結論:数値の判定・予測は予測AI、文書・知識の扱いは生成AI

生成AIと従来の予測AIは、得意なことがはっきり分かれています。

従来の予測AI(分析系AI)生成AI
主な出力数値、良否、確率、分類文章、要約、コード、画像
入力センサ値、画像、実績データ文書、図面、質問文、画像
学習のさせ方自社のデータで個別に学習することが多い大規模に事前学習済みのモデルを使い、社内文書を参照させる
評価見逃し率、予測誤差など数値で測れる専門家が正しさを確認する必要がある
製造業の代表例外観検査、予知保全、需要予測、品質予測手順書・保全記録の検索、不具合報告の下書き、翻訳

WEFのGlobal Lighthouse Network(先進工場の認定制度)の2025年1月の選出拠点では、上位5ユースケースのうち77%が分析系AIによるもので、生成AIを使ったものは9%でした。同年9月の選出では、上位ユースケースの最大50%がAI・生成AIを使っていると報告されています。生成AIの比率は上がっているものの、工場の中核の業務では分析系AIが中心です。

使い分けの5つの基準

業務にどちらのAIを使うかは、次の5つの基準で判断します。

  1. 出力が数値か文章か:不良の有無、需要の数量、設備の異常度のように答えが数値や分類なら予測AIです。手順の説明、報告書の文章、過去事例の要約なら生成AIです。
  2. 正解が明確に決まるか:良否や数量のように正解が後で確定する業務は、予測AIで精度を測りながら改善できます。文章の良し悪しのように正解が1つに決まらない業務は、生成AIの得意分野です。
  3. 誤りの許容度:生成AIは、もっともらしい誤り(ハルシネーション)を出すことがあります。規格値、寸法、トルク値のように誤りが品質や安全に直結する数値を、生成AIに直接答えさせるのは避けます。
  4. 処理速度と頻度:ラインのタクトタイムに合わせて毎秒判定する用途は、軽量な予測AIをエッジで動かすのが基本です。人が調べ物をする頻度の業務なら、生成AIの応答時間でも問題ありません。
  5. 学習データがあるか:自社の過去データ(画像、センサ値、実績)が十分あれば予測AIを作れます。データは少ないが文書が多い(マニュアル、報告書、規格書)なら、生成AIに文書を参照させる方式(RAG)が向きます。
出力が数値か文章か、誤りの許容度の2軸で業務を分類した図 予測AI(必須)外観検査・異常検知品質予測・規格値の判定 生成AI+人の承認8D報告・FMEAの下書き顧客向け品質回答 予測AI(効率化)需要予測・在庫の目安設備の稼働分析 生成AI(効率化)手順書・保全記録の検索議事録・翻訳・要約 ← 出力が数値・分類      出力が文章・要約 → 誤りの許容度が低い(上)↔ 高い(下)
業務を2つの軸で分けると、予測AIと生成AIの使い分けが見える。

生成AIが製造業で効く業務

生成AIが効果を出しているのは、文書と知識を扱う業務です。

  • 社内文書の検索と回答:設備マニュアル、保全履歴、過去の不具合報告を参照して、現場の質問に答えます。日立は2026年6月に提供を始めた品質保証向けの「品質ナレッジシステム」について、自社工場でトラブル対応事例の検索時間を約9割削減したとしています(同社発表)。
  • 報告書・文書の下書き:不具合報告(8Dレポート)、FMEA、作業手順書の下書きを作り、人が確認して仕上げます。
  • 翻訳と多言語の作業指示:海外工場への指示や、外国人作業者向けの手順書を翻訳します。
  • 設備故障の診断支援:日立と三菱ケミカルは2025年12月、設備図面をナレッジグラフ化し、保全記録と故障原因分析の手順を学習させた故障診断AIエージェントの共同検証を始めました。

パブリカ(ものづくり新聞)の事例DBでは、2026年6月末時点の製造業の生成AI関連事例756件のうち、最多は「経営・全社ナレッジ活用」の243件でした。品質検査は33件にとどまります。

予測AIが引き続き主役の業務

外観検査、予知保全、需要予測、品質予測、生産計画は、引き続き予測AIや最適化が中心です。理由は3つあります。

  • 精度を数値で保証する必要がある:見逃し率や予測誤差を測り、合格ラインと比べて運用します。
  • 処理速度とコスト:ラインで毎秒判定するには、軽量なモデルをエッジで動かす方が速く安くなります。外観検査の手法EfficientADは、GPU上で1枚あたり約2ミリ秒で判定できると報告されています(2023年の論文)。
  • 説明のしやすさ:品質保証で判定の根拠を示すには、どの特徴が判定に効いたかを示せるモデルの方が扱いやすい場合が多くあります。

画像を理解できる生成AI(VLM)を外観検査に使う研究も進んでいますが、良品学習の専用手法と同じ精度・速度で運用できる段階かは、用途ごとに検証が必要です。詳しくは外観検査に生成AI(VLM)は使えるかで扱っています。

組み合わせると効く使い方

実務では、両者を組み合わせると効果が上がります。

数値の判定は予測AIに任せ、その結果を人が理解し行動するための文書の部分を生成AIが担う、という分担が基本形です。生成AIの全体像は製造業の生成AI活用の全体像、AIの機能の分け方は製造業のAIとはで整理しています。

よくある質問

生成AIで需要予測はできますか?

時系列データ用の基盤モデル(Chronosなど)は、言語モデルの仕組みを時系列予測に応用したものです。ただしこれは文章を生成するAIとは使い方が違い、評価も予測誤差で行います。ChatGPTのような対話型の生成AIに数字を渡して予測させる方法は、精度の検証が難しく、業務での利用はおすすめしません。

生成AIを入れれば、従来のAIは不要になりますか?

なりません。検査や予知保全のように数値で精度を保証し、高速に判定する業務は、従来の予測AIの方が向いています。両者は置き換えではなく、役割の分担と考えてください。

生成AIの導入は予測AIより簡単ですか?

試すのは簡単ですが、本番で使い続けるのは同じくらい難しいです。社内文書の整理、回答の正しさの評価、情報漏えい対策が必要です。Gartnerは2024年8月、生成AIプロジェクトの少なくとも30%が2025年末までにPoC後に放棄されると予測しました。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。