枚数より「ばらつきを代表しているか」

外観検査AIの学習データで重要なのは、枚数そのものより、量産で起こりうる良品のばらつきを含んでいるかどうかです。同じ日に同じロットから1,000枚集めても、別のロットの材料で色味が少し変われば、AIはそれを異常と判定するかもしれません。逆に、ロット・材料・季節・照明の変化を含む良品を数十〜数百枚集められれば、良品学習は十分に立ち上がります。

枚数の目安として公開データセットの数字はよく引用されます。代表的な外観検査ベンチマークMVTec ADは15カテゴリで、学習用の良品は計3,629枚、1カテゴリあたり平均200〜250枚程度です。テスト用は1,725枚で、欠陥は73種類、1カテゴリ平均約5種類です。この「良品200枚程度」は、条件の整った撮像環境で集めた画像での目安にすぎず、量産のばらつきを含んだ枚数ではありません。

MVTec ADの学習用良品(15カテゴリ合計)
3,629枚
Dataset Ninja掲載のMVTec AD統計。1カテゴリ平均200〜250枚程度
VisAの少数ショット設定の学習枚数
5〜10枚
Zou et al.(arXiv 2207.14315)。研究上の設定で量産向けの目安ではない
Real-IADの総枚数(30物体・5視点)
約15万枚
Wang et al.(arXiv 2403.12580、2024年3月)

研究では少数の良品で学習する設定も評価されています。VisAデータセットの少数ショット設定は、学習画像を5枚または10枚に絞り、5回の試行で平均を取ります。これは手法の比較のための設定で、量産の合否判定に5枚で足りるという意味ではありません。

3種類のデータを分けて集める

外観検査AIのデータは、役割の違う3種類に分けて考えます。

種類役割枚数の考え方集め方の要点
学習用の良品良品の分布を学ぶ数十〜数百枚。ばらつきの種類が多いほど増やす複数ロット・材料・日・時間帯に分散させる
学習用の不良欠陥の種類を学ぶ(不良学習の場合)欠陥クラスごとに十分な枚数まれな欠陥は集まらない前提で計画する
評価用(良品+不良)見逃し率・過検出率を測る不良は種類ごとに数十枚以上が望ましい学習に使わない。先に確保してから学習に回す

最も不足しやすいのは評価用の不良です。良品学習なら学習に不良は要りませんが、閾値を決めて見逃し率を測るには、学習に使わない実際の不良が必要です。不良率の低いラインでは、PoCの期間中に十分な不良が集まらないことがあるため、過去に除けた不良品の保管分や、別ラインの同種の不良品を撮像して補います。

集中収集と分散収集の比較 悪い例:1日・1ロットで300枚 良品の分布 別ロットの良品が「異常」になる 良い例:10ロット×30枚 良品の分布(ばらつきを含む) 材料・季節の変化を良品として扱える
学習データ収集の考え方。枚数を1日で集めるより、ロット・材料・時間帯に分散させるほうが量産の精度に効く。

集め方の実務

良品データは、ロットを意識して集めます。1日に300枚集めるより、10ロットから30枚ずつ集めるほうが、量産で過検出が出にくくなります。材料の仕入先が複数ある、季節で外気温や湿度が変わる、設備や治具が複数あるといった場合は、それぞれの条件を含めてください。

不良データは、検査工程で除けた不良品を捨てずに保管し、撮像する仕組みを作ります。欠陥の種類、発生日、ロットを記録したラベルを付けて保管すると、後で撮像したときに正解ラベルとして使えます。不良が集まらない欠陥を人工的に作る(意図的に傷を付ける)方法もありますが、実際の欠陥と見た目が違うことがあるため、評価には実物の不良を使ってください。合成データの使い方は不良画像が足りないときの合成データで扱っています。

ラベル付けは、限度見本に照らして行い、判断が割れる画像は複数人で判定します。ラベルの揺れはそのままAIの精度の上限になります。ラベル付けのルールは製造業AIのアノテーションでも整理しています。

画像は「品質データ」として保存する

学習データは、画像ファイルだけを保存しても再利用しにくくなります。画像ごとに、品番、ロット、撮影日時、設備、撮像条件の版、ラベル(良品か、欠陥の種類)、ラベルを付けた人を記録してください。

これらの情報をMESなどの生産実績と同じキー(ロット・シリアル)で引けるようにしておくと、次のことができるようになります。過検出が特定のロットで増えたとき、そのロットの材料や設備の記録と突き合わせられます。再学習するときに、どの期間・どのロットの画像を使ったかを記録でき、品質監査で説明できます。別ラインに横展開するときに、似た条件の画像を探して転用できます。判定結果の記録方法は外観検査AIの判定結果をMESに戻すを参照してください。

よくある質問

良品が100枚しかありませんが始められますか?

始められます。ただし、その100枚が何ロット・何日分かを確認してください。少ないロットからの100枚なら、PoCの評価ではほかのロットの良品を必ず含め、過検出が増えないかを見ます。増える場合は、ロットを広げて良品を追加します。

画像の解像度を下げれば枚数を増やせますか?

枚数を増やす目的で解像度を下げると、小さな欠陥が潰れて見えなくなります。解像度は検出したい最小欠陥から決め、枚数とは切り離して考えてください。

品種が多い場合、品種ごとに200枚ずつ必要ですか?

外観が大きく違う品種はモデルを分けることが多く、その場合は品種ごとにデータが要ります。外観が似ている品種はまとめて学習できることもあります。まず生産量の多い品種から始め、似た品種へ広げる進め方が現実的です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。