VMは「測らなかったウェハ」の品質を推定する

半導体の前工程では、成膜、エッチング、CMP(化学機械研磨)などの工程ごとに、膜厚、線幅(CD)、段差などを計測装置で測ります。ただし計測には時間がかかり、すべてのウェハを測るとスループットが落ちるため、ロットから数枚を抜き取って測るのが一般的です。

バーチャルメトロロジー(VM)は、各ウェハを処理したときの装置のセンサデータ(温度、圧力、ガス流量、RF電力、処理時間など)とレシピから、そのウェハの計測値を推定する仕組みです。化学プロセスで使われるソフトセンサーと同じ考え方を、半導体のウェハ単位の処理に当てはめたものと言えます。

VMの使い道は主に3つです。

  • 測らなかったウェハの異常を早く見つける(抜取りの隙間の監視)
  • 推定値を次のロットや次工程の補正(R2R:Run-to-Run制御)に使う
  • 推定値の信頼度が高い場合に、実測の頻度を下げる
プロセス装置のセンサデータとレシピから特徴量を作り、VMモデルで全ウェハの計測値を推定し、抜取り実測と突合して再学習する流れ プロセス装置センサ・レシピ 特徴量化ステップ別の要約 VMモデル推定値+信頼度 全ウェハの推定値監視・R2R制御 抜取り実測計測装置 突合・誤差監視・再学習 装置イベント(PM・部品交換)→ 再学習・信頼度の見直しの合図
VMの構成。装置データから全ウェハを推定し、抜取り実測で精度を確認して補正する。

データ構成:ウェハ単位でセンサとレシピと計測を結ぶ

VMのデータ準備では、次の3種類をウェハ単位で結合します。

データ中身結合のキーよくある問題
装置センサ(FDCデータ)処理中の温度・圧力・流量・RF電力などの時系列ウェハID、チャンバ、処理開始・終了時刻処理ステップの区切りが装置ごとに違う
レシピ・装置状態レシピ名、ステップ、チャンバ、前回PMからの処理枚数ロットID、ウェハIDレシピの改版履歴が残っていない
計測値膜厚、CD、段差などの抜取り実測ウェハID、計測点計測点の位置が測定ごとに異なる

センサの時系列はそのままでは長さがウェハごとに違うため、レシピのステップ(処理の段階)ごとに平均・最大・傾きなどの要約値を作って特徴量にします。どのステップのどの値を使うかが精度を左右し、装置とプロセスの知識が必要な部分です。

前回の定期メンテナンス(PM)からの処理枚数や、チャンバの部品の使用時間も重要な特徴量になります。装置の状態はPMで大きく変わり、その後は少しずつ変化(ドリフト)するためです。

精度を保つ3つの運用ルール

VMは作った時点では精度が出ても、装置の状態変化で推定がずれていきます。運用で精度を保つために、次の3つのルールを決めておきます。

  1. 抜取り実測との常時突合:実測されたウェハについて、推定値と実測値の差を記録し、管理図で監視する。差が管理限界を超えたら推定値の使用を止める
  2. 装置イベントでの再学習:PM、部品交換、レシピ改版の後は、推定の前提が変わる。一定枚数の実測データがたまるまで推定値の信頼度を下げるか、使用を停止し、再学習する
  3. 推定値の信頼度の提示:推定値に加えて、そのウェハのデータが学習データの範囲内か(外挿になっていないか)を示す信頼度を出す。信頼度が低いウェハは実測に回す

他業種のソフトセンサーとの違い

観点化学プロセスのソフトセンサー半導体のVM
推定の単位時間(連続プロセス)ウェハ・ロット(バッチ処理)
入力データ秒単位の工程変数処理ステップごとのセンサ要約値
実測の頻度ラボ分析で数時間に1回ロットごとの抜取り
状態変化の主因触媒劣化、原料の変化PM、チャンバの部品消耗、レシピ改版
推定値の主な使い道監視、濃度制御異常検知、R2R制御、実測頻度の削減

半導体のVMで蓄積された考え方(装置イベントでの再学習、信頼度の提示、R2R制御との連携)は、他の業種のバッチ工程、例えば熱処理、めっき、塗装などにも応用できます。半導体工場でのAIの使われ方全体は半導体前工程のAIで扱っています。

導入の進め方

  1. 対象工程を選ぶ:計測の待ち時間や抜取りの隙間による不良の見逃しが問題になっている工程、R2R制御の効果が大きい工程から選ぶ
  2. 過去データを結合する:FDCデータ、レシピ、計測値をウェハ単位で結合し、PMなどの装置イベントを重ねる
  3. モデルを作り、時系列で評価する:学習期間より後の期間で評価する(ランダムに分割すると、装置の状態変化を無視した楽観的な評価になる)
  4. 監視用途から運用を始める:推定値を異常の早期発見に使い、実測との差を記録する
  5. 制御や実測削減に広げる:誤差が安定してから、R2R制御への入力や実測頻度の見直しに使う

手順3の評価方法は見落とされやすい点です。ランダム分割では、学習データと評価データに同じ時期のウェハが混ざるため、PM後のずれのような実際に起きる問題が評価に現れません。

よくある質問

VMの推定精度はどの程度必要ですか

用途によります。異常の早期発見なら、大きなずれを検出できれば十分です。R2R制御に使うなら、補正量より小さな誤差が必要です。実測を代替するなら、計測装置自体の測定誤差に近い精度が求められます。

装置メーカーのVM機能と自社開発のどちらがよいですか

装置メーカーの機能は導入が早い一方、複数メーカーの装置をまたいだ分析や、自社の計測データとの結合には制約があることがあります。自社開発は柔軟ですが、装置ごとにモデルを作り、保守する体制が必要です。対象の装置の台数と種類で判断してください。

半導体以外でもVMという言葉を使いますか

主に半導体で使われる用語です。他の業種では同じ考え方をソフトセンサー、仮想センサー、品質予測などと呼ぶことが多いです。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。