タグ名がばらばらだと何が起きるか

PLCのデバイスアドレス(D100、M200)や、ヒストリアンに登録した「温度1」「No2圧力」のようなタグ名は、その設備を立ち上げた担当者にしか意味が分かりません。AIの観点では、次の3つの問題になります。

  • 横展開できない:1号機で「D100=金型温度」と分かっていても、2号機では同じ値が「D120」に入っている。2台目以降もタグの意味を1つずつ調べ直すことになる
  • 単位と意味が分からない:同じ「温度」でも、摂氏か、0.1℃単位の整数か、設定値か実測値かがタグ名から分からない
  • 文脈と結び付かない:タグがどのライン・どの設備のものかが名前にないと、MESのロットや設備IDと結合できない

データ基盤の段階的な導入では、設備とタグの棚卸し、命名規則と資産階層の決定を、収集層の構築より前に置くのが基本です。命名を後回しにすると、収集したデータを後から読み替える作業が雪だるま式に増えます。

命名規則に入れる5つの要素

サイト、エリア、ライン、設備、計測点と物理量の要素で構成したタグ名の例 CHB / MOLD / L03 / IMM02 / BARREL_Z1 . TEMP_PV サイトCHB(工場) エリアMOLD(成形) ラインL03 設備IMM02(成形機2) 計測点+物理量+種別シリンダ1ゾーン 温度 実測 単位・スケール・データ型・サンプリング周期はタグ名でなく属性(メタデータ)に持つ
タグ名を5つの要素で構成する例。上位の資産階層はISA-95の階層に合わせる。
  1. 資産階層:サイト/エリア/ライン/設備(セル)。ISA-95の資産モデル(Enterprise/Site/Area/Line/Cell)に合わせると、UNS(Unified Namespace)のトピック階層やMESの設備マスタとそのまま対応が取れます
  2. 計測点:設備内のどこか(シリンダの第1ゾーン、主軸、ポンプの吐出側など)。同型設備では同じ名前にします
  3. 物理量:TEMP、PRESS、CURR(電流)、VIB(振動)、SPD(速度)などの略語。略語表を1枚作って固定します
  4. 種別:実測値(PV)、設定値(SV)、出力値(MV)、状態、カウンタ、アラームの区別。AIでは設定値と実測値を取り違えると意味が逆転します
  5. 単位とスケール:名前に入れず、属性として持ちます。「0.1℃単位の整数」のようなPLC特有のスケールは、収集層で物理単位に変換したうえで、元のスケールも属性に残します

移行の4手順

既存の設備でPLCのアドレスやヒストリアンのタグ名を一斉に書き換えるのは、制御への影響が大きく現実的ではありません。新しい名前は収集層とデータ基盤の側で付け、元のアドレスとの対応をマッピング表で管理します。

手順やること担当の目安
1 棚卸し対象設備のPLCアドレス、ヒストリアンのタグ、ラダー図のコメントを一覧にする生産技術・設備保全
2 規則の決定5要素と略語表、区切り文字、大文字小文字を決め、例を10件作って関係者で確認データ基盤担当+生技
3 マッピング表旧アドレス/旧タグ → 新タグ名、単位、スケール、周期、有効開始日を表にする生技(意味の確認)+データ基盤(登録)
4 収集層へ適用エッジゲートウェイやOPC UAサーバ、ヒストリアンの別名機能で新名を付与。新設備は最初から規則で作るデータ基盤担当・SIer

マッピング表は1回作って終わりではありません。PLCプログラムの改造でアドレスが変わると、新タグに別の値が入るという最も見つけにくい不具合が起きます。PLC改造の変更管理に「マッピング表の更新」を必須項目として入れておきます。

規則を決めるときによくある失敗

  • 長すぎる名前:要素を詰め込みすぎて、ヒストリアンやPLCの文字数制限を超える。区切り文字と略語で短くし、詳細は属性に逃がす
  • 日本語・全角を混ぜる:ツールによって文字化けやクエリのエスケープが必要になる。タグ名は半角英数字とアンダースコアに限定し、日本語の説明は属性に入れる
  • 設備の個体番号を入れる:銘板の製造番号を名前に入れると、設備を入れ替えたときに名前が変わり時系列が途切れる。名前には「役割」(L03の成形機2)を入れ、個体番号は属性に持つ
  • 所有者を決めない:新しいタグを誰が登録・承認するかを決めないと、規則外のタグが増え続ける

UNSのトピック名をこの命名規則と揃える方法はUNSのトピック設計を参照してください。

よくある質問

PLCのアドレスを新しい命名規則に合わせて書き換えるべきですか?

既存設備では書き換えないのが一般的です。制御プログラムの変更は試運転と検証が必要で、ラインを止めるリスクがあります。新しい名前はエッジゲートウェイやヒストリアンの別名として付け、元のアドレスはマッピング表で管理します。

命名規則は全社で1つにすべきですか?

資産階層の上位(サイト・エリア)と、物理量・種別の略語は全社共通にします。計測点の名前は設備の種類ごとに決めて構いません。全社で1つの詳細な規則を作ろうとすると合意に時間がかかるため、最初のAIテーマの対象設備から作り、例外が出たら規則を更新します。

どのくらいの数のタグから始めればよいですか?

最初のAIテーマで使うタグだけで十分です。予知保全なら対象設備の数十タグ、品質分析なら対象工程の条件タグ数十〜数百が目安です。全タグを一斉に命名し直す必要はありません。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。