報じられた4つの動き

2025年9月から11月にかけて、中国メディアはパナソニックの中国での動きを相次いで報じました。主な内容は次の4つです。

動き内容出典
生成AI製品の中国先行生成AI搭載製品を中国で先に出し、その後グローバルへ広げる。家電の設計開発はほぼすべて中国で行うTiger Brokers(2025年11月3日、CIIEでの幹部発言)
開発拠点の移管サーボモーターの主力機種の開発を大阪から苏州へ移し、FA中国部門に日本と同等の決定権を与えた36氪(2025年9月12日)
中国のソフト開発体制中国のソフトウェア開発者は約2000人。大連の子会社は自社の生成AIサーバーを構築36氪(2025年9月12日)
オフラインSLMネットに接続しない家電向けの小規模言語モデル(SLM)を開発36氪(2025年9月12日)

あわせて、パナソニック中国では社員が業務でDeepSeekや通义千问を使っていると報じられています。36氪の英語版はこの記事に「日本企業の優等生、パナソニック中国が変化を求める」という趣旨の見出しを付けました。

なぜ中国で先に出すのか

公開情報から読み取れる理由は、中国の家電市場で生成AIの搭載競争が日本より早く進んでいることと、それに対応できる開発者が中国にいることです。設計開発がほぼ中国にあるなら、製品化の判断も中国で行うほうが速いという構図です。

中国先行の製品展開の流れ 中国で設計開発ソフト開発者 約2000人苏州にサーボ開発 中国で先行投入生成AI搭載家電オフラインSLM グローバル展開日本を含む他市場へ 従来の「日本で開発・日本で初投入」とは逆の順序
パナソニックの中国先行モデル(報道内容から当サイトが図示)。開発・初投入を中国で行い、グローバルへ展開する。

オフラインで動くSLMを開発している点も、中国市場の事情と関係していると考えられます(推測)。家電にクラウドの大規模言語モデルを使う場合、通信の遅延、通信コスト、利用者のデータを外部に送ることへの懸念、そして中国の生成AIサービスの備案(届出)の手続きが課題になります。端末内で動く小さなモデルであれば、これらの一部を回避できます。中国の生成AI規制との関係は中国で工場向け生成AIを使うときの「備案」で扱っています。

製造業AIの観点から読む

この動きは家電製品の話ですが、製造業のAI活用にも示唆があります。

1つは、エッジで動く小型モデルへの注目です。工場でも、クラウドにデータを出さずに設備の近くで推論したいという要求は強く、家電向けのSLM開発と同じ技術課題を抱えています。欧米ではRockwell AutomationがNVIDIAの小型モデルを産業エッジで動かす方針を示しています。工場のエッジで動く小型言語モデルも参照してください。

もう1つは、開発の決定権の移管です。サーボモーターはFA機器の中核部品で、その主力機種の開発を中国に移したことは、中国の顧客(中国の装置メーカーや工場)の要求に合わせた製品開発を現地で完結させる判断と読めます。

生産投資はAIの「使い手」より「供給側」

パナソニックの中国での投資には、AIを使う側の話とは別に、AIを支える部材を供給する側の話もあります。同社は上海奉贤に電子材料の新工場(投資額1.2億元、1万㎡、2027年初の量産予定)を2025年9月に着工する計画で、中国のAIサーバー向け電子材料の工場にはすでに約15億元を投資したとされます(Yicai Global、2025年9月2日)。

つまり同社は、中国でAI製品を先に出す「使い手」の立場と、中国のAIサーバー需要に部材を供給する「供給側」の立場を同時にとっています。中国のAI投資の拡大は、日系企業にとって競争相手の強化であると同時に、部材や装置の需要でもあるという両面を持っています。

日本の製造業にとっての意味

事実として言えるのは、少なくとも1社の日系大手が、生成AI製品の初投入と一部のFA製品の開発決定権を中国に移したということです。以下は推測ですが、同様の判断を迫られる日系企業は増える可能性があります。

中国拠点のAI活用全般は中国の日系工場とAIにまとめています。

よくある質問

パナソニックは日本より先に中国で生成AI家電を出しているのですか?

同社幹部が2025年11月の中国国際輸入博覧会の場で、生成AI搭載製品を中国で先に出してからグローバルへ広げる方針を述べたと報じられています。個々の製品の発売時期の比較は、今回の調査範囲では確認していません。

SLM(小規模言語モデル)とは何ですか?

パラメータ数を抑え、端末や設備の近くの限られた計算資源で動くように作った言語モデルです。クラウドに接続せずに使えるため、通信やデータの外部送信を避けたい用途に向いています。

サーボ開発の苏州移管は工場AIと関係がありますか?

直接の関係は報じられていません。ただし、FA機器の開発判断を中国の顧客に近い場所で行う体制は、中国の工場で求められるAI機能やデータ連携の仕様を製品に取り込みやすくすると考えられます(推測)。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。