精密機器の組立は「人の手」が品質を決める

計測器、光学機器、医療用の精密機器、時計などの精密機器は、小さな部品を手作業で組み立てる工程が多く、ロボットによる自動化が難しい業種です。品質の問題は、部品そのものの不良より、組み付けの順序違い、部品の欠品や取り違え、ねじの締め忘れといった組立ミスとして現れることが多くなります。

また、出荷前の性能検査や、測定器の定期的な校正の記録は、品質保証の根拠として長期間保管されます。これらの記録が紙で残っている工場も少なくありません。精密機器のAIは、この3つの領域に分けて考えます。

領域AIの使い方多品種少量での難しさ
組立ミス検査欠品・取り違え・取付方向の誤りを画像で検出品種ごとに正しい組立状態を定義する必要
作業分析作業動画を要素作業に分け、時間とばらつきを測る品種ごとに作業手順が違う
記録のデジタル化検査・校正記録のAI-OCR、記録の検索帳票の種類が多い

組立ミス検査:「論理的な異常」を捉える

組立ミスの多くは、部品そのものに傷があるわけではなく、「あるべき部品がない」「向きが違う」「順番が違う」という論理的な異常です。部品表面の傷を見つける良品学習型の外観検査AIは、こうした論理的な異常が苦手です。MVTec社が公開した論理異常を含むデータセット(MVTec LOCO AD)では、表面の傷を対象にしたデータセットで99%台の性能を出す手法でも、性能が大きく下がることが研究で示されています。

組立ミスの検査では、部品ごとに「あるか、正しい向きか」を判定する物体検出型のAIや、組立手順と照合する方式が向いています。詳しくは組立ミス検査AIを参照してください。多品種少量の場合、品種ごとに学習し直すのではなく、部品の種類ごとに検出器を作り、品種ごとの部品構成(BOM)と照合する設計にすると、新品種の追加で学習し直す範囲を減らせます。

部品検出とBOM照合による組立ミス検査 組立品の画像 部品ごとの検出有無・位置・向き MES:品種・BOM・手順 照合 合格:記録 不一致:差し戻し
多品種の組立ミス検査の設計。部品単位で検出し、品種ごとのBOMと照合する。

作業分析:熟練者と新人の差を見える化する

作業分析AIは、作業動画から人の手や体の動きを推定し、要素作業(部品を取る、位置決めする、締める)に分けて時間を測ります。人がストップウォッチで測っていた時間観測を常時行えるようにし、熟練者と新人の動きの違いを比べられるようにします。

米国のRetrocausalは、カメラ映像で組立作業を支援する「AI Copilot」を提供しており、Siemensの工場で初回良品率10%向上、品質問題60%減を報告しています(同社の申告値)。3Mでは、同社のツールでエルゴノミクスと生産性の改善を15工場に展開したとされます。いずれもベンダーの発表で、対象工程と比較条件は公開されていません。製品の比較は作業分析AIツールの比較にまとめています。

国内では、天昇電気工業(プラスチック、三重工場140人)が、動画マニュアルと動画比較ツールを導入し、組立人員を約75名から約50名にし、熟練者レベルまでの習熟期間を約7分の1にしたと中小機構の省力化ナビが紹介しています。精密機器の組立でも、熟練者の手元の動きを動画で残し、新人の動きと比べられるようにすることは、AIによる自動分析の前段として効果があります。

検査・校正記録のデジタル化

精密機器の出荷検査や、測定器の校正の記録は、品質保証の根拠であり、顧客監査でも確認されます。紙の記録は、探すのに時間がかかり、傾向を分析することもできません。

AI-OCRで手書きの記録をデータ化する方法がありますが、数値の誤読は品質記録の誤りに直結します。読み取った値は信頼度が低いものを人が確認する工程を残し、最終的には測定器から直接データを取り込む、タブレットで入力するなど、紙をなくす方向に進めます。読み取りの精度と運用の注意点は検査記録のAI-OCRで扱っています。

記録がデータになれば、測定器ごとの校正結果の推移から、次の校正までに許容範囲を外れそうな測定器を予測する、といった使い方もできるようになります。

よくある質問

微細な部品は普通のカメラで写りますか

部品の大きさと、見分けたい違い(向き、有無)の大きさによります。見分けたい違いが画像上で数ピクセル以上に写る解像度が必要で、拡大レンズや照明の工夫が要ることもあります。撮像の検証を最初に行います。

品種が数百ある場合、組立ミス検査は現実的ですか

品種ごとに学習するのではなく、共通部品の検出器を作り、品種ごとのBOMと照合する設計なら、品種数に比例して学習の負担が増えることを避けられます。部品の種類が多すぎる場合は、ミスの多い部品に絞ります。

作業分析の結果は何に使えばよいですか

標準作業の見直し、作業順序の改善、新人教育の教材に使います。分析結果を改善活動に使う体制がないと、測るだけで終わります。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この特集について

外観検査AIの選び方

良品学習か不良学習か、撮像系を誰が持つか。精度の数字だけで選ばないための比較軸 全51本

  1. 外観検査AIとは?2つの学習方式と導入5ステップを製造現場の目線で解説
  2. 製造業のAI活用10領域:外観検査・予知保全から設計・技能伝承まで一覧
  3. 外観検査AI製品の比較軸10項目:学習方式・撮像系の範囲・エッジ対応・再学習の手間
  4. 自動車メーカーのAI活用:溶接・塗装検査から生産計画・フィジカルAIまで10用途
特集の記事をすべて見る →

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。