世界基盤モデルは「物理的にありそうな映像」を生成する

世界基盤モデル(World Foundation Model、WFM)は、現実世界の動画から物の動き方や因果関係を学び、物理的にもっともらしい映像や環境を生成するAIモデルです。文章を生成する大規模言語モデルに対し、WFMは「次に世界がどうなるか」を映像として予測・生成する点が特徴です。

NVIDIAは2025年1月6日のCES 2025で、フィジカルAI向けの生成WFMプラットフォーム「Cosmos」を発表しました。発表の主な内容は次のとおりです。

Cosmosの処理・学習に使った動画の規模
2,000万時間
NVIDIA(2025年1月発表)
上記の動画をBlackwell GPUで処理した期間(CPUのみでは3年超)
14日
NVIDIA(2025年1月発表、NeMo Curator使用)
Cosmosモデルのパラメータ数(Nano/Super/Ultra)
40億〜140億
Constellation Research(2025年1月)

初期採用者には、ロボット分野で1X、Agile Robots、Agility Robotics、Figure AI、Fourier、Galbot、Neura Robotics、Skild AI、XPENG、自動運転分野でUber、Waabi、Wayveなどが挙げられています。2026年3月のGTC 2026ではCosmos 3が発表され、2026年6月のGTC Taipeiでは、テキスト・画像・動画・音・行動を一体で扱うCosmos 3の詳細が示されました。

工場で使える場面は「データが集まらない状況」

WFMの合成データが製造業で役立つのは、実データを集めにくい場面です。

場面実データが集まらない理由合成データの使い方
まれな不良・異常発生頻度が低く、学習に足る数が揃わない不良の見え方のバリエーションを生成して学習を補う
危険な状況人とロボットの接近、落下、転倒は再現できない安全監視AIやロボットの回避動作を学習させる
照明・季節の変化1年分の条件変化を待てない照明・反射・汚れの条件を振った映像を作る
新ライン・新製品立ち上げ前で実物がないCADから作った仮想環境で事前学習する

ロボットの学習では、NVIDIAが2025年3月、11時間で78万件の合成軌道を生成し、実データと組み合わせて性能を40%向上させたと発表しています(同社発表)。WFMはこのような合成データ生成を、映像のリアルさを高める方向で支える位置づけです。

実データと合成データの役割分担 実データ:通常の条件・よくある不良現場で集まる。評価にも必ず使う 合成データまれな不良・危険・条件変化 学習には両方を使い、評価は実データだけで行う 評価用データ(実データのみ)合成データで測った精度は本番の精度ではない
合成データの位置づけ。実データを置き換えるのではなく、足りない条件を埋める。

使う前に理解しておく前提

規模の前提も理解しておく必要があります。Cosmosの学習に使われた2,000万時間の動画処理には、Blackwell GPUで14日かかっています。製造業がWFMを一から作ることは現実的ではなく、使い方は次のどちらかになります。

  1. 公開されたモデルを使い、自社の映像で条件を指定して合成データを生成する
  2. ロボットや検査装置のベンダーが、WFMで作った合成データで学習済みのモデルを提供する

多くの製造業にとっては2が現実的です。その場合、ベンダーに「どの程度の合成データを使い、実データでどう評価したか」を確認することが、製品を選ぶ材料になります。

また、生成される映像はもっともらしくても、物理的に正確とは限りません。微小な傷の質感や、金属の反射の細かな特性まで再現できるかは、用途ごとに検証が要ります。外観検査で合成データを使う場合も、撮像と照明の条件を固めることが先です。撮像の考え方は外観検査AIの撮像・照明設計で扱っています。

日本企業の動き

日本では、川崎重工が2026年7月16日、坂出工場でOmniverse、Isaac、Cosmosを使う「次世代デジタルシップヤード」を始めたと報じられています(MONOist、2026年10月)。Telexistenceは2026年7月16日にNVIDIA Cosmos Coalitionに参加しました。

NVIDIAのフィジカルAI関連製品の関係はNVIDIAのフィジカルAI戦略で整理しています。

よくある質問

世界基盤モデルとデジタルツインの違いは何ですか

デジタルツインは、CADや設備データから特定の工場を正確に再現する仮想空間です。世界基盤モデルは、大量の動画から一般的な世界の振る舞いを学んだ生成モデルです。デジタルツインの映像をよりリアルにしたり、条件を振ったりするのにWFMを使う組み合わせ方があります。

外観検査の不良画像を合成データで作れますか

可能性はありますが、微小な傷や質感の再現性は用途ごとに検証が要ります。合成した不良画像で学習したモデルは、実際の不良画像で見逃し率を測り、効果を確かめてから使ってください。

Cosmosは無償で使えますか

NVIDIAはCosmosをオープンなモデルとして公開していますが、ライセンス条件はモデルや版によって異なります。商用利用の可否と条件は、利用する版のライセンスを確認してください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。