公表された内容

日立製作所は2023年5月24日、日立ハイテクの半導体製造装置における生産計画の自動立案を実現したと発表しました。公表された主な内容は次のとおりです。

生産計画の立案にかかる作業
月5日→月1日以内
日立製作所発表(2023年5月24日)
計画時間の短縮
約1/5
同上
制約プログラミング技術(MLCP)による立案時間
1時間以内
同上
  • 対象は日立ハイテクの半導体製造装置の生産計画で、従来は月に最長5日かかっていた立案作業が月1日以内で終わるようになった
  • 立案には日立の制約プログラミング技術(MLCP)を使い、立案そのものは1時間以内で完了する
  • 2022年4月に導入し、2023年4月からはSAP S/4HANAとの連携で運用している
  • MONOistの2023年6月の報道によると、日立ハイテクの笠戸地区(山口県)で約1年間運用された

この事例で使われた技術は、機械学習ではなく制約プログラミング(数理最適化の一種)です。「AIによる生産計画」と呼ばれる事例の多くがそうであるように、中核は最適化技術です。手法の位置づけはAI生産スケジューリングとはを参照してください。

半導体製造装置の計画が難しい理由

半導体製造装置は、典型的な多品種・少量・受注生産の製品です。一般論として、この種の製品の計画には次の難しさがあります(以下は公表資料ではなく、業界の一般的な特徴に基づく編集部の整理です)。

特徴計画への影響
顧客ごとの仕様違いが大きい品目ごとに工程や工数が異なり、標準化しにくい
部品点数が多く、調達リードタイムが長い部材の入荷予定が計画の制約になる
組立・調整・検査に熟練者が必要人員のスキルが副資源として制約になる
半導体市況で受注が大きく変動計画の作り直しが頻繁に発生する

立案に月5日かかっていたのは、こうした制約を人手で調整していたためと考えられます(推測)。制約プログラミングは、多種類の制約を同時に扱うことに強い手法で、この種の問題と相性が良いと言えます。

成果を支えた前提を読み解く

SAP S/4HANAの受注・部材・マスタ情報を制約プログラミングで立案し計画を返す構成 SAP S/4HANA受注・部材・マスタ(2023年4月から連携) 制約プログラミングMLCP立案1時間以内 生産計画担当者が確認・調整作業は月1日以内 「担当者が確認・調整」は立案作業の残り時間からの編集部の推測
日立ハイテク事例の構成(公表内容をもとに編集部が整理)。ERPとの連携が運用の前提。

公表資料から読み取れる、他社が当てはめるときに確認すべき前提は3つです。

  1. ERPとの連携:2023年4月からSAP S/4HANAと連携して運用している点は重要です。計画の入力(受注、部材、マスタ)をERPから自動で取得し、結果を戻す流れがなければ、立案が1時間でもデータ準備に時間がかかります。計画AIの効果は、アルゴリズムの速さよりデータの受け渡しの自動化に左右されます
  2. 段階的な導入:2022年4月の導入から約1年かけてERP連携に移行しています。最初から全面的な連携を目指すのではなく、立案部分を先に動かし、連携を後から整えた順序と読めます
  3. 立案作業の残り:立案そのものは1時間以内でも、作業全体は月1日以内とされています。残りの時間は、計画の確認や例外の調整に使われていると考えられ(推測)、人の判断が残る設計です

マスタの整備については生産計画AIに必要なマスタ7種で扱っています。

海外の計画自動化事例との比較

海外では、計画の自動化を工場全体の取り組みの一部として公表する例が多く見られます。中国の海尔(ハイアール)の中央空調工場はAIによる自動スケジューリングで納期を20%短縮したと発表し(同社、2025年11月)、美的グループの荆州工場は生産スケジューリングの応答が90%速くなったと報じられています(科技日报、2026年7月)。シュナイダーエレクトリックの上海普陀工場は、AI外観検査や機械学習と数理最適化を組み合わせたスケジューリングなどを組み合わせ、一人当たり生産を82%改善したとされます(上海市政府、2026年3月)。

これらと比べると、日立ハイテクの事例は、対象を生産計画の立案に絞り、立案工数という一つの指標で成果を示している点が特徴です。範囲が明確なため、他社が自社の状況と比べやすい事例と言えます。一方、海外の事例は複数の施策の合算で、計画の自動化単独の効果は分かりません。

自社に当てはめるときの論点

この事例の数字(月5日→月1日以内)は、計画立案の工数の削減です。納期遵守率や在庫、段取り時間への効果は公表資料に含まれていません。自社で同様の取り組みを評価するときは、立案工数に加えて、計画の質(納期遵守率など)の変化も測る必要があります。評価指標は生産計画AIの評価指標を参照してください。

また、この事例は、日立グループ内の取り組みで、日立が自社の技術を適用したものです。外部のベンダーに依頼する場合は、制約の聞き取りやマスタ整備にかかる期間と体制を別に見積もる必要があります。業種としての位置づけは半導体製造装置メーカーのAIでも扱います。

よくある質問

MLCPとは何ですか?

日立が発表の中で用いている制約プログラミング技術の呼称です。技術の詳細は公表資料では詳しく説明されていませんが、制約を満たす解を効率よく探索する数理最適化の一種です。

半導体装置以外の業種でも同様の効果が期待できますか?

多品種・受注生産で、計画の制約が多く、人手の立案に時間がかかっている業種では、同様の方向性が考えられます。ただし効果の大きさは、制約の複雑さとマスタの整備状況で大きく変わります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。