2つの政策と数値目標

工信部は2025年12月29日付で「工业互联网和人工智能融合赋能行动方案」(工業インターネットと人工知能の融合による賦能の行動方案)を通知しました。続いて2026年1月には「推动工业互联网平台高质量发展行动方案(2026—2028年)」(工業インターネット平台の高品質な発展を推進する行動方案)が出ています。2028年までの主な目標は次のとおりです。

2028年までに「AI+工業インターネット」改造を行う企業
5万社以上
工信部 融合賦能行動方案(2025年12月)
影響力のある工業インターネット平台
450超
工信部(2026年1月 報道)
工業設備の接続数
1.2億台(套)
同上
平台の普及率
55%以上
同上

融合賦能行動方案は、あわせて20の重点業界で高品質データセットを構築するとしています。

工業インターネットとは、中国で使われる「工业互联网」の訳で、工場の設備・システム・企業をネットワークでつなぎ、データを集めて活用する基盤の総称です。日本のIIoT(産業用IoT)とデータ基盤を合わせた概念に近く、「平台」はその上で動くプラットフォーム(クラウドサービス)を指します。

規模の参考として、工信部のデータでは2025年の工業インターネットの核心産業は1.6兆元を超え、付加価値約2.5兆元を牽引する見込みです。天眼查によると、2025年に新規登記された工業インターネット関連企業は15.56万社で、前年比27.8%増でした。

判別式AIと生成式AIの使い分けを政策が明記

2つの方案のうち、平台の高品質発展の行動方案には、AIの種類の使い分けが具体的に書かれています。ルールが明確な生産制御やリスク識別には判別式AIを、工程の最適化や設計には生成式AIを使うという整理です。

下に工業インターネット平台と設備接続、その上に判別式AI(生産制御・リスク識別)と生成式AI(工程最適化・設計)が並ぶ構成図 設備接続(2028年目標1.2億台)・データ収集安全の分類分級管理、重要データの識別・備案 工業インターネット平台(450超):基础级・成长级・引领级・生态级の4段階で育成20重点業界の高品質データセット 判別式AIルールが明確な生産制御リスクの識別検査・異常検知・予測 生成式AI工程の最適化設計知識検索・文書生成
政策文書が示した判別式AIと生成式AIの使い分け。工場のデータ基盤の上で、用途によって使い分ける。

政策文書がAIの種類ごとの適用領域をここまで具体的に書くのは珍しいことです。生成AIをあらゆる工程に入れるのではなく、制御とリスク識別のように誤りの許されない領域は判別式AIに任せる、という考え方が政策として示されています。2026年1月の「AI+製造」専項行動が工業向け小モデルを明記したこととも整合しています(中国政策が工業小モデルを明記した理由)。

平台の育成と課金モデル

平台の行動方案は、平台を「基础级・成长级・引领级・生态级」の4段階で育成するとしています。智能工厂の梯度培育(基础级・先进级・卓越级・领航级)と同じ、段階的な認定で引き上げる方式です。

同じ方案は、サービスのモデルとして「先用后付」(先に使って後で払う)、「订阅服务」(サブスクリプション)、「效果付费」(成果報酬)を支持し、木兰许可协议(中国のオープンソースライセンス)による平台のオープンソース化も支持しています。課金モデルの論点は中国が政策で後押しする「效果付费」で詳しく扱っています。

エージェントは6層で展開

中国工业互联网研究院は、工業エージェントを設備・ライン・工場・企業・生態といった6つの層で展開することを提案しています。設備単体のエージェントから、サプライチェーン全体(生態)のエージェントまで、階層ごとに役割を分ける考え方です。これは、ISA-95の階層(設備・ライン・工場・企業)に沿ってAIの置き場所を決める考え方と近いものです(ISA-95とAI)。

データ基盤の視点からの読み方

日系工場にとってこの政策が意味を持つのは、主に次の2点です。

  1. 中国の平台事業者からの提案が増える:政策の目標達成のため、平台事業者は中小企業を含む工場の接続を急いでいます。日系工場や日系のサプライヤーにも、平台への接続やAIサービスの提案が来ると考えられます
  2. 安全の分類分級と重要データの備案:平台の行動方案は、工業インターネットの安全の分類分級管理と、重要データの識別・備案を求めています。中国の平台に工場データを載せる場合、そのデータが重要データに当たるかの判断が必要になります

よくある質問

日系の工場も「5万社」の改造の対象ですか?

方案は対象を国内企業に限定する記述を確認できていませんが、改造の支援を受ける手続きは地方の実施細則で決まります。日系工場が対象になるかは、所在地の工業・情報化部門の制度を確認する必要があります。

工業インターネット平台とMESは何が違いますか?

MESは工場内の作業指示・実績・品質を管理する業務システムです。工業インターネット平台は、設備の接続とデータの収集・分析・アプリの提供を行うプラットフォームで、MESと連携することもあれば、MESの機能の一部を含むこともあります。中国では平台がMESや設備管理のアプリを提供する例が多く、境界は日本より曖昧です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。