シートの構成:効果3型・費用4区分・5年収支
ROI試算シートは、入力が2枚、出力が1枚の3シート構成です。効果と費用を別シートに分けているのは、効果は現場(生産技術・品証・保全)、費用は情報システムと購買が別々に入力できるようにするためです。
| シート | 入力する人 | 中身 |
|---|---|---|
| 1_効果 | 生産技術・品質保証・保全 | 不良削減・停止削減・工数削減の3型で年間効果額を出す |
| 2_費用 | 情報システム・購買・DX推進 | 初期費用・年間運用費・横展開費・社内工数の4区分 |
| 3_収支 | 自動計算 | 5年間の年別収支、累積収支、回収期間、感度分析 |
考え方の解説は製造業AIのROI試算にあります。このページはシートの項目と記入方法を説明します。
効果シートの項目:3つの型で金額にする
効果は次の3つの型のいずれかで計算します。1つのAIが複数の型にまたがる場合(外観検査で工数と流出不良の両方が減るなど)は、それぞれの行に入れます。
| 型 | 入力項目 | 計算式 | 入力のコツ |
|---|---|---|---|
| 不良削減 | 年間生産量、現状不良率、改善後不良率、1個あたり損失 | 生産量×(現状−改善後)×1個損失 | 1個損失は材料費+加工費+手直し・廃棄費。流出クレームは別行で件数×1件対応費 |
| 停止削減 | 年間停止時間、削減率、1時間あたり損失 | 停止時間×削減率×時間損失 | 時間損失は逸失限界利益+復旧人件費。売上ではなく限界利益で数える |
| 工数削減 | 対象作業の年間時間、削減率、時間単価 | 作業時間×削減率×単価 | 人を減らさず別業務に回す場合は、その旨を備考に書く |
各行には「削減率の根拠」の欄があります。PoCの結果、公開事例、ベンダーの提示値のどれを使ったかを選び、出典を書きます。ベンダーの提示値を使う場合は、その数字がどのような条件(ライン、期間、比較対象)で出たかを確認してから入れます。
費用シートの項目:見落としやすい費用を行で用意する
費用は4区分で入力します。見積書に載らない費用を入れ忘れないよう、行をあらかじめ用意しています。
| 区分 | 行(主なもの) | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 初期費用 | ハード(カメラ・センサー・推論PC)、ソフトライセンス、開発・設定、システム連携(MES・品質記録)、PoC費用 | MESへの判定結果の登録や、ロット紐付けの改修費が見積に入っていないことが多い |
| 年間運用費 | ライセンス・クラウド利用料、保守契約、再学習の外注費、機器の交換 | 照明・カメラの交換、品種追加のたびの再学習費 |
| 横展開費 | 2ライン目以降の1ラインあたり費用、展開ライン数、展開年 | 1ライン目の費用をそのまま掛けると過大、ゼロにすると過小 |
| 社内工数 | データ整備、ラベル付け、現場教育、運用担当の工数 | 外部に払わないため稟議から漏れやすい |
社内工数は「工数×時間単価」で金額にして入れます。特にデータ整備とラベル付けは、PoCより本番の方が工数が大きくなることがあります。
収支シートと記入例
収支シートは、効果と費用から年別の収支と累積収支を出し、累積がプラスに転じる時点を回収期間として表示します。効果は導入初年度から満額出るとは限らないため、年別の「効果の立ち上がり率」を入力できるようにしています(初期値は1年目50%、2年目以降100%)。
記入例として、架空の部品メーカーが外観検査AIを1ライン導入し、2年目に同型の2ラインへ広げる場合を示します(数値は説明のための例です)。
| 年 | 効果(万円) | 費用(万円) | 年間収支(万円) | 累積収支(万円) |
|---|---|---|---|---|
| 0年目(導入) | 0 | 1,800 | −1,800 | −1,800 |
| 1年目 | 630 | 250 | 380 | −1,420 |
| 2年目 | 1,260 | 1,450 | −190 | −1,610 |
| 3年目 | 3,780 | 650 | 3,130 | 1,520 |
| 4年目 | 3,780 | 650 | 3,130 | 4,650 |
| 5年目 | 3,780 | 650 | 3,130 | 7,780 |
この例の効果は1ラインあたり年1,260万円(検査員2名分1,200万円+流出クレーム削減150万円−過検出の再確認90万円)です。2年目末に同型2ラインへ展開し(横展開費1,200万円、展開ラインは1ライン目のモデルと撮像条件を流用できる前提で立ち上がり率100%と置いた)、3年目から3ライン分の効果を見込んでいます。2年目に横展開費がかかるため累積は一度悪化し、回収は3年目になります。1ラインだけで終わった場合の回収期間(運用費を年250万円とすると約2年5か月)と比べ、横展開を含めると5年累積は大きくなる一方、回収時点は後ろにずれます。稟議ではこの両方を示します。
収支シートの下には感度分析の表があります。削減率と立ち上がり率を±20%動かしたときの回収期間を並べ、「効果が2割下振れしても5年以内に回収できるか」を確認します。
よくある質問
割引率(NPV)は計算しますか?
シートは単純な累積収支と回収期間を主な出力にしています。社内の投資基準でNPVやIRRが必要な場合に備え、割引率を入れると正味現在価値を表示する欄を用意しています。初期値は空欄です。
PoCの前に試算しても意味がありますか?
あります。PoC前の試算は「どの程度の削減率が出れば投資が見合うか」を逆算するのに使えます。たとえば回収3年以内に必要な削減率が80%と出たなら、PoCの合格ラインもそれに合わせて決めます。PoC後に実測値で入れ直します。
品質の安定やデータ蓄積のような効果はどう入れますか?
金額にしにくい効果は、シートの「定性効果」欄に書き、収支には入れません。全数検査化による品質データの蓄積などは、次のテーマの費用を下げる効果として、2つ目のテーマの試算で費用削減として反映させる方が説明しやすくなります。
効果3型・費用4区分・5年収支と感度分析の3シート構成。外観検査AIの記入例つきです。
