MCSAは「設備に触らずに始められる」予知保全

MCSA(Motor Current Signature Analysis、モータ電流シグネチャ解析)は、モータに流れる電流の波形を周波数分析し、回転子や軸受、負荷側の異常によって現れる成分の変化を捉える手法です。モータは機械的な異常が起きると、回転のむらが電流の変動として現れます。その変化を、電源周波数の周りに出る側帯波などから読み取ります。

最大の利点は、設備本体にセンサを取り付けなくてよいことです。電流は制御盤やモータコントロールセンタで測れるため、高所や回転部の近く、防爆エリア、狭い場所など、振動センサの取付が難しい設備でも始められます。インバータ(可変周波数ドライブ)がすでに電流を計測していれば、そのデータを取り出すだけで済む場合もあります。

捉えやすい故障と捉えにくい故障

MCSAは万能ではありません。電気的な異常や、回転に大きな影響を与える機械的な異常は捉えやすい一方、軸受の初期の小さな傷のように、電流への影響が小さい異常は振動に比べて感度が劣ります。

故障モードMCSAでの捉えやすさ補足
回転子バーの折損捉えやすいMCSAの代表的な対象。電源周波数の両側に側帯波が現れる
固定子巻線の異常・電源の不平衡捉えやすい電気的な異常は電流に直接現れる
負荷側の異常(詰まり、過負荷)捉えやすい電流の大きさと変動の傾向監視で十分なことが多い
ミスアライメント・アンバランス中程度進行すれば現れるが、振動の方が早く鮮明に出ることが多い
軸受の初期傷捉えにくい振動の高周波帯やエンベロープ解析の方が感度が高い

このため、MCSAを使うときは「どの故障モードを狙うか」を先に決めることが重要です。対象設備の故障履歴を見て、電気系や負荷側の異常が多い設備ならMCSAが有力な選択肢になります。軸受の損傷が主な故障モードなら、振動センサを付ける方が確実です。故障モードとセンサの対応は予知保全のセンサ選定で一覧にしています。

電気系と負荷側の異常はMCSA、軸受の初期傷は振動、重要設備は併用という使い分け MCSA(電流) 回転子・巻線・電源 負荷の詰まり・過負荷 盤側で後付けが容易 併用 重要度Aの設備 電流で広く監視し 振動で詳しく診断 振動 軸受の初期傷 アンバランス・ミスアライメント 設備への取付が必要 選ぶ基準は設備の故障履歴に多い故障モード
MCSAと振動監視の使い分け。故障モードで選び、重要設備は併用する。

製品の動向:インバータ側に分析を載せる流れ

MCSAの考え方を製品として取り込む動きの一例が、Rockwell Automationの「FactoryTalk Analytics GuardianAI」です。同社は2024年3月に、可変周波数ドライブ(VFD)の電気信号から設備の異常を検知する製品として発表し、自社のPowerFlexシリーズのドライブと連携するとしています。ノーコードでエッジで稼働し、軸のミスアライメント、アンバランス、ソフトフット(据付面の浮き)、緩み、軸受の故障を早期に警告するとされます。日本では2024年7月に一般提供が始まりました。

この製品で示されているのは、モータを駆動するドライブ自体が電流を高い頻度で測っているなら、その場で分析すれば追加センサなしに監視できるという考え方です。一方で、特定メーカーのドライブとの連携が前提になる点は、複数メーカーのドライブが混在する工場では制約になります。検知性能の数値は公表資料では確認できなかったため、導入時は自社設備での検証が必要です。

データ取得の設計:サンプリングと運転条件

MCSAで周波数分析をするには、電流波形を数kHz程度以上で取得する必要があります。PLCやSCADAが1秒ごとに取っている電流値(実効値)では、傾向監視はできても側帯波の分析はできません。

取得方法は大きく3つあります。インバータが持つ高速サンプリングの機能やドライブ内の分析機能を使う、盤内にクランプ式の電流センサを後付けして専用ロガーで取る、モータ保護リレーや電力計測器の波形取得機能を使う、のいずれかです。どの方式でも、通電中の盤内での作業になるため、電気工事の資格と安全手順の確認が欠かせません。

もう一つ重要なのが運転条件です。電流は負荷によって大きく変わるため、同じ設備でも品種や加工条件によって正常時の波形が違います。電流データに、MESや制御系から品番・工程・負荷の情報を付けて保存しないと、負荷の変化と異常の区別がつきません。インバータ駆動のモータは周波数が変わるため、分析も運転周波数に合わせて補正する必要があります。

導入の進め方

  1. 故障履歴から対象を選ぶ:電気系や負荷側の故障が多く、振動センサの取付が難しい設備を候補にする
  2. 取得方法を決める:既存のインバータで波形が取れるか、盤内に後付けするかを確認する
  3. 正常時の波形を運転条件ごとに集める:品種・負荷・回転数ごとに数週間分
  4. 傾向監視から始める:電流の実効値と主要な周波数成分の変化を条件別に追い、閾値を決める
  5. 振動との併用を判断する:誤報や見逃しの状況を見て、重要設備には振動センサを追加する

よくある質問

インバータを使っていないモータでもMCSAはできますか?

できます。商用電源で直接駆動しているモータは、電源周波数が一定なので周波数分析はむしろ単純になります。盤内の電源ケーブルにクランプ式の電流センサを付けて波形を取得します。

1台のセンサで複数のモータを監視できますか?

原則として、モータごとに電流を測る必要があります。複数のモータが共通の電源系統につながっている場合、その系統の電流では個々のモータの異常が埋もれるためです。

振動センサと比べて費用はどのくらい違いますか?

既存のインバータのデータを使えれば、センサ費用はほぼかかりません。後付けの場合でも、設備本体への取付工事が不要な分、取付工数は抑えやすくなります。ただし盤内作業の費用と、波形データを扱う分析基盤の費用は別途必要です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。