天昇電気工業の取り組みで公表されていること

中小企業基盤整備機構(中小機構)の省力化事例集「省力化ナビ」の事例0025によると、プラスチック製品を手がける天昇電気工業の三重工場(約140人)は、動画マニュアルと動画比較ツールを導入しました。その結果、組立工程の人員を約75名から約50名にし、熟練者レベルに達するまでの習熟期間は約7分の1になったとされています。

組立工程の人員
約75名→約50名
中小機構 省力化ナビ 事例0025(天昇電気工業 三重工場)
熟練者レベルまでの習熟期間
約1/7
同事例
三重工場の規模
約140人
同事例

数字を読むときには、人員の減少がすべて動画マニュアルによるものとは限らない点に注意が必要です。事例集は省力化投資の事例としてまとめられており、生産量の変化や他の施策の影響を切り分けた数字ではありません。それでも、従業員140人規模の工場で、教育の仕組みを変えることが人員配置に効いたという事実は、中小製造業にとって参考になります。

効果が出た仕組み:動画マニュアルと「比較」の組み合わせ

この事例で注目したいのは、動画マニュアルだけでなく動画比較ツールを使っている点です。動画マニュアルは「正しいやり方」を見せる道具ですが、見ただけで同じ動きができるとは限りません。新人が自分の作業を撮影し、熟練者の動画と並べて見比べることで、どこが違うかを自分で確かめられます。

熟練者の撮影、動画マニュアル化、新人の練習と撮影、熟練者動画との比較、指導者の確認という循環 熟練者を撮影手元・道具の角度 動画マニュアル要所に字幕 新人が練習自分を撮影 並べて比較違いを自分で発見 指導者が確認要点だけ指導 合格まで練習と比較を繰り返す
動画マニュアルと動画比較を組み合わせた教育の流れ。

この形では、熟練者が付きっきりで教える時間が減ります。熟練者は比較の結果を見て要点だけを指導すればよくなり、同時に複数の新人を見られるようになります。習熟期間の短縮と、熟練者を本来の作業に戻すことの両方が、人員の削減につながったと読めます。

他の事例との対比:箔一の職人技とスマホ動画

動画による伝承は、組立のような定型作業だけのものではありません。ITmedia ビジネス(2026年10月7日)によると、金沢の金箔工芸メーカー箔一は、L is Bのナレッジ動画を使い、職人の手元の動き、道具の角度、力加減をスマホで撮影して伝承しています(職人約100人)。

項目天昇電気工業箔一
業種プラスチック製品(組立)金箔工芸
伝える技能組立の手順と動作手元の動き、道具の角度、力加減
主な道具動画マニュアル+動画比較ツールスマホ撮影のナレッジ動画
公表された成果人員約75→約50名、習熟期間約1/7職人約100人での運用(効果の数値は記事中で非公表)

2社に共通するのは、専用の撮影機材や大がかりなAIを使わず、撮影の手軽さを優先した点です。技能の性質は違っても、現場の人が自分で撮って投稿できることが、継続の条件になっています。

自社に当てはめるときの確認点

天昇電気工業と同じ効果を狙うなら、次の条件が自社にあるかを確認します。

  • 作業が目で見て分かる動きで構成されているか。判断や感覚が中心の作業は動画だけでは伝わりにくい
  • 熟練者のやり方が1つに揃っているか。熟練者ごとに流儀が違う場合、先に標準を決める必要がある
  • 新人の作業を撮影して比較する時間を、教育計画の中に確保できるか
  • 動画を更新する担当者がいるか。製品や治具が変われば動画も古くなる

最後の点は見落とされがちです。動画マニュアルは作った直後が最も正確で、設計変更や治具の改修のたびに実態とずれていきます。どの品番・どの版の作業指示に対応する動画かを管理し、MESや作業指示書の改訂と連動させて見直す運用にしておくと、古い動画で教えてしまう事故を防げます。

動画マニュアルを続けるための運用

動画マニュアルが使われなくなる典型的な理由は3つあります。動画が長すぎて要点が分からない、探したい動画が見つからない、内容が古くなっている、です。1本の動画は1つの要素作業に絞って1〜3分に収め、品番・工程・作業名で検索できるようにタイトルとタグの付け方を決めておきます。更新については、作業標準書の改訂と同じ承認の流れに動画を含め、改訂のたびに該当動画の撮り直し要否を確認する手順にします。

教育の記録も残しておくと効果を説明しやすくなります。誰がどの動画を見て、いつ比較の練習をし、いつ認定を受けたかを記録しておけば、動画の導入前後で習熟期間がどう変わったかを工程別に示せます。中小企業でも、表計算で十分に管理できる範囲です。

よくある質問

動画マニュアルの撮影にはどんな機材が必要ですか

スマホで始められます。重要なのは機材より画角で、手元と道具が隠れずに映る位置を決めることです。固定用のスタンドと、手元を照らす照明があると品質が安定します。

動画マニュアルと紙の作業標準書は両方必要ですか

品質記録や監査の観点では、作業標準書を正本として残し、動画はその補助と位置づけるのが一般的です。動画と標準書の版を対応させておくと、改訂漏れを防げます。

外国人従業員の教育にも使えますか

動きを見せる動画は言語に左右されにくく、効果が出やすい分野です。字幕を多言語で用意すれば、さらに使いやすくなります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。