードを作るか既存コードの定義を直します。
  4. 定義と判定例を書く:各コードに定義文と、境界例(このキズは「打痕」か「キズ」か)の写真を付けます。外観検査では限度見本と同じ考え方です。定義がないコードは、人によって使い方が変わります。
  5. 停止理由は自動取得と人の入力を組み合わせる:設備が出すアラームコード(自動)と、作業者が選ぶ停止理由(人)を別の項目として持ちます。アラームは「何が起きたか」、人の入力は「なぜ止めたか」を表し、両方あると突発停止と計画停止、チョコ停の区別が付けられます。停止の粒度についてはOEEデータをAIで深掘りするで詳しく扱います。
  6. 全工場で共通の上位体系を持つ:工場ごとの独自コードは小分類として残してよいので、大分類だけは全社共通にします。共通の大分類があれば、工場横断の比較やモデルの横展開ができます。

入力UIとタイミングが体系と同じくらい効く

コード体系を作り直しても、入力の仕方が変わらなければ記録は良くなりません。効くのは次の3点です。

項目悪い例改善例
入力のタイミングシフト終わりにまとめて日報へ記入停止の再開時、不良の発見時にその場で入力
入力の手段紙の日報、プルダウン100項目タブレットのアイコン選択、部位は図をタップ
必須の範囲停止理由が空欄でも再開できる一定時間以上の停止は理由を選ばないと再開できない(MES・HMI側で制御)

最後の「入力しないと再開できない」制御は効果が大きい一方、ラインを止める理由になるため、対象とする停止時間の閾値は現場と合意して決めます。閾値以下の短い停止はアラームコードと稼働ログから自動で分類し、人の入力は求めない設計が現実的です。

AIで使うときの確認ポイント

コードを作り直したら、AIに使う前に次を確認します。

  • 各コードの件数:学習に使うクラスが十分な件数を持つか。件数がごく少ないコードは、学習では上位の大分類にまとめる
  • 入力者間の一致:同じ不良を複数の検査員に分類してもらい、一致率を測る。一致しないコードの組は定義を見直す。ラベルの揺れの管理は製造AIの正解ラベルで扱う
  • 時刻とロットの紐付け:不良や停止の記録が、発生時刻・設備・ロットと結びついているか

よくある質問

不良コードはいくつくらいが適切ですか?

数そのものより、1画面の選択肢の数と、各コードに定義と境界例があるかが重要です。2階層で、1画面あたり10個程度に収まる構成が入力の揺れを抑えやすい目安です。

コードを変えると過去データとの比較ができなくなりませんか?

対応表で旧コードを新コードに読み替えれば、大分類レベルの比較は続けられます。小分類まで1対1に対応しない部分は、比較の対象外と割り切ります。改定日はマスタの有効期間として記録しておきます。

MESがなくても改善できますか?

できます。紙の日報でも、コード表を2階層にし、定義と境界例を付けるだけで記録の質は上がります。ただし、入力時点で必須にする制御や、アラームとの自動突き合わせはシステムがないと難しくなります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。