撮像は学習より先に固める
外観検査AIの精度の大部分は撮像系で決まります。欠陥が画像上で周囲と区別できるコントラストを持って写っていなければ、どの手法を使っても検出できません。逆に、欠陥がはっきり写る条件を作れれば、単純な手法でも十分な精度が出ることがあります。
撮像条件を決めずに学習データを集め始めると、照明を変えた時点でデータを撮り直すことになります。撮像条件の確定、データ収集、学習という順番を崩さないことが、PoCの手戻りを減らす最も確実な方法です。
撮像で決める項目は、照明の方式と角度、カメラの解像度とレンズ、露光時間、偏光の有無、そしてワークの位置決めの再現性です。最後の位置決めは見落とされがちですが、ワークが毎回数ミリずれる状態では、位置ごとに良品の分布を持つPaDiMのような手法の精度が落ちます。
照明6方式と向く欠陥
照明は「欠陥部分だけ光の反射の仕方が変わる」条件を作るための道具です。凹凸は斜めからの光で影を作り、平面の汚れは正面からの光で反射率の差を出し、透過する材質は背面からの光で内部や輪郭を見ます。
| 照明方式 | 光の当て方 | 向く欠陥 | 向く表面 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 同軸落射 | カメラと同じ軸で真上から | 平面の傷・汚れ・印字のかすれ | 鏡面・光沢のある平面 | 曲面では反射が逃げる |
| ドーム | 半球内面で拡散した光を全方向から | 曲面上の汚れ・色ムラ | 曲面・凹凸のある光沢面 | 浅い凹凸の影は消える |
| ローアングル | 低い角度で横から | 打痕・へこみ・バリ・刻印 | 平らな面の微小な凹凸 | ワークの高さ変動に弱い |
| バックライト | ワークの背面から | 外形寸法・欠け・穴・透明体内の異物 | 透過材・シルエット検査 | 表面の傷は見えない |
| リング | カメラ周りの円環から斜めに | 汎用(初期の当たり付け) | 拡散面 | 鏡面では映り込みが出る |
| 縞パターン | 明暗の縞を映し込む | 塗装面の凹凸・うねり | 鏡面・塗装面 | 多視点撮像が要る |
方式は1つに絞る必要はありません。上面の傷は同軸、エッジの欠けはバックライト、というように照明を切り替えながら複数枚撮るのが一般的です。その分タクトとカメラ台数が増えるため、検査項目を絞り込んでから構成を決めます。
カメラ解像度と露光の決め方
解像度は「検出したい最小欠陥が画像上で数ピクセル以上になるか」で決めます。視野を広く取るほど1ピクセルあたりの実寸が大きくなり、小さな欠陥が潰れます。視野の幅をカメラの横方向画素数で割った値(1画素の分解能)と、最小欠陥の大きさを比べてください。1台で足りなければ、視野を分割して複数台で撮るか、ワークを動かして複数回撮ります。
露光時間は搬送速度とセットで決めます。ワークが動いている間に撮るなら、露光中の移動量が1画素未満になる短い露光と、それを補う強い照明(ストロボ)が必要です。照明の明るさが足りないまま露光を延ばすと、ブレで微小な欠陥が消えます。
公開データセットの作り方も参考になります。30物体・約15万枚の外観検査データセットReal-IADは、1視点では見えない欠陥があるため、真上1台と約45度の4台、計5視点で撮影しています(Wang et al., arXiv 2403.12580)。立体形状のワークでは、1方向からの撮像で全欠陥を写すのは難しいと考えておくべきです。
撮像条件の探索を自動化する動き
照明とカメラ条件の組み合わせ探索は、これまで熟練者の試行錯誤に頼ってきました。PFUは、CADデータから欠陥を仮想的に生成し、照明・カメラ条件を探索する外観検査設計の技術を開発しています。石川県工業試験場との検証では、条件探索にかかる時間が約6時間から30分(90%超の短縮)になり、欠陥検出率は71.5%から85.1%に上がったと発表されました(2026年9月24日発表、MONOist 2026年9月29日報道)。この技術はNEDOの「ものづくりDXチャレンジ」テーマ2で1位を受賞しています。
この数字は検証対象のワークと欠陥での結果で、あらゆる製品に当てはまるわけではありません。それでも、撮像条件を変えるだけで検出率が10ポイント以上動くという事実は、撮像を先に詰める価値を示しています。
撮像条件を記録し、判定と紐付けて残す
撮像条件は設定値として管理し、変更したら履歴を残します。照明の設定、露光時間、カメラのゲイン、レンズの絞りを、検査装置の設定ファイルとして版管理しておけば、精度が落ちたときに「いつから何が変わったか」を追えます。
さらに、検査結果をMESなどに記録するときに、撮像条件の版も一緒に残すと、不良率の変化が工程の問題なのか撮像の問題なのかを切り分けられます。設備の保全記録(照明交換、レンズ清掃)と突き合わせられる形にしておくと、再学習が必要かどうかの判断にも使えます。記録の設計は外観検査AIの判定結果をMESに戻すで、凹凸の検査で2D照明の限界を超える方法は3D外観検査AIの使いどころで扱っています。
よくある質問
照明やカメラはAIベンダーに任せてよいですか?
撮像系まで含めて提供するベンダーと、AIソフトだけを提供するベンダーがあります。ソフトだけの場合、撮像は自社かマシンビジョンのSIerが担当します。誰が撮像条件を決め、量産後に誰が維持するのかを契約前に確認してください。
カラーカメラとモノクロカメラはどちらがよいですか?
色ムラや異色異物を見る場合はカラーが必要です。傷・凹凸・形状が対象ならモノクロのほうが同じ画素数で高い分解能と感度を得やすく、選ばれることが多くなります。対象の欠陥で決めてください。
偏光フィルタはいつ使いますか?
金属や樹脂の光沢面で、照明の映り込み(正反射)が欠陥を隠してしまう場合に使います。偏光で正反射を抑えると、表面の傷や汚れのコントラストが上がることがあります。光量が落ちるため、照明を強める必要があります。
この記事に出てくる用語
外観検査AIの選び方
良品学習か不良学習か、撮像系を誰が持つか。精度の数字だけで選ばないための比較軸 全51本
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