中小工場の予知保全は「1台・閾値・月額」から始める
大企業の予知保全の事例は、多数の設備にセンサを付け、データ分析の専門チームが機械学習のモデルを作る形が多く見られます。中小工場が同じことをしようとすると、費用も人材も足りません。
中小工場で現実的なのは、止まると工場全体が困る重要設備1台に絞り、設備に手を加えずに付けられる後付けの無線センサを設置し、クラウドの月額サービスで閾値による監視から始める方法です。機械学習による高度な分析は、閾値管理で誤報や見逃しが問題になってから検討すれば十分です。
日本の製造業のデジタル技術の活用には規模による差があり、2025年版ものづくり白書で引用された調査では、製造工程でデジタル技術を活用している割合は従業員301人以上で67.9%、50人以下で31.5%でした。小さく始めて効果を確かめる進め方は、この差を埋める現実的な方法です。
ステップ1:止まると困る設備を1台選ぶ
最初の対象は、次の条件で選びます。
- 止まると工場全体の生産が止まる(ボトルネック設備、予備機がない設備)
- 過去に突発停止が起きたことがあり、修理や部品手配に時間がかかった
- 故障の兆候が振動や温度に出やすい回転機(モータ、ポンプ、コンプレッサ、主軸など)
中小工場では、主力の加工機、エアコンプレッサ、集塵機のファンなどが候補になりやすい設備です。特にエアコンプレッサは、止まると工場内の多くの設備が動かなくなるため、効果が見えやすい対象です。回転機の監視の考え方はポンプ・ファン・コンプレッサの状態監視AIで解説しています。
対象を選ぶときには、過去の停止の記録を見直してください。停止の回数・時間・原因がわかると、どの設備に予知保全をすれば効果があるかの見当がつきます。記録がない場合は、保全担当者や現場のリーダーに、過去3年で困った停止を思い出してもらうだけでも十分な出発点になります。
ステップ2:後付けセンサと月額サービスを選ぶ
中小工場に向いているのは、センサ・通信・クラウドの分析・通知までを一体で提供するサービスです。設置後すぐにデータを見られ、自前でサーバーやソフトを用意する必要がありません。
| 確認項目 | 中小工場での目安 |
|---|---|
| センサの取付 | 設備の改造なしで付けられるか(マグネット固定、接着、ねじ止め)。電気工事が不要か |
| 通信 | 工場内のWi-Fiやネットワークが不要な方式(LTE内蔵のゲートウェイなど)だと、社内のネットワーク設定の手間が省ける |
| 電源 | 電池式なら電池の寿命と交換の手間。自己発電型のセンサも出てきている |
| 費用 | 初期費用と月額費用。3年間の総額で比べる |
| 通知 | メールやスマートフォンへの通知、閾値を自社で変更できるか |
| データの取り出し | 契約を終えてもデータをCSVなどで取り出せるか |
無線センサは設置が簡単な反面、電池寿命を保つために測定の頻度や時間が制限されることがあります。総合的な振動の大きさや温度の傾向を見るには十分ですが、軸受の初期の傷を詳しく分析するには足りない場合があります。最初は傾向監視で始め、必要に応じて詳しい分析ができるセンサを追加するのが現実的です。
最近では、コマツ子会社のKELKが、温度差3℃で自己発電し、LoRa通信で約500m先までデータを送る振動センサを発表しています。電池交換の手間を減らせる選択肢として、対象設備の温度条件が合えば検討の価値があります。
ステップ3:閾値で監視を始め、結果を記録する
センサを付けたら、まず数週間、正常に動いているときのデータを集め、そのばらつきを見て注意と警告の2段階の閾値を決めます。設備メーカーの推奨値があれば、それも参考にします。
監視を始めたら、通知が来たときに誰が確認し、どうするかを決めておきます。中小工場では保全専任の担当者がいないことも多いため、通知の受け手を現場のリーダーや設備担当者とし、「注意なら次の休日に点検、警告ならその日のうちに確認」のように、行動を単純に決めておくことが大切です。
そして、通知が来て点検したときに、何が見つかったか(異常あり・異常なし)を必ず記録します。これが溜まると、閾値が適切か、誤報が多すぎないかを判断できるようになります。誤報が多すぎると、通知が無視されるようになるため注意が必要です。
費用を抑える補助金の使い方
予知保全のセンサやシステムの導入には、国の補助金が使える場合があります。2026年度の主な制度は次のとおりです(2026年10月時点の情報)。
| 制度 | 予知保全での使いどころ | 注意点 |
|---|---|---|
| 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型) | カタログに登録された製品を導入する場合。最大1,500万円・補助率1/2以内 | 対象はカタログ登録製品のみ。販売事業者が申請を支援 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 個別の現場に合わせた設備導入やシステム構築。最大1億円 | 詳細な事業計画が必要 |
| デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) | 登録されたITツール(クラウドサービスなど)の導入 | 登録された支援事業者を通す必要があり、対象は登録済みツールに限られる |
どの補助金も、申請前に契約・発注した費用は対象にならないのが原則です。また、賃上げなどの要件があり、未達の場合に返還を求められる制度もあります。公募のスケジュールは回ごとに変わるため、最新の情報を公式サイトで確認してください。制度の詳しい比較は中小企業省力化投資補助金でAI外観検査・ロボットを入れるで扱っています。
データの持ち方:将来の拡張を見据える
1台から始める場合でも、設備に付ける名前(設備ID)を、生産管理や保全の記録と同じものにしておくと、後で他の設備やデータと組み合わせやすくなります。また、月額サービスを選ぶときに、データをCSVなどで取り出せるかを確認しておくと、将来サービスを変更したり、自社で分析したりするときに困りません。
よくある質問
予知保全の費用はどのくらいかかりますか?
多くのサービスは価格を公開しておらず、設備の台数、センサの種類、通信方式で見積もりが大きく変わります。複数社から見積もりを取り、初期費用だけでなく月額費用と電池交換を含めた3年間の総額で比べてください。
古い設備にもセンサを付けられますか?
付けられます。後付けの振動センサや温度センサは、設備の制御装置に手を加えずに取り付けられるものが多く、古い設備でも使えます。古い設備からのデータの取り方は古い設備でもAIは使えるかでも整理しています。
データ分析の担当者がいなくても大丈夫ですか?
閾値による監視であれば、データ分析の専門知識は必要ありません。設備のことをよく知っている保全担当者や現場のリーダーが、通知への対応と結果の記録を続けられれば十分に運用できます。
