発表された数字と、その中身

Figure AIは2025年11月19日、BMWスパータンバーグ工場(米サウスカロライナ州)でのFigure 02の稼働を総括しました。公表された主な数字は次のとおりです。

稼働期間(Figure発表。BMWの引用では10カ月)
11カ月
Figure(2025年11月)、Runtime Wire(2026年7月)
生産に寄与したX3の台数
3万台超
Figure(2025年11月)
溶接治具に投入した板金部品の数
9万個超
同上
1サイクル(うち投入動作37秒)
84秒
同上
稼働時間
1,250時間超
同上
配置精度(5mm公差、シフト単位)
99%超
同上

作業は、車体組立ラインで板金部品をつかみ、溶接治具の所定位置に5mmの公差で置くという単一タスクです。2024年8月にBMWが発表した数週間の試験も同じ板金投入の作業で、その時点では工場への配置は未定とされていました。

数字を分解すると見えること

稼働時間と期間の関係

1,250時間を11カ月で割ると、月あたり約114時間です。2交代・月20日稼働の工場なら月の操業時間は300時間を超えるため、ラインの操業時間のすべてを担っていたわけではないと推定できます(推測)。稼働時間が「ロボットが作業していた時間」なのか「ラインに配置されていた時間」なのかも明示されていません。

部品数とサイクルの関係

9万個を1,250時間で割ると、1時間あたり約72個、50秒に1個のペースになります。一方、公表されたサイクルは84秒です。1台で計算すると数字が合わないため、複数台が稼働していたか、サイクルの定義(1サイクルで複数部品を扱うなど)が異なる可能性があります(推測)。フリート規模が開示されていないため、どちらかは判断できません。

「3万台に寄与」の意味

3万台超のX3の生産に「寄与」したという表現は、その期間に生産された車両の部品の一部をロボットが投入したという意味と読むのが自然です。Runtime Wire(2026年7月)は、単独作業か人との協働か、生産への寄与の割合が不明確だと指摘しています。

BMWの車体組立ラインのうち、Figure 02が担ったのは板金部品の治具投入という単一タスクであることを示す図 BMWスパータンバーグ X3車体組立ライン(全体) 多数の工程・ロボット・作業者で構成 板金部品の治具投入Figure 02が担った単一タスク 公表:サイクル84秒部品9万個・精度99%超 非開示:台数・稼働率介入頻度・経済性 「3万台に寄与」はこの単一タスクを通じた寄与
公表値の構造。単一タスクの数字であり、ライン全体の自動化を示すものではない。

実証されたこと・されていないこと

区分内容
実証されたこと量産ラインの実環境で、ヒューマノイドが板金部品の投入を数カ月にわたって繰り返せたこと。5mm公差の配置を高い精度で行えたこと。長時間稼働でどこが壊れるか(前腕)が分かったこと
実証されていないこと人や専用機と比べた経済性。複数の作業を切り替える汎用性。人の介入なしでの連続稼働。協働安全(人と同じ空間での作業)
開示されていないこと台数、稼働率、停止の回数と原因の内訳、契約形態と費用

故障から学べる設計上の教訓

総括で最も実務的な価値があるのは、故障の情報です。主な故障箇所は前腕で、3自由度の関節、熱管理、配線が集中する部位でした。Figure 03では手首の配電基板と可動ケーブルを廃止したとしています。

量産ラインでロボットを評価するとき、AIの成功率と同じくらい、ハードウェアのMTBF(平均故障間隔)とMTTR(平均修復時間)が重要です。ヒューマノイドは人の腕と同じ大きさに関節と配線を詰め込むため、産業用ロボットより熱と屈曲の負荷が集中しやすい構造です。導入評価では、故障の部位と頻度、交換部品の供給、現場で修理できるかを確認する必要があります。

その後:Figure 03とAEONへ

Figure 02は11カ月で役目を終え、BMWは2026年6月、スパータンバーグ工場でFigure 03の展開を開始したと報じられました。作業は板金投入から物流のシーケンシング(部品を組立順に並べる作業)に変わっています。同時に、ライプツィヒ工場ではFigureではなくHexagonのAEONでヒューマノイドの展開を拡大しています。BMWはこれを生産戦略iFACTORYの「フィジカルAI」統合と位置づけています。

1社のヒューマノイドに絞らず、工場ごとに別の機体を試している点は、BMWがまだ評価段階にあることを示していると読めます(推測)。

5つの指標は、MESのライン実績や設備の稼働データと同じ粒度で記録しておくと、既存の設備や人の作業と比較できます。OEEと同じ考え方で可用性・性能・品質に分けて記録しておくと、経営判断の資料にそのまま使えます。考え方はOEEデータをAIで深掘りするが参考になります。ヒューマノイド全体の実証状況はヒューマノイドの工場実証一覧にまとめています。

よくある質問

Figure 02はBMWで何台動いていたのですか

台数は開示されていません。公表された部品数・稼働時間・サイクルタイムから単純計算すると数字が1台分と合わないため、複数台だった可能性がありますが、確認できません。

精度99%超は高いのですか

5mm公差の配置で、シフト単位で99%超という数字です。量産ラインでは1%の失敗でもライン停止や手直しにつながるため、失敗時の処理(人のやり直し、ラインの停止の有無)が合わせて分からないと評価できません。

この事例は日本の自動車工場にも当てはまりますか

板金部品の投入という作業は日本の車体工場にもありますが、多くはすでに専用機や産業ロボットで自動化されています。ヒューマノイドが有利になるのは、既存設備を変えずに人の作業を置き換えたい工程に限られると考えられます。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。