自然言語で工場データに質問する製品が増えている

生成AIを工場のデータにつなぎ、自然言語で質問に答える製品や機能は、欧米の大手から相次いで発表されています。

  • Microsoftは2024年4月、ISA-95の情報モデルでOTとITのデータを統合する「Manufacturing data solutions in Microsoft Fabric」と、現場の作業者が自然言語で工場データに質問できるCopilotのテンプレートを発表しました(同社発表)。その後、OT/ITデータを統合して自然言語で生産の洞察を返す「Factory Operations Agent」も公開しています
  • Honeywellは2025年2月、Honeywell Forge Production Intelligenceに生成AIのアシスタントを追加し、KPIの乖離の要因や資産の関係を自然言語で分析できるとしています(同社発表)
  • OPC Foundationは2026年4月、430以上のOPC UAコンパニオン仕様を、RAG(検索拡張生成)やMCP(Model Context Protocol)で使える「AI-ready」な形式に変換する取り組みを発表しました

これらに共通するのは、生成AIの前に、工場データを意味の分かる構造(データモデル)に整理する層を置いていることです。生成AIはその層を通してデータを読みます。

要件がないと何が起きるか

MESのデータベースのテーブルを、そのまま生成AIに見せて質問させるとどうなるかを考えます。MESのテーブル名や項目名は、製品の内部仕様で付けられた略号であることが多く、例えば停止時間を表す項目が複数あったり、取消された実績が削除されずにフラグで残っていたりします。

生成AIは、これらの意味を推測してSQLを組み立てます。推測が外れると、取消済みの実績を含めて集計した、計画停止を含めて停止時間を出した、別の工場のデータを混ぜた、といった誤りが起きます。問題は、誤った回答ももっともらしい文章で返ってくるため、利用者が気付きにくいことです。自然言語でMESに質問する技術そのものはMESデータに自然言語で質問するで扱っています。

4つの要件

生成AIが工場データを正しく読むための要件は、次の4つです。

MESとヒストリアンの生データの上に、データモデル、AI向けビュー、権限、鮮度の4要件の層を置き、生成AIが読む構造 MES(実績・品質・停止・系譜) ヒストリアン(設備の時系列) 1 意味のあるデータモデル(ISA-95の資産階層・用語の定義・単位) 2 AI向けのビュー(定義済みの指標・説明文) 3 権限(読取専用・範囲)4 鮮度(更新時刻の表示) 生成AI・AIエージェント自然言語の質問と回答
生成AIと工場データの間に置く4つの要件。生成AIは生のテーブルではなく、意味の付いたビューを通してデータを読む。
要件中身満たさないと起きること
1 意味のあるデータモデル設備・工程をISA-95の資産階層(Site/Area/Line/Cell)で整理し、項目に意味・単位・コードの説明を付ける生成AIが項目の意味を推測し、誤った項目で集計する
2 AI向けのビュー「停止時間」「良品数」「OEE」など、よく聞かれる指標を、定義済みのビューや関数として用意し、説明文を付ける質問のたびに定義が変わり、人によって違う答えが返る
3 権限生成AIは読取専用。利用者の権限に応じて、見られる工場・データの範囲を絞る権限のない人が他工場や人事に関わるデータを見られる。誤ってデータを書き換える
4 鮮度データの最終更新時刻を回答に含める。リアルタイムか日次かを明示する昨日までのデータで「今」の状況を答える

要件1と2が最も効きます。生成AIに「停止時間を計算させる」のではなく、「定義済みの停止時間のビューを選ばせる」設計にすると、誤集計の大部分は防げます。OPC UAのコンパニオン仕様のような業界標準の情報モデルを使うと、要件1の作業を減らせます。この動きはOPC UAコンパニオン仕様430超のAI-ready化で扱っています。

要件3については、MCP(AIアシスタントを外部のシステムにつなぐ標準)の仕様自体が、ツールは任意のコード実行にあたり、プロトコルのレベルでは安全原則を強制できないと明記しています。工場のシステムにつなぐ場合は、読取専用から始め、書込みを伴う操作には人の承認を挟みます。権限設計はAIエージェントにMES・ERPを操作させる権限設計で扱っています。

つなぐ前の確認手順

手順1で集めた質問のうち、定義済みのビューで答えられないものは、無理に生成AIに答えさせず、「この質問には答えられません」と返す設定にします。答えられる範囲を限定する方が、利用者の信頼を得られます。

よくある質問

ヒストリアンの時系列データにも生成AIで質問できますか?

できますが、時系列データは量が多く、生成AIに直接集計させると時間がかかり誤りも出やすくなります。設備・時間帯ごとの平均や最大、アラーム件数などを事前に集計したビューを用意し、生成AIにはそれを選ばせる設計にします。生データの詳細な分析は、専用の分析ツールに任せます。

生成AIの回答の正しさはどう評価すればよいですか?

人が出した正解との一致率で評価します。数値の質問では、許容する誤差(四捨五入の違いなど)を決めておきます。誤答は、定義の違い、対象範囲の違い、データの鮮度の違いに分類すると、どの要件を直すべきかが分かります。

製品に「自然言語で質問できる機能」が付いていれば、4要件は不要ですか?

製品が要件1〜4の一部を提供している場合もありますが、自社の工場の用語、指標の定義、権限の範囲は、自社で決めて設定する必要があります。製品の機能は、要件を満たすための道具と考えます。導入前に、自社のデータで正解セットを使った評価を行うことを勧めます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。