世界基盤モデルは「物理的にありそうな映像」を生成する
世界基盤モデル(World Foundation Model、WFM)は、現実世界の動画から物の動き方や因果関係を学び、物理的にもっともらしい映像や環境を生成するAIモデルです。文章を生成する大規模言語モデルに対し、WFMは「次に世界がどうなるか」を映像として予測・生成する点が特徴です。
NVIDIAは2025年1月6日のCES 2025で、フィジカルAI向けの生成WFMプラットフォーム「Cosmos」を発表しました。発表の主な内容は次のとおりです。
初期採用者には、ロボット分野で1X、Agile Robots、Agility Robotics、Figure AI、Fourier、Galbot、Neura Robotics、Skild AI、XPENG、自動運転分野でUber、Waabi、Wayveなどが挙げられています。2026年3月のGTC 2026ではCosmos 3が発表され、2026年6月のGTC Taipeiでは、テキスト・画像・動画・音・行動を一体で扱うCosmos 3の詳細が示されました。
工場で使える場面は「データが集まらない状況」
WFMの合成データが製造業で役立つのは、実データを集めにくい場面です。
| 場面 | 実データが集まらない理由 | 合成データの使い方 |
|---|---|---|
| まれな不良・異常 | 発生頻度が低く、学習に足る数が揃わない | 不良の見え方のバリエーションを生成して学習を補う |
| 危険な状況 | 人とロボットの接近、落下、転倒は再現できない | 安全監視AIやロボットの回避動作を学習させる |
| 照明・季節の変化 | 1年分の条件変化を待てない | 照明・反射・汚れの条件を振った映像を作る |
| 新ライン・新製品 | 立ち上げ前で実物がない | CADから作った仮想環境で事前学習する |
ロボットの学習では、NVIDIAが2025年3月、11時間で78万件の合成軌道を生成し、実データと組み合わせて性能を40%向上させたと発表しています(同社発表)。WFMはこのような合成データ生成を、映像のリアルさを高める方向で支える位置づけです。
使う前に理解しておく前提
規模の前提も理解しておく必要があります。Cosmosの学習に使われた2,000万時間の動画処理には、Blackwell GPUで14日かかっています。製造業がWFMを一から作ることは現実的ではなく、使い方は次のどちらかになります。
- 公開されたモデルを使い、自社の映像で条件を指定して合成データを生成する
- ロボットや検査装置のベンダーが、WFMで作った合成データで学習済みのモデルを提供する
多くの製造業にとっては2が現実的です。その場合、ベンダーに「どの程度の合成データを使い、実データでどう評価したか」を確認することが、製品を選ぶ材料になります。
また、生成される映像はもっともらしくても、物理的に正確とは限りません。微小な傷の質感や、金属の反射の細かな特性まで再現できるかは、用途ごとに検証が要ります。外観検査で合成データを使う場合も、撮像と照明の条件を固めることが先です。撮像の考え方は外観検査AIの撮像・照明設計で扱っています。
日本企業の動き
日本では、川崎重工が2026年7月16日、坂出工場でOmniverse、Isaac、Cosmosを使う「次世代デジタルシップヤード」を始めたと報じられています(MONOist、2026年10月)。Telexistenceは2026年7月16日にNVIDIA Cosmos Coalitionに参加しました。
NVIDIAのフィジカルAI関連製品の関係はNVIDIAのフィジカルAI戦略で整理しています。
よくある質問
世界基盤モデルとデジタルツインの違いは何ですか
デジタルツインは、CADや設備データから特定の工場を正確に再現する仮想空間です。世界基盤モデルは、大量の動画から一般的な世界の振る舞いを学んだ生成モデルです。デジタルツインの映像をよりリアルにしたり、条件を振ったりするのにWFMを使う組み合わせ方があります。
外観検査の不良画像を合成データで作れますか
可能性はありますが、微小な傷や質感の再現性は用途ごとに検証が要ります。合成した不良画像で学習したモデルは、実際の不良画像で見逃し率を測り、効果を確かめてから使ってください。
Cosmosは無償で使えますか
NVIDIAはCosmosをオープンなモデルとして公開していますが、ライセンス条件はモデルや版によって異なります。商用利用の可否と条件は、利用する版のライセンスを確認してください。
- NVIDIA Launches Cosmos World Foundation Model Platform(NVIDIA、2025年1月6日)
- Nvidia launches Cosmos models(Constellation Research、2025年1月6日)
- NVIDIA Announces Isaac GR00T N1(NVIDIA、2025年3月18日)
- NVIDIA Expands Physical AI Ecosystem with New Models and Industrial Partnerships(The Energy Mag、2026年3月16日)
- NVIDIA physical AI Cosmos 3 humanoid robots TSMC(Interesting Engineering、2026年6月1日)
- 川崎重工とNVIDIA(MONOist、2026年10月6日)
- Telexistence Press(Telexistence、2026年)
この記事に出てくる用語
フィジカルAIは工場に来るのか
ロボット基盤モデルとヒューマノイドの実証。宣伝と量産ラインの距離を測る 全66本
- フィジカルAIとは:従来の産業ロボット・協働ロボットとの違いを4つの軸で整理
- 美的の「智能体工厂」:荆州工場の14エージェント・38シーンと人形ロボット
- ヒューマノイドの工場実証一覧:BMW・Mercedes・Schaeffler・BYDなど10社の現在地
- フィジカルAI導入の判断基準:今やるべき工場・待つべき工場を分ける5つの質問
