結論:基盤と標準は中央、テーマと運用は工場が持つ
製造業のAI推進体制で横展開が進むのは、中央の推進組織(CoE:Center of Excellence)がデータ基盤・共通ツール・評価の標準を持ち、工場がテーマの選定と現場での運用を持つ分担です。事業部はその間で、投資判断と工場間の優先順位を決めます。
逆に、IT部門だけでAIを進めると現場の課題とずれ、工場だけで進めると同じデータ整備を工場ごとに繰り返します。2026年版ものづくり白書を読み解いたMONOistの連載でも、「IT部門主導ではDXは成功しない?」という論点が取り上げられています。
| 担い手 | 持つもの | 持たないもの |
|---|---|---|
| CoE(中央) | データ基盤・MES連携の標準、共通ツールと契約、PoC評価の型、AI台帳、人材育成の枠組み | 個別テーマの優先順位、現場の運用ルール |
| 事業部 | 投資判断、工場間のテーマの優先順位、効果の刈り取り | ツールの選定、データの持ち方 |
| 工場 | テーマの発掘、データの品質責任、現場での運用、再学習のきっかけの検知 | 基盤の独自構築、ベンダー契約の個別締結 |
よく見られる5つの体制の型
推進体制には、実務上次の5つの型があります。どれか一つが正解というより、企業の規模と段階によって移っていくものです。
① IT部門単独型
情報システム部門がAIツールを選定・導入する形です。生成AIの全社導入のように、どの部署でも同じ使い方をする用途では機能します。外観検査や予知保全のように工程の知識が要る用途では、課題設定が現場とずれやすくなります。
② 工場自律型
工場の生産技術や品質保証が自らテーマを選び、ベンダーとPoCを進める形です。立ち上げは速い一方、工場ごとにツールとデータの持ち方が違い、成功しても他工場に持っていけません。
③ 中央集権型
本社のCoEがテーマ選定から開発・運用まで担う形です。標準化は進みますが、工場の要望がCoEに集中し、CoEの人数が上限になります。
④ ハブ&スポーク型
CoEが基盤・標準・育成を持ち、各工場に推進担当(スポーク)を置く形です。テーマは工場が発掘し、CoEの型に乗せて進めます。製造業で横展開まで進んだ企業に多い型です。
⑤ 子会社・合弁型
デジタル機能を子会社や外部との合弁に集約する形です。日本精工はアクセンチュアと合弁会社「NSKデジタル」の設立に合意し、AI・データ基盤の整備と人材育成を担わせるとしています(出資比率はアクセンチュア65%、NSK35%、2027年4月1日設立予定、2026年10月報道)。外部の人材と処遇制度を使える利点がある一方、工場との距離をどう保つかが課題になります。
責任者とデータの持ち方が体制の成否を分ける
型を選ぶより重要なのは、責任者の権限と、データ基盤を誰が持つかです。
McKinseyが2018年に7市場・700社超を調べた調査では、デジタル製造を全社展開できた企業は約30%で、C-levelの責任者を置いている企業は36%、ライトハウス工場(模範工場)を設けている企業は25%でした。責任者の権限についてはCDO・DX推進責任者の役割で詳しく扱います。
データ基盤の担い手が決まっていないと、どの型でも横展開で止まります。MESの実績データ、設備データ、検査結果を工場横断で同じ形式に揃える仕事は、CoEが持つべきです。具体的な分担はデータ基盤を誰が持つかを参照してください。
段階に応じて型を移す
推進体制は固定するものではありません。多くの製造業は次の順で移っていきます。
- 立ち上げ期:②工場自律型で1〜2テーマを成功させ、社内に実例を作る
- 拡大期:成功テーマの担当者を中心にCoEを作り、④ハブ&スポーク型に移る
- 定着期:データ基盤とAI台帳をCoEが一元管理し、工場の推進担当を正式な職務にする
立ち上げ期から③中央集権型にすると、現場の実例がないままCoEだけが大きくなり、説得力のある成果が出にくくなります。
よくある質問
CoEは何人から作ればよいですか
人数より機能で考えます。データ基盤・MES連携の標準を決める人、PoC評価の型を持つ人、ベンダー契約と台帳を管理する人の3機能がそろえば、少人数でも始められます。
IT部門と生産技術のどちらが主導すべきですか
テーマの選定と評価は生産技術・品質保証など現場側、基盤とセキュリティはIT部門が持つ分担が基本です。どちらか一方に寄せると、現場とのずれか、横展開できない作りのどちらかが起きます。
外部のコンサルやSIerはどこに置けばよいですか
CoEの機能を補う位置に置き、標準と台帳は自社で持ちます。外部に基盤の設計まで任せると、契約が終わったときに社内に何も残りません。
