成形でAIが効くのは「条件」と「検査」の2か所

射出成形の品質は、樹脂温度、射出速度、保圧、冷却時間、金型温度といった成形条件でほぼ決まります。ショートショット・バリ・ヒケ・ウェルドといった不良の多くは、条件の窓(良品が取れる条件の範囲)から外れたときに出ます。そのため成形メーカーでAIが効く場所は、条件を決めて維持する工程と、出てしまった不良を見つける外観検査の2か所に集中します。

規模の小さい成形工場でも成果が出ている例があります。中小機構の省力化ナビに掲載された平田精工ジャパン(プラスチック成形、50人)は、成形データの一元管理、工程能力の算出、CAE流動解析を組み合わせ、工程内不良率を1.36%から0.5%に下げました。試作人員は12名から8名、立ち上げのリードタイムは半分になったとされます(令和元〜5年の取り組み)。

工程内不良率(平田精工ジャパン)
1.36%→0.5%
中小機構 省力化ナビ 事例0027(令和元〜5年の取り組み)
金型調整時間(海尔・上海洗衣機工場)
120分→10分
海尔発表(2025年11月)、射出成形エージェント導入後
ベイズ最適化で単目的の条件出しに要した実験数
16実験
Kariminejad et al., Scientific Reports(2024年11月)。中心複合計画では31実験

平田精工の例はAIそのものより、成形データを1か所に集めて工程能力を数字で見られるようにしたことが効いています。条件と品質がつながったデータがないと、後のAIは何も学べません。

5つの使い方

#使い方使うデータ向く工場
1成形条件の出し方を短縮(ベイズ最適化)試作の条件と測定結果新規金型・新材料の立ち上げが多い
2条件と品質の紐付け(不良予測)成形機の実績値(ショットごと)+検査結果量産で不良の要因が分からない
3金型の段取りと調整の支援金型ごとの条件履歴、段取り時間金型数が多く段取り替えが頻繁
4外観検査の自動化良品・不良品の画像目視検査員の確保が難しい
5技能伝承(動画・手順)作業動画、条件調整の記録熟練者の退職が近い

1. 成形条件の出し方を短縮する

条件出しは、少ない試作で良品の窓を見つける問題です。ベイズ最適化は、過去の試行結果から「次に試すべき条件」を提案する手法で、射出成形に適用した研究(Kariminejad et al., 2024)では、単目的で16実験、中心複合計画ベースの31実験に対しほぼ半減しました。同研究では、別の手法がPOM樹脂には高すぎるバレル温度235℃を提案したのに対し、ベイズ手法は約195℃に留まったとされます。材料の安全範囲を制約として入れておくことが前提です。詳しくはベイズ最適化で条件出しを参照してください。

2. 条件と品質を紐付けて不良を予測する

量産中の不良予測には、ショット単位の成形機データ(射出ピーク圧、計量時間、クッション量など)と、そのショットの良否を紐付けたデータが要ります。ここが最大の壁です。多数個取りの金型ではキャビティ番号まで追わないと、どの条件がどの不良に効いたか分かりません。方法の詳細は射出成形の品質AIで扱っています。

3. 金型の段取りと調整を支援する

海尔の上海洗衣機工場では、射出成形のエージェントで金型調整が120分から10分になったと同社が発表しています(2025年11月)。前提として、金型ごとの過去の条件と調整履歴がシステムに入っていることが必要です。日本でも昭芝製作所(自動車プレス部品、108人)がRFIDで500型の棚卸しを約16時間から約0.5時間にした例があり、金型の所在と履歴の管理はAI以前の基礎になります。

4. 外観検査を自動化する

成形品はウェルドラインや流れ模様など「不良ではないばらつき」が多く、良品学習型の検査AIでは過検出が増えやすい対象です。限度見本を先に整備し、人の再判定工程を残す設計から始めます。

5. 技能伝承

天昇電気工業(プラスチック、三重工場140人)は、動画マニュアルと動画比較ツールで組立人員を約75名から約50名にし、熟練者レベルまでの習熟期間を約7分の1にしました(省力化ナビ)。成形機の条件調整の勘所も、調整前後の条件と結果を動画と一緒に残すことで伝承できます。

成形機データの取り方:AIの前に決める3つのこと

射出成形のデータ連携の構成 成形機ショット実績値 金型温調・乾燥機温度・露点 MES・実績収集ロット・金型・キャビティで紐付け 外観検査・寸法測定 AI不良予測・条件提案
射出成形のデータの流れ。ショット単位の実績と検査結果をロット・キャビティで結ぶのが要。
  1. 取得単位:ショットごとの実績値を取る。1分平均ではピーク圧の変化が消える
  2. 紐付けのキー:ロット番号、金型番号、キャビティ番号、樹脂ロット。検査結果がこのキーで引けるようにする
  3. 取得方式:射出成形機にはOPC UAのコンパニオン仕様があり、メーカーが違っても同じ構造で値を取れる機種が増えています。古い機種は後付けで取る項目を絞ります。選び方はOPC UAコンパニオン仕様の選び方にあります

中国と日本の取り組みの違い

中国では海尔のように、工場単位でエージェントを入れて段取りや調整を自動化する発表が目立ちます。寧波のプラスチック金型工場では、ERPと連携したエージェントで在庫資金が800万元から500万元に、納期遅延率が15%から2%未満になったと36氪が報じています(2026年1月)。いずれも企業や媒体の発表値で、比較対象や期間の詳細は公開されていません。

日本の中小成形メーカーの公開事例は、データの一元管理や動画マニュアルといった基礎固めが中心です。推測になりますが、日本ではまず「条件と品質の紐付け」ができていない工場が多く、エージェントによる自動調整はその上に載るものだと考えるのが妥当です。

よくある質問

古い射出成形機でもデータは取れますか

通信機能のない機種でも、後付けのセンサーや成形機の外部出力から、サイクルタイムや型開閉の信号は取れます。ショットごとの射出圧などを取るには機種ごとの確認が必要です。まず不良と関係しそうな項目に絞って取ります。

ベイズ最適化を使うには専門家が必要ですか

オープンソースのライブラリで試せますが、目的(どの不良を減らすか)と制約(樹脂の安全温度範囲など)を決めるのは成形技術者です。外部の支援を受ける場合も、この2つは社内で決めておきます。

外観検査AIはウェルドラインを不良と誤判定しませんか

良品学習型では、ウェルドや流れ模様の程度が良品画像に十分含まれていないと過検出になります。限度見本で許容範囲を決め、その範囲の画像を良品として学習させます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。