経営者の仕事は「何に使うか」と「どう続けるか」を決めること

AIのモデルや製品を選ぶのは、担当者とベンダーの仕事です。経営者が決めるべきなのは、どの課題にAIを使うか、そのためにデータと人にどれだけ投資するか、どこまで続けてどこで止めるか、という資源配分の判断です。

BCGが2024年10月に公表した調査(CxO 1,000人・59か国)は、AIで価値を出している企業の資源配分の目安を「人とプロセスに70%、技術とデータに20%、アルゴリズムに10%」としています。アルゴリズムは全体の1割にすぎず、残りの9割は経営判断の領域です。

#判断ポイント経営者が決めること任せてよいこと
1テーマの優先順位経営課題に照らして、どの業務から取り組むか個々のテーマの技術的な実現性の評価
2データへの投資設備データの収集、MES、マスタ整備に予算を付けるか収集方式や製品の選定
3推進体制責任者を誰にするか、現場部門をどう巻き込むかプロジェクトの運営
4人材育てるか、採るか、外部と組むか研修の内容
5撤退基準投資の上限と、中止の条件個々のPoCの合格ライン
6リスクの許容範囲品質事故、情報漏えい、外部依存をどこまで許容するか具体的な対策の設計
7成果の測り方どのKPIで成果を判断するか測定の仕組み

1〜2:テーマとデータへの投資

1. テーマの優先順位

AIのテーマは現場からいくらでも出てきます。経営者は、その中から経営課題(人手不足、品質、納期、コスト)に直結するものを選び、優先順位を付けます。McKinseyの2019年の資料は、パイロットが止まる理由の1つに「声の大きい推進者に合わせた設計になる」ことを挙げています。テーマの評価軸はテーマの選び方で扱っています。

2. データへの投資

AIの精度と定着は、データで決まります。2026年版ものづくり白書の関連資料(RIETI BBL、2026年6月26日)によると、一連の製造プロセスのデータを取得している事業者は約66%、取得データを活用しているのは51.4%、効果が出たのは約44%でした。データは取れていても、つながらず、使われていない状態が多いことがわかります。

設備データの収集、MESでのロット・実績の管理、品番や不良コードのマスタ整備は、個別のAIテーマの予算では賄いにくい共通の基盤です。中国工業互聯網研究院の魯春叢院長は2025年9月、多くの智能化改造プロジェクトで投資の50〜60%をデータエンジニアリングが占めると述べました。テーマを横断する基盤への投資は、経営者が判断するしかありません。進め方はデータ基盤のロードマップを参照してください。

AIで価値を出す企業の資源配分(人とプロセス:技術とデータ:アルゴリズム)
70 : 20 : 10
BCG(CxO 1,000人・59か国、2024年10月)
製造データを取得し活用している事業者
51.4%
2026年版ものづくり白書(RIETI BBL資料、2026年6月)
デジタル製造にC-levelの責任者を置いている企業
36%
McKinsey(7市場・700社超、2018年7月)

3〜5:体制・人材・撤退基準

3. 推進体制

McKinseyの2018年の調査では、デジタル製造にC-levelの責任者を置いている企業は36%でした。AIは情報システム部門だけでは進まず、現場部門の協力がなければ定着しません。経営者は、推進の責任者を決め、現場部門長にも成果の責任を持たせます。体制の組み方は推進組織のつくり方で扱っています。

4. 人材

IPAの「DX動向2025」では、DX人材の「量」が不足していると答えた日本企業が85.1%でした。社内で育てるか、採用するか、外部の伴走支援を使うかは、投資額と時間の判断です。多くの企業では、外部と組みながら社内の人を育てる中間的な形をとります(内製か外注かを参照)。

5. 撤退基準

AIの投資は、やってみないと効果がわからない部分があります。だからこそ、投資の上限と中止の条件を経営者が先に決めます。撤退基準がないと、効果の出ない取り組みが延長を繰り返し、現場の信頼も失います。

6〜7:リスクと成果の測り方

6. リスクの許容範囲

AIの誤判定による品質事故、データの社外流出、特定のベンダーやクラウドへの依存は、どれもゼロにはできません。どこまで許容するかは経営判断です。例えば、安全部品の検査では人の最終判定を残す、設計データは社外のクラウドに出さない、といった方針を経営者が示します。2026年版ものづくり白書では、経済安全保障の対策を講じている製造業者が55.6%に増えた一方、担当部署を新設した企業は2.0%にとどまりました(MONOist、2026年7月8日)。AIのクラウドやモデルの出自を調達基準に入れるかどうかも、この判断に含まれます。

7. 成果の測り方

成果を「AIの精度」で測ると、現場の業務が変わらなくても成功に見えてしまいます。経営者は、検査工数、流出不良、停止時間、リードタイムといった業務のKPIで成果を判断すると決めます。KPIの決め方はKPIの設定方法を参照してください。

よくある質問

経営者がAIの技術を理解している必要はありますか

モデルの仕組みを詳しく知る必要はありません。ただし、AIは確率的に判定するため誤りがゼロにならないこと、精度はデータで決まること、運用し続けないと精度が落ちることの3点は理解しておくと、判断を誤りにくくなります。

中小企業の経営者も同じ判断が必要ですか

規模にかかわらず、テーマの優先順位、投資の上限、撤退基準は経営者が決めます。中小企業ではトップダウンで進める傾向があるとされ、経営者の判断がそのまま取り組みの成否を左右します。

AI投資の予算はどのくらいが妥当ですか

業種や課題で大きく違うため、一律の目安はありません。課題の年間損失から逆算し、段階ごとに上限を決めて投資する方法をおすすめします。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。