なぜIT/OT連携が止まるのか

IT(情報技術)は、ERPや業務システム、社内ネットワーク、クラウドを扱う領域です。OT(運用技術)は、PLC、SCADA、DCS、設備のネットワークなど、生産設備を制御・監視する領域です。AIのデータ基盤は、OTの設備データをITの基盤で蓄積・分析するので、必ず両者の境界をまたぎます。

この境界で起きる問題は、技術より組織の側にあります。McKinseyの2018年調査(7市場・700社超)では、デジタル製造の取り組みを全社展開できた企業は約30%で、障壁として人材69%、ROIの欠如61%、ビジョンの欠如59%に加え、IT環境の不備が44%超挙げられました。同社の2019年資料は、パイロットが止まる理由として「ITシステムとデータの統合の難しさ」と「部門間の連携の弱さ」を並べています。

デジタル製造の取り組みを全社展開できた企業
約30%
McKinsey(7市場・700社超、2018年7月)
障壁に「IT環境の不備」を挙げた企業
44%超
同上
C-levelの責任者を置いている企業
36%
同上

衝突しやすい5つの論点と落としどころ

論点情報システム部門の考え方生産技術・制御の考え方落としどころ
ネットワーク全社で統一管理したい。工場ネットワークも資産台帳に載せたい設備ベンダーが組んだネットワークに触ると保証が切れる境界にDMZを置き、管理責任をDMZで分ける
責任範囲業務システムの障害対応は担うが、設備は分からないデータ連携の不具合で設備が止まったら誰の責任か機器・層ごとの責任分界表を作る
更新周期OSやソフトは数年で更新、パッチは早く当てたい設備は15〜20年使う。パッチで動作が変わるのは困る更新はDMZとIT側中心、OT側は計画停止に合わせる
可用性計画停止を入れてメンテナンスしたいラインを止められるのは年に数回の長期休暇だけデータ基盤の停止が設備に影響しない構成にする
セキュリティ接続を最小限に、外部接続は原則禁止リモート保守で設備ベンダーが接続する必要があるゾーンとコンジットで通信を限定し、記録する

ネットワーク:DMZで責任を分ける

工場ネットワーク(L2〜L3)とIT・クラウドの間に、DMZ(L3.5とも呼ぶ緩衝地帯)を置き、データの収集サーバやMQTTブローカー、エッジゲートウェイをそこに置く構成が基本です。OT側からDMZへ、DMZからIT・クラウドへの外向きの通信を基本とし、IT側からOT側へ直接入る通信は作りません。この構成なら、OT側は設備ネットワークの管理を続けたまま、IT側はDMZから先を管理できます。設計の詳細はIEC 62443とAI・データ基盤で扱っています。

責任範囲:分界表を作る

データの流れに沿って、機器・ソフトごとに「誰が設定を変えられるか」「障害時に誰が一次対応するか」「誰に連絡するか」を表にします。とくにエッジゲートウェイとMESの連携部分は、両部門の間で責任が宙に浮きやすい場所です。

更新周期と可用性:止まっても設備は止まらない構成に

データ基盤の更新やパッチ適用でサーバを止めたときに、設備の制御が止まらない構成にしておけば、IT側の更新周期と、OT側の稼働要求を両立できます。具体的には、エッジ側に一定時間分のデータを保持するバッファを置き、上位が止まっても収集を続け、復旧後に送り直す設計にします。

共通のデータ基盤チームを置く

5つの論点を個別に調整しても、案件のたびに同じ議論が繰り返されます。継続的に回すには、IT・OT双方から人を出した常設のチームを置くのが有効です。

情報システム部門と生産技術部門の間に、両部門の兼務者と専任担当で構成するデータ基盤チームを置き、AIのユースケース部門を支える構成 情報システム部門ネットワーク・クラウド・ERP 生産技術・設備保全PLC・設備・現場 データ基盤チーム専任1〜2名+両部門の兼務命名規則・DMZ・MES連携 AIユースケースのオーナー(製造・品質・保全)KPIと業務への組み込みに責任を持つ
IT/OT共通のデータ基盤チームの位置づけ。両部門の兼務メンバーと、データ基盤の専任担当で構成する。

チームの担当範囲は、個別のAIテーマではなく、テーマに共通する基盤に絞ります。

  • タグ命名規則と資産階層の管理(設備タグの命名規則)
  • DMZとデータ収集層の設計・運用
  • MESとデータ基盤の連携インターフェース
  • データ品質のルールと監視
  • 責任分界表と変更管理の窓口

最小構成の考え方と外部委託の線引きはデータ基盤を誰が持つかで扱います。

よくある質問

IT/OT連携はどちらの部門が主導すべきですか?

どちらか一方に寄せるより、経営層や工場長がオーナーとなって両部門から人を出す形が進めやすくなります。McKinseyの2018年調査でも、C-levelの責任者を置いている企業は36%にとどまりました。データ基盤チームの所属はどちらでも構いませんが、両部門の兼務者を必ず入れます。

設備ベンダーが組んだネットワークに手を入れても大丈夫ですか?

保証や保守契約の条件を確認したうえで、設備ネットワーク側には手を入れず、境界で接続する構成を選ぶのが安全です。設備側の設定変更が必要な場合は、設備ベンダーに依頼します。

OT側の人材にデータ基盤の知識を持ってもらうにはどうすればよいですか?

最初のテーマで、生産技術の担当者にタグの棚卸しとマッピング表の作成を担ってもらうのが効果的です。自分の設備のデータがどう使われるかが分かると、命名規則や変更管理への協力が得やすくなります。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この特集について

AIは「データ基盤」で決まる

PoCは成功したのに本番で止まる。原因の多くはモデルではなく、MESと設備データの側にある 全130本

  1. MESとAIの関係:ロット・作業指示・品質判定がAIの精度を決める理由
  2. 製造業AIが本番で止まる7つの理由:PoCは成功したのにラインに載らない構造
  3. 製造業のAI-OCR:紙の検査記録・点検表・ミルシートをデータ化する手順
  4. データ基盤の段階的導入ロードマップ:ユースケースから逆算する8ステップ
特集の記事をすべて見る →

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。