規模による差は大きいが、始め方はある
2025年版ものづくり白書を解説したMONOistの記事によると、製造工程でデジタル技術を活用している割合は、従業員301人以上で67.9%、50人以下で31.5%と、36.4ポイントの差がありました。製造工程でAIを使っている企業は12.2%で、大企業に限ると31.3%です(JILPT調査、2025年5月)。
規模の差の背景には、人手と予算に加え、「設備が古くて何から手を付ければよいか分からない」という事情があります。ただ、AIの前段階として最初に必要なのは、高度なセンサではなく、設備がいつ動き、いつ止まり、何個作ったかという稼働と実績のデータです。これは古い設備からでも取れます。
5つの方法の比較
| 方法 | 取れるデータ | 向く設備 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 1 積層灯(シグナルタワー)の信号 | 稼働・停止・異常の状態と時間 | 積層灯が付いている設備全般 | 設備に手を入れずに取り付けやすい | 停止の理由は分からない。灯の意味が設備ごとに違う |
| 2 電流センサ | 稼働状態、負荷の大小、サイクルの区切り | モーターで動く設備、古い工作機械・プレス | 電源線にクランプするだけで、制御に触れない | 電気工事の資格・安全手順が必要な場合がある。閾値の調整が要る |
| 3 カメラでメーター・表示器を読む | アナログメーター、カウンタ、表示器の値 | 通信できないが表示器がある設備、巡回点検の計器 | 設備に一切触れない | 照明・角度・汚れで読み取り精度が変わる |
| 4 PLCへの直結 | 稼働、生産数、アラーム、加工条件など詳細 | PLCが付いている設備 | 取れる情報が最も多い | PLCの機種・通信方式の確認と、ラダーの理解が必要。設備ベンダーとの調整 |
| 5 タブレットでの実績・停止理由の入力 | 生産数、不良数、停止理由、作業者 | すべての工程(手作業を含む) | 機械で取れない「理由」を記録できる | 入力の手間と、入力の質の管理 |
方法1・2:状態と稼働時間を取る
最初の一歩として取り組みやすいのは、積層灯の信号か電流センサで「動いているか止まっているか」を取る方法です。これだけで、設備ごとの稼働率と停止の時間帯が分かります。チョコ停(短時間の停止)が多い設備、段取りに時間がかかっている設備が見えてきます。
国内では、この種の稼働監視・実績収集のサービスが多く出ています。たとえばスカイディスクと須崎工業は2026年8月31日、プレス加工業向けの稼働監視・実績収集サービス「Smart Kaizen Counter」を発表しています。
方法3:カメラで読む
通信できない計器や表示器は、カメラで撮影して画像から値を読む方法があります。LiLzは、無線IoTカメラとAIでアナログメーターを遠隔から自動で読み取る「LiLz Gauge」を提供しています。設備に手を入れずに済むため、点検業務の省力化と合わせて導入しやすい方法です。詳しくは設備点検のAI化で扱っています。
方法4:PLCに直結する
PLCが付いている設備なら、PLCのデータを直接読むのが最も多くの情報を取れる方法です。ただし、どのデバイス(アドレス)に何の値が入っているかを、ラダー図や設備ベンダーへの確認で調べる必要があります。調べた結果は、後でAIに使うときのためにタグの対応表として残します。
方法5:人が入力する
機械から取れるのは「止まった」という事実までで、「なぜ止まったか」は人が入力するしかありません。設備から取った停止の記録に、タブレットで停止理由を選んで付ける形にすると、AIや改善活動に使えるデータになります。群馬合金(非鉄ダイカスト、125人)は、自社製の生産実績モニタで手書きの日報を廃止したと、中小機構の省力化ナビで紹介されています。
最初の1台から始める手順
- 困りごとを1つ決める:「納期遅れの原因の設備はどれか」「チョコ停がどれだけあるか」など、データで答えたい問いを1つに絞る
- 対象を1台に絞る:ボトルネックになっている設備か、止まると影響が大きい設備を選ぶ
- 取り方を選ぶ:上の5つから、設備の状態と予算に合う方法を選ぶ。複数を組み合わせてもよい
- 2週間試す:取ったデータと、現場の感覚・日報を突き合わせ、信号の閾値や停止の判定を調整する
- 見る場を決める:朝礼や週次の会議でデータを見る場を作る。見られないデータは集めても使われない
- 横展開する:1台目で決めた設備名・データ項目の名前を、2台目以降も同じ規則で付ける
よくある質問
MESを入れないとデータ活用はできませんか?
できます。稼働と停止、生産数のデータだけでも、ボトルネックの特定やチョコ停の削減など、多くの改善に使えます。ロットや品番との紐付けが必要になった段階で、実績入力の仕組みやMESの導入を検討すれば十分です。
設備メーカーのサポートが終わった古い設備でも大丈夫ですか?
積層灯の信号、電流センサ、カメラでの読み取りは、設備の制御に手を入れないため、サポートの有無に関係なく使えます。PLCへの直結は、設備の改造にあたらない読み取りのみの接続でも、事前に影響を確認してください。
社内にITに詳しい人がいません。どうすればよいですか?
取り付けから見える化までをセットで提供するサービスを選ぶと、社内の負担が小さくなります。ただし、何を知りたいか、データをどの会議で見るかは、社内で決める必要があります。地域の公設試験研究機関やよろず支援拠点に相談する方法もあります。
この記事に出てくる用語
AIは「データ基盤」で決まる
PoCは成功したのに本番で止まる。原因の多くはモデルではなく、MESと設備データの側にある 全130本
- MESとAIの関係:ロット・作業指示・品質判定がAIの精度を決める理由
- 製造業AIが本番で止まる7つの理由:PoCは成功したのにラインに載らない構造
- 製造業のAI-OCR:紙の検査記録・点検表・ミルシートをデータ化する手順
- データ基盤の段階的導入ロードマップ:ユースケースから逆算する8ステップ
