強気予測と慎重論の差

ヒューマノイド市場の将来像は、発表元によって大きく異なります。代表的な2つを並べます。

発表元時期見通し前提・位置づけ
Morgan Stanley2025年5月2050年に市場規模5兆ドル超(サプライチェーン・保守を含む)、稼働台数10億台超。約9割が産業・商用1台あたりコストが2024年約20万ドル→2028年約15万ドル→2050年約5万ドルに低下。普及は2030年代半ばまで緩慢
国際ロボット連盟(IFR)2025年8月「ヒューマノイドの大量普及がいつ起こるかは不確実」(伊藤孝幸会長)既存ロボットを置き換えるのではなく補完する存在。欧州企業は短中期の製造業導入に慎重、中国は量産目標を設定

Morgan Stanleyの予測も、2030年代半ばまでは普及が緩慢と想定しており、短期の急拡大を予測しているわけではありません。両者の差は主に、2030年代後半以降の普及の速さと、その前提となる単価の下がり方にあります。

予測の桁を変える2つの前提

市場規模は、ざっくり「台数×単価」で決まります。台数と単価の前提を少し変えるだけで、結果は桁単位で変わります。

台数と単価の前提が市場規模予測に与える影響 台数の前提工場だけか、物流・商用か家庭まで含めるか × 単価の前提量産でどこまで下がるか保守・ソフトを含むか = 市場規模桁が変わる 市場規模の定義も揃っていない:本体の販売額だけか、部品・保守・ソフトを含むか 製造業が見るべきは「工場用途の台数」と「自社が払う1台あたりの総費用」
市場規模の予測を左右する2つの前提。家庭への普及を含めるかで台数が、量産効果の見込みで単価が大きく変わる。

台数の前提:どこまでの用途を含めるか

工場での利用に限るのか、物流倉庫や小売などの商用を含めるのか、家庭への普及まで見込むのかで、台数は大きく変わります。Morgan Stanleyは2050年の稼働台数の約9割を産業・商用としていますが、それでも10億台という規模は工場だけでは届きません。Figure AIが公式サイトで主力機Figure 03を家庭向け汎用ヒューマノイドとして打ち出しているように、メーカー側も家庭市場を視野に入れています。

単価の前提:量産効果をどう見込むか

単価がどこまで下がるかは、量産の規模、部品の価格、中国メーカーとの競争に左右されます。単価が下がれば導入できる用途が増え、台数も増えるため、単価の前提は台数の前提とも連動します。

定義の前提:何を市場規模に数えるか

本体の販売額だけを数えるのか、部品・保守・ソフトウェアまで含めるのかでも、数字は変わります。Morgan Stanleyの5兆ドルは、サプライチェーンと保守を含む数字です。異なる調査の市場規模を比べるときは、定義が揃っているかを先に確認してください。製造業AI市場でも同じ問題があり、製造業AI市場規模は6倍違うで扱っています。

足元の実績:2025年の出荷台数も一致しない

将来予測だけでなく、足元の出荷実績も調査によって違います。

2025年の世界のヒューマノイド出荷(首位は智元の5,168台)
約1.3万台
Omdia(界面新聞、2026年1月報道)
2025年の世界の人形ロボット出荷(首位は宇樹の5,500台超)
1.45万台超
中国電子報の報告(C114、2026年3月、ベンダー提供記事)
2025年の世界のヒューマノイド稼働台数(中国が80%超)
約1.6万台
CounterPoint(IT之家、2026年1月報道)

OmdiaとCounterPoint、中国電子報の報告では、総数だけでなく首位企業も違います。UBTechの台数は、出典によって1,000台、約600台などと開きがあります。いずれにせよ、2025年時点の世界の出荷は年間1万数千台の規模で、2050年に10億台という予測との間には大きな距離があります。中国の出荷ランキングの食い違いは2025年人形ロボット出荷ランキングは一致しないで詳しく扱っています。

製造業はどう読むべきか

製造業向けの需要は、ヒューマノイドが専用ロボットより有利になる工程がどれだけあるかで決まります。工程ごとの比較はヒューマノイドか専用ロボットかで行っています。

よくある質問

5兆ドルという予測は信頼できますか

一つのシナリオとして、前提を理解したうえで読むべき数字です。Morgan Stanley自身も2030年代半ばまでは普及が緩慢と想定しています。前提となる単価の低下と普及の速度が実現するかは、現時点では分かりません。

産業用ロボット市場と比べるとどのくらいの規模ですか

IFRによると、2024年の世界の産業用ロボットの新規設置は約54万台でした。2025年のヒューマノイド出荷は1万数千台と推計されており、台数では産業用ロボットの数%程度です。産業用ロボットの市場データはIFR World Roboticsで見る設置54万台を参照してください。

中国の量産計画は予測にどう影響しますか

中国は政策で量産目標を掲げ、出荷台数でも上位を占めています。中国メーカーの量産で単価が下がれば、予測の前提も変わります。中国の政策は中国の人型ロボット政策で扱っています。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。