2026年に相次いだ国産基盤モデルへの投資

2026年、日本の製造業大手が国産の基盤モデルに資本を投じる動きが続きました。

時期動き公表内容
2026年6月30日経済産業省がNEDO事業の実施者を発表「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の実施者としてNoetraと産総研を発表
2026年7月Noetraが本格始動国内44社が出資。中核はソフトバンク、本田技研工業、NEC、ソニーグループの4社。ファナック、安川電機、東芝、日本製鉄も出資
2026年7月24日ファナックがNoetraへの出資を発表出資額は非公表。Noetraは経済安全保障を目的に産業横断で研究開発
2026年8月31日三菱重工とPFNが資本業務提携三菱重工の出資総額100億円。社会インフラ・安全保障などミッションクリティカル領域の機械・システムの知能化・自律化に向けたAIを共同開発
2026年10月6日PFNがPLaMo 3.0 PrimeをMicrosoft Foundryで提供開始企業専用の閉域環境で利用可能

経済産業省とNEDOは、2026年度にこのプロジェクト全体へ約3,873億円を支援し、5年間の総額は1兆円規模になる可能性があると報じられています(ITmedia ビジネス、2026年10月5日)。

Noetraに出資する国内企業の数
44社
ITmedia ビジネス(2026年10月5日)
三菱重工のPFNへの出資総額
100億円
Preferred Networks(2026年9月16日発表)
経済安全保障の対策を講じている製造業者(2024年度は38.2%)
55.6%
2026年版ものづくり白書(MONOist、2026年7月8日掲載)

欧米でも「主権AI」が売り文句になっている

この動きは日本だけのものではありません。AWSは2025年12月のre:Inventで、顧客自身のデータセンターで専用のAI基盤を動かす「AWS AI Factories」を、主権・規制対応を目的として発表しました。Dassault Systèmesは2026年7月、3DEXPERIENCEのAIコンパニオンを3大陸のOUTSCALE AIファクトリー(主権クラウド)で稼働させると発表しています。

製造業の設計データやIPの保護を理由に、どこでAIを動かすかを選べることが、欧米の大手ベンダーでも差別化の要素になっています。詳しくは製造業の「主権AI」で扱っています。

データの種類ごとに見せるAIを決める

経済安全保障の議論は大きな話に見えますが、製造業の実務に落とすと「どのデータを、どの環境のAIに見せてよいか」を決める作業になります。

データの機密度別に使うAI環境の対応表 輸出管理対象・防衛関連の設計顧客から厳格管理を求められた図面 自社製品の図面・工程条件レシピ・品質データ 社内規程・手順書・議事録一般的な社外秘情報 公開情報・一般的な文章作成 完全オンプレ(社内で完結) 閉域クラウド・国産または主権型 学習利用なしの専用テナント グローバルLLMの企業向けサービス
データの機密度と、AIを動かす環境の対応。上ほど閉じた環境を選ぶ。

この対応は一例です。実際の区分は、社内の機密区分、顧客との秘密保持契約、輸出管理の該非判定の結果をもとに決めます。ポイントは次の3つです。

  1. 「国産かどうか」より「どこで処理され、誰がアクセスできるか」を優先する。国産モデルでも海外事業者のクラウドで動くことがあります
  2. 設計データとそれ以外を分ける。汎用業務まで閉じた環境に限定すると、性能の高いグローバルLLMを使える業務まで使えなくなります
  3. 区分ごとの判断を文書にして、取引先や監査に説明できるようにする

調達基準に入れるべき項目

2026年版ものづくり白書によると、経済安全保障の担当部署を新設した製造業は2.0%にとどまり、「体制なし・都度対応」が37.9%で最も多い結果でした。AIの調達でも、情報システム部門の個別判断に任されていることが多いと考えられます。

生成AIのサービスを選ぶとき、次の項目を調達基準に明記しておくと、判断がぶれません。

  • データを処理するデータセンターの国・地域
  • 入力データ・出力データの学習利用の有無
  • 運用・保守を担う事業者と、その所在国
  • ログの保存期間と、削除を求めたときの対応
  • モデルの開発元と、提供が終了したときの移行手段

経済安全保障の観点でのベンダー選定は経済安全保障とAIベンダー選定、国産LLMの具体的な比較は国産LLMを製造業目線で比較で扱っています。

よくある質問

国産基盤モデルはいつ実務で使えるようになりますか

Noetraは2026年7月に本格始動したばかりで、目標は2030年度とされています。図面を扱う業務で今すぐ使えるのは、既存の国産LLMの閉域提供や、オンプレで動かせるモデルです。

海外の取引先から「中国製モデルを使っていないか」と聞かれたらどうしますか

業務ごとに使っているAIサービスの名称、開発元、処理環境を一覧にしておけば回答できます。顧客監査の観点からも、AI利用の台帳を整えておくことが重要です。

中小製造業でもここまで管理する必要がありますか

防衛・インフラ関連の部品や、輸出管理対象の製品を扱う場合は、取引先から同等の管理を求められることがあります。そうでない場合も、図面を扱うAIと一般業務のAIを分けるという最低限のルールは決めておくべきです。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。