「社外に出さない」には4つの段階がある

生成AIを使うとき、データがどこまで移動するかで構成は次の4つに分かれます。

ローカルLLM・閉域クラウド・専用テナント・匿名化+APIの4構成の比較 データが社外に出る範囲(左ほど出ない) 自社の運用負荷 1 完全オンプレ自社GPUでLLMを動かす 2 閉域クラウド専用回線・企業専用環境 3 専用テナント学習利用なしの契約 4 匿名化+API機密部分を除いて送る
4つの構成は、データの移動範囲と自社の運用負荷が逆の関係にある。
構成内容向いているデータ主な課題
1 完全オンプレ自社のサーバー・GPUでオープンなLLMや国産LLMを動かす輸出管理対象の設計データ、顧客から厳格な管理を求められた図面GPUの調達・保守、モデル更新、性能が大規模クラウドモデルに及ばないことがある
2 閉域クラウド専用回線や企業専用環境で、インターネットを通らずにクラウドのLLMを使う社内の設計文書、品質記録、工程条件回線・環境の費用、提供モデルの選択肢が限られる
3 専用テナント入力を学習に使わない契約の企業向けクラウドサービスを使う一般的な社内文書、メール、議事録データの保存地域・ログ保存期間を契約で確認する必要がある
4 匿名化+API品番・顧客名・寸法などをマスクしてから汎用APIに送る不具合報告の要約、文章の推敲マスク漏れ、図面のような画像は匿名化が難しい

国内外で「閉域・主権」の選択肢が増えている

2025年から2026年にかけて、閉域や主権(ソブリン)を打ち出す提供形態が国内外で増えました。

  • NECは2025年7月、生成AI「cotomi」の性能強化を発表し、オンプレミス利用にも対応する方針を示しました(コンテキスト長は最大128K、MCPに準拠)
  • Preferred Networksは2026年10月6日、国産基盤モデル「PLaMo 3.0 Prime」とPLaMo翻訳をMicrosoft Foundryで提供開始し、企業専用の閉域環境で使えるとしました。料金はA100 1枚あたり3.99ドル/時、H100 6.99ドル/時にAzureのインフラ費が加わります(同社発表)
  • フツパーは、社内サーバーだけで動き、根拠を示して回答するローカルLLM「ラクラグ」を提供しています
  • AWSは2025年12月のre:Inventで、顧客自身のデータセンターで専用AI基盤を動かす「AWS AI Factories」を発表しました
  • Dassault Systèmesは2026年7月、AIのVirtual Companionsを3大陸のOUTSCALE AIファクトリー(主権クラウド)で稼働させると発表しました

欧米の大手が、設計データやIPの保護を理由に主権型の提供を売りにしている点は、日本の製造業の懸念が特殊ではないことを示しています。主権AIの動向は製造業の「主権AI」で扱っています。

選び方:データの機密区分から逆算する

構成は「どれが安全か」ではなく、扱うデータの機密区分ごとに決めます。1つの会社で複数の構成を併用するのが普通です。

  1. 社内の機密区分(例:極秘・秘・社外秘・公開)ごとに、扱ってよい構成を決める
  2. 用途ごとに必要な精度を見積もる。長い技術文書の要約や複雑な推論は大規模モデルが有利で、定型の検索・分類は小さなモデルでも足りることが多い
  3. 運用体制を確認する。完全オンプレは、GPUサーバーの保守、モデルの更新、セキュリティパッチの適用を自社で担う必要がある

完全オンプレを選ぶ場合のGPUと費用の考え方はオンプレLLMのGPUと費用の考え方、国産LLMの提供形態の比較は国産LLMを製造業目線で比較を参照してください。

MES・工場ネットワークとの位置関係

工場の生成AIは、文書を扱う情報系だけでなく、MESや設備データとつなぐ段階に進みます。このとき、LLMをどのネットワークゾーンに置くかが問題になります。IEC 62443のゾーンとコンジットの考え方では、OTネットワークとITネットワークの間に境界を設け、通信を限定します。

完全オンプレのLLMを工場内に置く場合も、OTのゾーンに直接置くのではなく、ITとOTの間の中間ゾーン(DMZ)に置き、MESや設備データは読み取り専用で参照する構成が基本です。Rockwell Automationが2025年にNVIDIAのNemotron-Nano-9B-v2をベースにした小型言語モデル(SLM)を産業エッジに載せる取り組みを紹介したように、設備の近くで動く小さなモデルの選択肢も出てきています。ネットワーク設計の詳細はIEC 62443とAI・データ基盤で扱っています。

よくある質問

ローカルLLMは精度が低いのではないですか

汎用の知識や複雑な推論では、大規模なクラウドモデルが上回ることが多いのは事実です。ただし社内文書の検索・要約のように、回答の根拠をRAGで与える用途では、モデルの大きさより文書の整備状況が精度を左右します。用途ごとに試験して判断してください。

専用テナントのクラウドサービスに図面を入れてよいですか

契約で入力データの学習利用がないこと、保存地域、ログの保存期間を確認したうえで、社内の機密区分で許可された範囲なら使えます。顧客から預かった図面は、顧客との秘密保持契約の条件も確認が必要です。

匿名化してから汎用APIに送る方法は安全ですか

文章の要約や推敲には有効ですが、マスク漏れのリスクが残ります。図面のような画像や、文脈から製品が特定できる技術情報は匿名化が難しいため、この方法の対象にしないほうが安全です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。