計画シートの考え方:故障モードからセンサーを選ぶ
予知保全(状態基準保全、CBM)の計画は、センサーから始めるのではなく、対象設備の故障モードから始めます。故障モードごとに、どの物理量に兆候が出るか、どのくらい前から出るかが違うため、選ぶセンサーとサンプリング周期が決まります。
実務の手順は、FMEAなどで重要設備と故障モードを特定する、故障モードごとにセンシングを選ぶ(振動・電流・音・温度・油)、数週間〜数か月の正常運転データでベースラインを取る、閾値と異常検知で運用を始める、保全記録と照合してアラームの有効性を評価する、の順です。このシートは最初の2段階と、保全記録との紐付けの設計を扱います。予知保全AIの全体像は予知保全AIとはで解説しています。
30項目の構成
| 分野 | 項目数 | 主な項目 |
|---|---|---|
| A 対象設備 | 6 | 設備ID、型式・設置年、停止1時間あたりの損失、予備機の有無、現在の保全方式、運転条件の変動(負荷・回転数・品種) |
| B 故障モード | 6 | 故障モード、過去の発生件数、兆候が出る物理量、兆候から故障までの時間、故障時の影響、現在の検知方法 |
| C センシング | 8 | センサーの種類、取付位置、サンプリング周期、記録の方式(常時・トリガー)、保存期間、時刻同期、既存信号の流用、通信・電源 |
| D 保全履歴 | 6 | 保全記録の保存先、故障の記録項目、設備IDの一致、記録の時刻精度、部品交換の記録、記録の自由記述の割合 |
| E 運用 | 4 | アラームの受け手、アラーム後の行動、誤報の許容件数、評価期間 |
C分野の「既存信号の流用」は見落とされがちな項目です。インバータのモータ電流やPLCの負荷データなど、既に取れている信号で兆候が捉えられる故障モードがあれば、センサーの追加費用をかけずに始められます。
故障モードとセンシングの対応、記入例
B分野とC分野の対応を考えるときの目安を示します。どの物理量が向くかは設備と故障の進み方で変わるため、最終的には保全担当とベンダーで確認します。
| 故障モードの例 | 兆候が出やすい物理量 | センシングの例 | 周期の考え方 |
|---|---|---|---|
| 軸受の損傷 | 振動(高周波成分) | 加速度センサー | 損傷周波数を捉えられる周期。kHz帯が一般的 |
| アンバランス・ミスアライメント | 振動(回転周波数とその倍数) | 加速度・速度センサー | 回転周波数の数倍以上 |
| モータの回転子・巻線の異常 | 電流波形 | 電流センサー(MCSA) | 電源周波数の側帯波を捉えられる周期 |
| 潤滑不良・過負荷 | 温度 | 熱電対・赤外線 | 応答が遅いため秒〜分で足りることが多い |
| 弁・ポンプのキャビテーション、漏れ | 音・超音波 | マイク・AEセンサー | 対象の音の周波数帯による |
| 摩耗粉の増加 | 油の状態 | 油分析・オイルセンサー | 日〜週単位のサンプリングも |
記入例として、冷却水ポンプ(架空の工場)のシートの一部を示します。
| No. | 項目 | 記入例 |
|---|---|---|
| A-3 | 停止1時間あたりの損失 | 成形機4台が止まるため約40万円 |
| A-4 | 予備機の有無 | なし(切替に半日) |
| B-1 | 故障モード | ①軸受損傷 ②メカニカルシールの漏れ ③インペラのキャビテーション |
| B-2 | 過去の発生件数 | ①3件(5年) ②5件 ③不明(記録なし) |
| B-4 | 兆候から故障までの時間 | ①数週間(保全担当の経験値) ②数日 |
| C-1 | センサーの種類 | ①加速度センサー(軸受部2点) ②吐出圧力(既存)と漏れ検知 ③電流(インバータから取得) |
| C-3 | サンプリング周期 | ①10kHzで10秒間を1時間ごと ②③1秒周期で常時 |
| D-2 | 故障の記録項目 | CMMSに日付と作業内容のみ。故障モードは自由記述 |
| D-3 | 設備IDの一致 | CMMSの設備番号とPLCのタグ名が別体系。対応表なし |
| E-3 | 誤報の許容件数 | 週1件まで(それ以上は点検が回らない) |
この例では、B-2で故障事例が少ない(軸受は5年で3件)ことが分かります。故障事例を教師データにして学習する方法は取りにくいため、正常時のデータから外れを見る異常検知で始め、D分野の整備(故障モードの分類、設備IDの対応表)を並行して進める計画になります。
保全履歴(D分野)がAIの評価を左右する
予知保全AIの精度を評価するには、「いつ、どの設備で、どの故障が起きたか」の記録が必要です。この記録がCMMS(保全管理システム)に自由記述で残っているだけだと、アラームが本当の故障の前兆だったのかを判定できません。
D分野では、保全記録の項目に「故障モード(選択式)」「発見日時」「停止開始・終了日時」「交換部品」を加えることを計画します。過去分は、保全担当が自由記述を読んで故障モードを付け直します。保全記録を教師データにする手順は保全記録(CMMS)を予知保全AIの教師データにするで詳しく扱っています。
よくある質問
故障がほとんど起きない設備でも予知保全AIは使えますか?
故障事例が少ない設備では、故障を分類するAIは作れません。正常時のデータだけで学習し、普段と違う状態を検知する異常検知から始めます。ただし、検知した異常が故障につながるかは保全担当の判断が必要になるため、E分野の「アラーム後の行動」を具体的に決めておきます。
センサーのサンプリング周期は高いほどよいですか?
高すぎるとデータ量と通信・保存の費用が増えます。振動のように高い周期が必要な信号は、一定間隔で短時間だけ記録するトリガー方式にすると、データ量を抑えられます。シートのC-3とC-4は、故障モードに必要な周期と保存費用のバランスを決める項目です。
30項目をすべて埋めないと始められませんか?
対象設備1台について、B分野で故障モードを1〜2個に絞れば、まずその分だけ埋めて始められます。最初から全設備・全故障モードを計画しようとすると、計画だけで数か月かかります。停止損失(A-3)が大きく、兆候から故障までの時間(B-4)が長い故障モードから選ぶのが一般的です。
5分野30項目の計画シートと、故障モード別センシングの早見表、冷却水ポンプの記入例つきです。
