発言の内容:投資の50〜60%がデータエンジニアリング

中国工业互联网研究院(工業インターネット研究院)の鲁春丛院長は、多くの智能化改造プロジェクトで、投資の50〜60%をデータエンジニアリングが占めると述べました(经济日报/新华网、2025年9月18日)。

データエンジニアリングとは、設備・システムからデータを集め、時刻や単位をそろえ、欠損や異常値を処理し、品番・ロット・工程と紐づけて、AIが使える形にする作業全般を指します。

この発言が重要なのは、発言者がベンダーではなく、工信部系の政府研究機関のトップだという点です。データ整備の費用はベンダーの見積では小さく見せられがちですが、中国の当局者自身が「半分以上」と公言しています。

智能化改造プロジェクトの投資に占めるデータエンジニアリングの比率
50〜60%
中国工业互联网研究院 鲁春丛院長(经济日报/新华网、2025年9月18日)

AIプロジェクトの費用の内訳イメージ

鲁院長の発言は内訳の詳細を示したものではありませんが、比率を当てはめると、AIプロジェクトの費用構成は次のようなイメージになります。

データエンジニアリングが投資の半分強を占める横帯グラフ データエンジニアリング 50〜60%収集・クレンジング・紐づけ・管理 モデル開発・調整 業務組込みMES等連携 運用再学習 データ工学の比率のみ出典の数値。他の区分の幅は模式で、出典に基づくものではない
投資の50〜60%をデータエンジニアリングが占める場合の費用構成のイメージ。データ工学以外の内訳は一般的な区分の例示。

中国の政策はデータ整備を国の事業にしている

中国では、この認識が政策に反映されています。

政策データ整備に関する内容
AI+制造 実施意見(2026年1月)工業分野の高品質データセットを2027年までに100個構築。「制造业高质量数据集建设指南」の発布と「企业首席数据官制度」の推進
同上「模数共振」:モデルでデータを集め(以模引数)、データでモデルを強化する(用数赋模)
工業インターネット×AI融合行動方案(2025年12月)2028年までに20の重点業界で高品質データセットを構築
工信部の工業インターネット関連目標(2026年1月報道)2028年に工業設備接続数1.2億台(套)、平台普及率55%以上

(出典:実施意見原文PDF、第一财经2026年1月11日、华尔街见闻2026年1月13日)

企業ごとにデータを整備するだけでなく、業界単位のデータセットを国の事業として作り、企業に首席データ官(CDO)を置く制度まで推している点は、日本の施策にはない踏み込み方です。政策の全体像は中国「AI+製造」専項行動で扱っています。

日本の工場での予算の組み方

日本の製造業のAIプロジェクトでも、データ整備の費用は見積から漏れやすい項目です。特に、PoCは手作業で集めたデータで成功し、本番化のときに初めて「毎日自動でデータを集める仕組み」の費用が出てくるパターンがよくあります(AIの隠れコストを参照)。

中国の現場事例に見るデータの規模

データエンジニアリングの重さは、中国の現場事例からも読み取れます。36氪(2026年1月12日)は、国内の鉄鋼企業が西门子中国研究院と、約2万のデータ点と12の分析シーンをつなぐ保全エージェントを構築した例を伝えています。エージェントそのものより、2万点のデータを意味のある単位でつなぐ作業が、プロジェクトの大部分を占めたと考えられます(推測)。

宁波のプラスチック金型工場では、ERPと連携したエージェントで在庫資金が800万元から500万元に、納期遅延率が15%から2%未満に下がったとされます(同上)。この効果も、エージェントがERPの受注・在庫データを正しく読めることが前提です。

データ工学への投資は次のAIにも効く

データエンジニアリングの費用は、1つのAIのためだけの費用ではありません。設備データとMESの実績・品質データが品番・ロットで紐づいた状態ができれば、外観検査、予知保全、品質予測、生成AIによる照会など、次のAIを載せるときの費用が大きく下がります。

中国の政策が「模数共振」として、モデルとデータの好循環を掲げているのも、データ基盤を一度作れば複数のAIで回収できるという考え方に立っています。日本の工場でも、AI予算の一部ではなく、複数のAIに共通する基盤投資としてデータ整備を位置づけると、社内承認の説明がしやすくなります。費用の区分と相場の考え方は製造業データ基盤の費用で扱っています。

よくある質問

データ整備を外注すると、どこに頼めばよいですか

設備側(PLC・センサー)はFAベンダーや設備メーカー、MES・ERP側はシステムインテグレーター、AI用の加工はデータエンジニアリングの専門会社が担うのが一般的です。境界で責任が分かれやすいので、データの受け渡し形式と品質基準を発注者側で決めておくことが重要です。

首席データ官(CDO)は日本の工場でも必要ですか

役職名にこだわる必要はありませんが、工場データのマスタとコード体系を決める責任者は必要です。誰も決めないまま各部門がAIを入れると、同じ設備のデータが部門ごとに違う形で整備され、費用が重複します。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。