ISA-95の4つの情報モデル

ISA-95(IEC 62264)は、製造オペレーションに関わる情報を4種類のリソースに分けて定義しています。OPC FoundationのISA-95共通オブジェクトモデル仕様(OPC 10030)でも、ISA-95の情報は材料、設備、物理資産、人員の4種類に分けられると整理されています。

情報モデル何を表すか工場での例
材料(Material)原材料・部品・仕掛品・製品の種類とロット品番、材料ロット、仕掛ロット、製品シリアル
設備(Equipment)生産に使う役割としての設備と、その階層ライン、工程、セル、成形機1号機
物理資産(Physical Asset)個体としての設備・部品。保全や資産管理の対象製造番号付きのスピンドル、金型、交換したモータ
人員(Personnel)作業者と、その資格・スキル作業者ID、資格、班、シフト

設備と物理資産の区別はわかりにくいかもしれません。設備は「成形機1号機」という生産上の役割、物理資産は「その場所に据え付けられている、製造番号○○の成形機本体」です。設備を更新したり、スピンドルを交換したりすると、設備(役割)は同じでも物理資産(個体)は変わります。予知保全AIではこの区別が重要で、モータを交換した後は振動の正常値が変わるため、物理資産の交換履歴がなければ交換前後のデータを混ぜて学習してしまいます。

AIの特徴量は4種類と工程の組合せで説明できる

製造業のAIが使うデータを分解すると、ほぼすべてが「どの材料を、どの設備(物理資産)で、誰が、どの工程で、どんな条件で処理したか」の組合せで表現できます。

材料、設備、物理資産、人員の4つの情報モデルが工程の実績を中心に結びつき、AIの特徴量になる図 工程の実績いつ・どの条件で処理したか 材料品番・材料ロット・シリアル 設備ライン・工程・セルの役割 人員作業者・資格・シフト 物理資産個体・交換履歴・金型
4つの情報モデルと工程(セグメント)の交点にAIの特徴量がある。

たとえば射出成形の不良予測AIの特徴量を、4種類に当てはめると次のようになります。

情報モデル特徴量の例MESやマスタの持ち場所
材料品番、樹脂のグレードと材料ロット、乾燥時間品目マスタ、材料投入実績
設備成形機ID、成形条件(温度・圧力・速度)の時系列設備マスタ、ヒストリアン
物理資産金型の個体番号、金型のショット数、前回メンテナンスからの経過金型台帳、保全記録
人員段取りを行った作業者、シフト作業実績、人員マスタ

この表を作ると、特徴量の候補をもれなく洗い出せるうえ、各データの持ち場所(どのマスタ・どのシステム)も同時に確認できます。新しいAIテーマを始めるときも、同じ4区分で表を作れば検討の抜けが減ります。

MESマスタをISA-95で整理しておく利点

この枠組みが本当に効くのは横展開の段階です。1ライン目のAIで「成形機1号機」「金型A-123」「樹脂ロット」というデータを使ったとします。2ライン目に広げるとき、2ライン目の成形機・金型・樹脂ロットが、同じ構造のマスタで管理されていれば、特徴量の作り方をそのまま流用できます。マスタの構造がライン・工場ごとに違えば、データの対応付けを一から作り直すことになります。

MESを新規導入する、または改修する機会があれば、次の点をISA-95に沿って整理しておくことを勧めます。

  1. 設備階層:企業・拠点・エリア・ライン・セル(作業単位)の階層と、各レベルのIDの付け方を全工場で統一する
  2. 設備と物理資産の分離:設備(役割)のIDと、物理資産(個体)の製造番号を別に管理し、どの期間にどの個体が据え付けられていたかの履歴を残す
  3. 材料のロット管理:材料ロット、仕掛ロット、製品シリアルの親子関係(系譜)を記録する
  4. 人員と資格:作業者IDと、その作業に必要な資格・スキルの対応を管理する
  5. 工程定義:工程(プロセスセグメント)ごとに、使う材料・設備・人員の種類と、記録するパラメータを定義する

設備階層の統一は、後で説明するUNSのトピック設計やタグの命名規則とも共通の基盤になります。トピック設計はUNSのトピック設計、マスタの不整合を直す手順はAIの前にマスタ整備で扱います。

OPC UAやデータ基盤製品との関係

ISA-95の情報モデルは、データ基盤の製品や標準にも取り込まれています。OPC FoundationはISA-95の共通オブジェクトモデルをOPC UAの仕様(OPC 10030)として定義しており、設備から上がるデータとMESの情報を同じモデルで扱えるようにしています。クラウドの製造データ基盤にも、ISA-95に基づくデータモデルを提供するものがあります(例はMicrosoft Fabricの製造業向けデータソリューション)。

自社のマスタをISA-95の区分で整理しておけば、こうした製品や標準と対応付けやすくなり、特定の製品にデータモデルを縛られるリスクも下がります。

よくある質問

設備と物理資産を分けて管理していません。すぐに分けるべきですか?

予知保全AIを考えているなら、優先度は高いです。モータ・スピンドル・金型など交換や修理で特性が変わる部品について、少なくとも交換日と個体番号を記録してください。過去分は保全記録から復元できる範囲で構いません。

ISA-95のPart 1〜8のどれを読めばよいですか?

情報モデルの基本はPart 1(モデルと用語)とPart 2(オブジェクトモデルの属性)、製造オペレーションの活動はPart 3が扱います。実務では、まずOPC 10030やベンダーの解説で全体像をつかみ、必要な部分を規格本文で確認する進め方が効率的です。

人員のデータはどこまでAIに使ってよいですか?

作業者IDと資格を特徴量にすると、作業者による品質の差を分析できますが、個人の評価に使われると受け止められやすい情報です。利用目的を限定し、社内規程に沿って扱ってください。分析では班やスキルレベル単位での集計を基本にする方法もあります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。