医療機器の製造でAIが入りやすい領域
医療機器の製造は、組立加工でありながら、医薬品に近い記録と変更管理の要求を受けます。そのため、AIが入りやすいのは、製品の安全性の判断を直接担わない領域からです。
| 領域 | AIの使い方 | QMS上の位置づけ | 導入の難しさ |
|---|---|---|---|
| 検査記録のデジタル化 | 手書きの検査記録・成績書をAI-OCRで読み取る | 記録の作成支援(人が確認) | 低 |
| 外観検査の補助 | 画像AIで一次判定し、人が確定する | 検査工程の一部(並行運用で検証) | 中 |
| 作業の確認 | 組立手順の抜け漏れを画像で確認 | 作業者の補助 | 中 |
| 文書業務の支援 | 手順書・苦情報告の検索と下書き | 業務支援 | 低 |
| 合否判定の自動化 | AIの判定を最終判定に使う | 検査工程そのもの | 高 |
製品の安全性に直結する合否判定をAIに任せるのは、検証と変更管理の負担が最も重い使い方です。多くの企業は、記録と検査補助から始めています。
検査記録のAI-OCR:読み取りと確認を分ける
医療機器の工場では、紙のチェックシートや外部の検査成績書がまだ多く残っています。AI-OCRで読み取ってデータ化すれば、転記の手間と転記ミスを減らせます。PFUのコラムでは、ベンダーの標準帳票で文字認識率99.2%を紹介する一方、日常業務の帳票では80〜90%程度の精度を前提にしています(2025年7月)。
検査補助:シリアルとモデルの版を結びつける
外観検査の補助にAIを使う場合、判定結果を製品のシリアル番号と結びつけ、さらにどの版のモデルで判定したかを記録します。不具合が後で見つかったとき、同じモデルの版で判定した製品の範囲を特定できるようにするためです。
モデルの版をロットやシリアルの記録に残す運用は工場向けMLOpsで扱っています。
変更管理:再学習を「設計変更」と同じ手順で扱う
医療機器のQMSでは、製造工程の変更は評価と承認を経て行います。AIの再学習も工程の変更に当たると考え、次の点を手順書に書いておきます。
- 再学習を行う条件(精度の低下、製品の設計変更、撮像系の変更)
- 再学習に使うデータの範囲と、ラベル付けの基準
- 再学習後に確認する評価データと合格基準
- 承認者と、旧モデルに戻す手順
海外規制の動向:EU AI Actと機械規則
EUに医療機器を出荷する企業は、EU AI Actの動向を確認する必要があります。AI ActはAnnex Iに挙げた既存の製品安全規制の対象製品について、その安全部品となるAIで第三者の適合性評価が必要な場合を高リスクとする構造です。2026年7月27日に発効したAI Omnibusで、この製品組込み型の高リスク義務の適用は2028年8月2日に延期されました。第6条では、性能最適化や品質管理のように安全目的でないAIは安全部品に当たらないとされる一方、故障が健康・安全を脅かす場合は除外されないとしています。
製造工程の品質管理に使うAIの多くは製品そのものに組み込まれないため、直接の対象外になりうると考えられます。ただし、製品にAIを組み込む医療機器は、医療機器規制とAI Actの両方の要求を受ける可能性があり、個別の確認が必要です。
よくある質問
医療機器の検査工程でAIを使うと、届出や承認の変更が必要になりますか
製品や国・地域の規制、製造方法の届出内容によって異なります。検査方法の変更が承認事項や届出事項に当たるかを、薬事担当部門と確認してから進めてください。
生成AIを苦情処理やCAPAに使えますか
過去の苦情や是正措置の記録を検索し、類似事例を提示する使い方は効果が見込めます。報告書の下書きにも使えますが、判断と承認は人が行い、生成AIへの入力情報の範囲は社内ルールで決めてください。
中小の医療機器メーカーはどこから始めればよいですか
紙の検査記録のデジタル化から始めるのが現実的です。記録がデータになれば、検査結果の傾向分析や、将来の検査AIの学習データにも使えます。
