AIでOTとクラウドがつながる
AIを工場で使うには、設備やセンサーのデータを集め、学習や推論の環境に送る必要があります。その結果、PLCやSCADAなどの制御系(OT)ネットワークが、情報系(IT)やクラウドとつながります。これが、AI導入でセキュリティ上最も大きく変わる点です。
製造業は攻撃の主な標的です。IBM X-Forceによると、2025年に製造業はサイバー攻撃の27.7%を占め、5年連続で最も攻撃された業種でした(Manufacturing Dive、2026年2月26日)。Dragosは2025年2月、産業組織へのランサムウェア攻撃が前年比87%以上増え、被害組織の50%超が製造業だったと報告しています。国内でも、MONOistの「OTセキュリティ実態調査2026」(341件)で、過去3年にOT環境でインシデントを経験した企業が8.4%ありました。
製造業AIのセキュリティリスクは、次の3つに分けて考えます。
| リスク | 何が起きるか | 基本の対策 |
|---|---|---|
| 1. データの持ち出し | 画像、レシピ、図面が学習のために社外へ出て、流出・目的外利用される | データの区分、持ち出し範囲の契約、匿名化・マスキング |
| 2. OT接続 | データ収集の経路から制御系に侵入され、設備が止まる・誤作動する | ゾーンとコンジットの分離、DMZ経由の一方向通信 |
| 3. クラウド利用 | クラウド側のアカウント侵害、設定ミス、サービス停止がラインに波及する | 推論のエッジ化、認証の強化、停止時の縮退運転 |
1. データの持ち出し
AIの学習には、製品の画像、加工条件(レシピ)、図面、品質記録が使われます。これらは技術ノウハウそのもので、社外に出すと流出のリスクがあり、ベンダーが他の顧客向けの学習に使う可能性もあります。
対策の基本は、データを機密度で区分し、区分ごとに「社外に出してよいか」「クラウドに置いてよいか」を決めることです。PoCでベンダーにデータを渡す場合は、利用目的、保管場所、契約終了後の削除、他の学習への利用禁止を契約に書きます。生成AIに社内の文書を入力する場合のリスクは生成AIの情報漏えい対策で扱っています。
2. OT接続
制御系のセキュリティの国際規格であるISA/IEC 62443は、共通のセキュリティ要件を持つ資産のまとまりを「ゾーン」、ゾーン間の通信経路を「コンジット」と呼び、ゾーンごとにセキュリティレベル(SL1〜SL4)を設定する考え方をとります。米国NISTのSP 800-82 Rev.3(2023年9月)も、対象をICSからOT全般に広げ、性能・信頼性・安全性というOT固有の要件を考慮したセキュリティを求めています。
AIのためのデータ収集では、この考え方を次のように適用します。
- 制御系(PLC・SCADAのレベル)から外部への通信は、DMZ(緩衝区域)を経由し、外向きの一方向にする
- データ収集のゲートウェイやMQTTブローカーは、ゾーン間をつなぐコンジットとして扱い、通信するプロトコルを絞る
- AIの推論結果で設備の設定値を書き換える場合は、セキュリティレベルの高い通信になるため、承認フローとインターロックを設ける
- エッジAI機器は、IEC 62443-4-2の観点(認証、更新、ログ)で製品を選ぶ
3. クラウド利用
クラウドで推論する構成では、クラウドのアカウントが侵害された場合や、設定ミスでデータが公開された場合の影響が工場に及びます。また、通信障害やサービス停止で推論ができなくなると、ラインが止まる可能性があります。
対策は、ラインの判定に必要な推論をエッジで行い、クラウドは学習と監視に使う分担にすることです。こうすれば、通信が切れてもラインは止まりません。クラウド側では、多要素認証、権限の最小化、アクセスログの監視を行います。選び方はクラウドAIかエッジAIかで比較しています。
よくある質問
制御系のネットワークをクラウドにつないでも大丈夫ですか
直接つなぐのは避けるべきです。DMZを経由して外向きの一方向に送る構成にし、外から制御系への通信は原則として通さないのが基本です。
PoCのためにデータをベンダーに渡すときの注意点は何ですか
渡すデータの範囲を最小にし、利用目的、保管場所、契約終了後の削除、他の目的への利用禁止を契約に書きます。図面や顧客名など、学習に不要な情報は事前に除きます。
中小企業でも国際規格に沿った対策が必要ですか
規格の認証を取る必要はありませんが、ゾーンを分ける、外向きの一方向にする、という考え方は規模にかかわらず有効です。取引先から対策を求められることも増えています。
- Manufacturing sector saw most cyberattacks in 2025(Manufacturing Dive, 2026年2月26日)
- Dragos Reports OT/ICS Cyber Threats Escalate(Business Wire, 2025年2月25日)
- OTセキュリティ実態調査2026(MONOist, 2026年9月15日)
- ISA/IEC-62443-3-3: What is it and how to comply?(Cisco)
- NIST SP 800-82 Rev. 3: Guide to Operational Technology (OT) Security(NIST, 2023年9月28日)
- OWASP Top 10 for LLM Applications 2025(OWASP GenAI Security Project)
この記事に出てくる用語
AIは「データ基盤」で決まる
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