建材の焼成・乾燥工程はエネルギーと品質が一体

セメントは、石灰石や粘土を回転窯(キルン)で約1,450℃まで焼成してクリンカを作り、石膏を加えて粉砕して作ります。石膏ボードは、焼石膏をスラリーにして紙で挟み、成形後に乾燥機で水分を飛ばします。どちらも、熱をかける工程が製品の品質を決め、同時に燃料と電力の大半を使います。

この構造のため、建材メーカーでのAIは「品質を保ったまま、エネルギーを減らす」という一つの問題として扱うのが基本です。

工程品質への影響エネルギーへの影響AIの使い方
原料調合成分のばらつきが焼成のしやすさを左右間接的原料成分の予測と調合の最適化
焼成(キルン)クリンカの品質(遊離石灰など)燃料消費の大半温度・燃料・空気の制御推奨
粉砕(仕上げミル)粉末度・強度電力消費が大きい粉末度の予測と運転条件の最適化
乾燥(石膏ボード)含水率、反り・割れ燃料消費が大きい乾燥条件の最適化、含水率の推定

焼成制御:熟練オペレーターの先読みを再現する

キルンは熱容量が大きく、燃料や原料の投入量を変えてから焼成状態が変わるまで時間がかかります。熟練オペレーターは、窯内の温度、排ガスの成分、モーターの負荷などの変化から先を読んで操作しています。AIの役割は、この先読みをデータで行い、操作の推奨値を出すことです。

ABBは、生成AIを組み込んだGenix Copilotを、セメントなどの重要プロセスのエネルギー最適化に使い、エネルギーを15〜18%最適化し、トラブルシュート時間を60〜80%削減し、重要資産の信頼性を最大15%高めたと、Microsoftの顧客事例(2025年11月)で紹介しています。ABBの自社申告の数値で、対象プラントの規模や比較の基準は公開されていません。プロセス産業向けベンダーの効果数値の比較はHoneywell・ABB・GE Vernovaのプロセス産業AIにまとめています。

エネルギー最適化(ABB Genix Copilot)
15〜18%
Microsoft顧客事例(2025年11月17日)、ABBの自己申告。セメント等の重要プロセス
トラブルシュート時間の削減
60〜80%
同上

品質予測:ソフトセンサーで分析待ちをなくす

セメントの品質(遊離石灰の量、粉末度、強度)は、ラボでの分析に時間がかかり、結果が出るのは数時間後、強度にいたっては数日〜数週間後です。この間、オペレーターは前回の分析値を見ながら運転を続けることになり、品質がずれても気づくのが遅れます。

ソフトセンサーは、オンラインで取れる温度・圧力・流量・電力などから、ラボ分析値を推定する仕組みです。分析を待たずに品質の変化に気づけるため、焼成や粉砕の条件を早めに修正できます。化学・鉄鋼と並んで、セメントのような連続プロセスは適用の歴史が長い分野です。仕組みと導入手順はソフトセンサーとはを参照してください。

建材工程のソフトセンサーの構成 オンライン計測(秒〜分) ラボ分析値(数時間ごと) ソフトセンサー品質を連続推定 運転条件の推奨・早期修正 分析値で精度監視・再学習
建材プロセスのソフトセンサー。分析値の時刻合わせと定期的な再学習が精度を保つ。

効果は生産量と原料で補正して測る

建材工場の省エネ効果を測るときに最も多い誤りは、生産量の変動を補正せずに「エネルギー使用量が減った」と言うことです。生産量が減れば、AIがなくてもエネルギー使用量は減ります。比較は、製品1トンあたりのエネルギー原単位で行い、さらに原料の成分や外気温など、エネルギー原単位に影響する要因で補正したベースラインと比べます。

米国エネルギー省は、エネルギーマネジメントの国際規格ISO 50001の認証や、その準備プログラム(50001 Ready)を実践する産業プラントでは、実施開始から15か月で平均約12%のエネルギーコスト削減があったとしています。AIを使わなくても、計測と運用改善で一定の削減ができることを示す数字で、AIの効果を主張するときは、この運用改善分と区別して測る必要があります。ベースラインの作り方は省エネ効果の正しい測り方で解説しています。

よくある質問

古いキルンでもAIによる制御支援は使えますか

制御システムから温度や燃料流量のデータを取り出せれば、推奨値を出す支援は可能です。自動で操作量を書き込む段階に進むには、制御システムとの接続とセキュリティの設計が別に必要になります。

石膏ボードの乾燥工程では何を予測しますか

乾燥後の含水率と、反りや割れの発生です。乾燥機の温度・風量・ライン速度と、ボードの厚みや原料の状態から含水率を推定し、乾燥しすぎによる燃料の無駄と、乾燥不足による品質不良の両方を減らします。

ベンダーの「エネルギー15%削減」は自社でも期待できますか

削減率は、導入前の運転がどれだけ安定していたかで大きく変わります。もともと熟練オペレーターが安定運転できている工場では、削減の余地は小さくなります。自社の原単位のばらつきを先に把握し、そのうちどれだけをAIで減らせるかで見積もります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。