高頻度データの量は桁が違う

温度や圧力のような値は、1秒に1点でも1日8万6,400点です。振動や音は事情が違います。予知保全の研究で広く使われるCWRUの軸受データは、加速度センサを12kHzと48kHzでサンプリングしています。12kHzなら1秒に1万2,000点で、1チャネルだけでも温度センサの1万倍以上のデータ量になります。日立が公開した機械の音のデータセット(MIMII Dataset)は、4機種を8チャネルのマイクで16kHz・16bitで録音したもので、全体で100.2GBあります。

CWRU軸受データの加速度センサのサンプリング周波数
12kHz・48kHz
Zhang et al.のレビュー(arXiv 1901.08247、2020年改訂)
MIMII Dataset(4機種・8ch・16kHz)の全容量
100.2GB
Hitachi(Zenodo、2019年9月)

外観検査の画像も、1枚数MBの画像をタクトごとに撮れば、1ラインで1日数十〜数百GBになります。これをすべてクラウドに送り、何年も保存すると、費用は収集・分析の費用を上回ります。高頻度データは、取り方と同じくらい、残し方の設計が重要です。

設計項目1・2:何を常時送り、何を残すか

基本の方針は、エッジ(設備の近くのコンピュータ)で特徴量化し、常時は要約値だけを送り、生データは条件を満たしたときだけ残すことです。

センサから高頻度データをエッジで受け、特徴量を常時送信し、異常時と定期サンプルの生データだけを保存する構成 振動・音・カメラkHz・画像 エッジ特徴量化(RMS・周波数帯域・判定)直近の生データを一時保持 常時:要約値・判定結果秒〜分ごと、長期保存 異常時:前後の生データ再学習・原因調査用 定期サンプル:正常の生データドリフト確認・再学習用
高頻度データの扱いの基本形。エッジで特徴量化し、常時は要約値を送り、生データは異常時と定期サンプルだけ残す。

設計項目1は、常時送る特徴量の選び方です。振動なら、RMS(実効値)、ピーク値、クレストファクタ、故障モードに対応する周波数帯域のエネルギーなどです。どの特徴量が必要かは、対象の故障モードと、予知保全の手法で決まります。センサと特徴量の選び方は予知保全のセンサ選定を参照してください。画像なら、判定結果、異常スコア、欠陥の位置と大きさが特徴量になります。

設計項目2は、生データを残す条件です。次の3種類を残すのが一般的です。

  • 異常時:AIの異常スコアが閾値を超えたとき、アラームが出たとき、検査で不良と判定されたときの、前後一定時間の生データ(または不良画像)
  • 定期サンプル:正常時の生データを、1時間に1回、1日に数回など決まった間隔で残す。モデルの再学習と、データの傾向の変化(ドリフト)の確認に使う
  • 人の判断で残すもの:保全担当者が気になる音を聞いた、設備を改造した前後、など

設計項目3・4:保存期間と圧縮

設計項目3は、保存期間です。データの種類ごとに、何に使うかから期間を決めます。

データ主な用途保存期間の考え方
要約値・判定結果傾向の監視、OEE・品質の分析長期(数年)。量が小さいので費用は小さい
異常時の生データ原因調査、モデルの再学習長期。故障や不良の事例は少なく貴重
正常時の定期サンプル再学習、ドリフトの確認1〜2年程度。季節変動を含む期間は残す
全量の生データ(エッジ)異常発生時の遡り数時間〜数日のリングバッファ
検査画像(良品)監査、モデルの再学習品質記録の規程と、再学習に必要な枚数で決める

設計項目4は、圧縮の方法です。圧縮には、情報を失わない可逆圧縮と、失う非可逆圧縮があります。生データを残す場合は、可逆圧縮か、非可逆でも分析に影響しない形式を選びます。注意したいのは、ヒストリアンのデッドバンド圧縮(値の変化が小さいと記録しない設定)です。この圧縮は温度のような緩やかな値には向きますが、振動の波形に使うと、異常の兆候になる高周波の成分が消えます。詳しくはヒストリアンのデータはそのままAIに使えるかで扱っています。

エッジに置く処理と、その管理

特徴量化と異常時の切り出しをエッジで行う構成では、エッジの処理が増えます。エッジの機器の選び方と、多数の機器でのモデルの配布・版管理はエッジAIとはで扱っています。ここでは、高頻度データに特有の注意点を3つ挙げます。

  1. 特徴量の計算式を版管理する:エッジで計算する特徴量の定義を変えると、過去の要約値と比べられなくなります。計算式の版を要約値と一緒に記録します
  2. 生データとの対応を残す:異常時に切り出した生データと、そのときの要約値・判定結果を、設備IDと時刻で対応付けて保存します
  3. 時刻を揃える:振動・画像とMESの実績を結合するには、エッジの時刻が同期している必要があります

よくある質問

全量の生データを残さないと、後で新しいAIを作るときに困りませんか?

困ることはあります。そのため、正常時の定期サンプルを残しておきます。新しいAIの学習には、全量より、条件の異なる正常データと、異常時のデータがあることの方が重要です。新しい用途が見つかったら、その時点から必要なデータを追加で残します。

クラウドとエッジのどちらに保存するのがよいですか?

要約値と異常時の生データはクラウドやデータ基盤に集め、横断の分析と再学習に使います。全量の生データの一時保持はエッジで行います。推論をどこに置くかの判断は推論はエッジかクラウドかで扱っています。

画像の良品データはどれくらい残すべきですか?

再学習に必要な枚数と、品質記録の規程の両方で決めます。品質記録として画像の保存が求められていない場合は、良品は定期サンプルと、判定が境界付近だった画像を中心に残すと、再学習に役立つデータを効率よく貯められます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。