調査の結論:期待と変更のずれ
米調査会社Gartnerは2025年10月28日、製造戦略に関する調査結果を公表しました。調査は2025年5月に、製造とサプライチェーンの意思決定者128人を対象に行われました。
主な結果は次の3点です(Gartner発表、2025年10月)。
「人の監視を最小化した高度自動化」、つまりAIや自律ロボットが人の常時監視なしに工程を回す状態が、今後3年の競争優位をもたらす上位3つの能力に入りました。一方で、その期待に見合う抜本的な変更(組織、業務プロセス、投資計画)を行っていない企業が3分の2を占めています。そして約半数が、自社の製造戦略が3年以内に成果を出すことに自信を持てていません。
128人という規模をどう読むか
回答者は128人で、McKinseyやDeloitteの調査(数百〜千人規模)と比べると小さいサンプルです。49%という数字の誤差幅は大きく、「約半数」と読むのが妥当です。
一方、回答者は製造とサプライチェーンの意思決定者に絞られています。AI全般の利用者調査ではなく、工場の戦略を決める立場の人の認識を示している点で、製造業にとっては参考になる調査です。
なぜ「抜本的な変更」が進まないのか
調査の公表資料は変更が進まない理由の詳細を示していませんが、製造業の現場から見ると、次のような要因が考えられます(推測)。
- 既存ラインの稼働を止められない:高度自動化には設備・レイアウト・工程設計の変更が必要で、量産を続けながら変えるのは難しい
- データ基盤が先に必要:人の監視を減らすには、設備状態・品質・在庫をシステムが常に把握している必要がある。MESや設備データの統合が終わっていない工場では、自動化の判断材料がない
- 責任と承認の仕組みが人前提:品質判定や出荷判定の承認ルールが人の確認を前提に作られており、AIの判断をどこまで認めるかの社内ルールがない
- 投資回収の説明が難しい:個別のAI導入は効果を測れても、工場全体の自動化レベルを上げる投資の回収は見積もりにくい
日本の工場が自社の計画を点検する5つの問い
Gartnerの調査は欧米中心ですが、期待と変更のずれは日本の製造業にも共通する課題です。自社の計画を次の問いで点検します。
- 3年後の工場の姿(自動化のレベル、人の役割)を、経営と工場で同じ言葉で説明できるか
- その姿に必要なデータ(設備状態、品質、在庫、作業実績)が、今どこまでシステムに入っているか
- AIや自動化設備の判断を、品質保証部門がどの条件で受け入れるかのルールがあるか
- 自動化の推進に、工場をまたいだ責任者と複数年の予算がついているか
- 個別のAI導入(検査、保全など)が、全体の姿のどこに位置づくか説明できるか
1つでも答えられない問いがあれば、そこが「抜本的な変更」の着手点です。
他の調査と並べると見える「期待先行」の構造
Gartnerの数字は、同時期の他社調査と並べると位置づけがはっきりします。
| 調査 | 期待・意向の数字 | 実行・成果の数字 |
|---|---|---|
| Gartner(2025年5月、128人) | 高度自動化が今後3年の上位3能力 | 3分の2が抜本的な変更をしていない、49%が戦略に自信なし |
| Rockwell第10回(2025年3月、1,560人) | 95%がAI/MLに投資済み・予定 | 収集データの有効活用率は世界平均44% |
| Deloitte 2026 Outlook(600人) | 80%が改善予算の20%超をスマート製造へ | 作業時間の81%超は人間主導で残る |
| McKinsey 2026(1,719人) | 全社スケール44%(前年38%) | EBIT効果37%で横ばい |
どの調査も、投資や期待の数字は高く、実行や成果の数字は低いという同じ形をしています。Gartnerの調査はその差を「組織が変わっていない」という形で示した点に特徴があります。技術の導入より、業務・組織・データの整備が成果を左右するという見方は、欧米の主要調査でほぼ共通しています。
関連する数字:エージェント型AIの中止予測
Gartnerは同じ2025年、エージェント型AIプロジェクトの40%超が2027年末までに中止されうるとも予測しています。高度自動化への期待が高い一方で、それを支えるAIプロジェクトの多くが途中で止まる可能性があるという見立てです。製造戦略への自信のなさと、AIプロジェクトの中止リスクは、同じ「期待先行・実行遅れ」の構造から来ていると考えられます(エージェント型AI利用6%の記事)。
よくある質問
Gartnerの調査対象は製造業だけですか?
製造とサプライチェーンの意思決定者128人が対象です。業種の内訳や国別の内訳は公表資料では確認できません。
「高度自動化」とは何を指しますか?
Gartnerは「人の監視を最小化した高度自動化」としており、AIや自律ロボットを含む自動化で、人が常に監視しなくても工程が回る状態を指しています。従来の自動化設備に加え、AIによる判断や自律的な搬送・作業が含まれます。
- Gartner Survey Shows 49% of Organizations Lack Confidence in Future Manufacturing Strategy(Gartner, 2025年10月28日)
- Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027(Gartner, 2025年6月25日)
- 2026 Manufacturing Industry Outlook(Deloitte Insights, 2025年11月13日)
- The state of AI in 2026(McKinsey, 2026年8月25日)
