なぜ推進役が必要か:利用は自然には広がらない

生成AIの利用は、配っただけでは均等に広がりません。エクサウィザーズの利用実態調査(2026年10月公表)では、上位10%のユーザーがメッセージ量の約半分を占めていました。令和8年版労働経済白書では、AIと働くための研修を受けたAI利用者は日本で26.7%で、OECD平均の36.8%を約10ポイント下回っています(ITmedia エンタープライズ、2026年10月)。

使いこなす少数の人の知恵を、使っていない多数の人に移す仕組みが必要です。その仕組みが、部門ごとに推進役(アンバサダー、チャンピオンとも呼ばれる)を置く体制です。

また、2025年版ものづくり白書の関連記事では、大企業はDXをボトムアップで、中小企業はトップダウンで進める傾向があるとされています(MONOist、2025年6月)。生成AIの推進でも、経営の方針(トップダウン)と現場から生まれる使い方(ボトムアップ)の両方が要ります。推進役は、その接点になる役割です。

3段階の推進体制

第1段階で部門ごとに推進役を置き、第2段階でユースケース共有会を開き、第3段階で効果を測定して経営に報告し、再び第1段階に戻る循環図 1. 推進役を置く部門ごとに1〜2名使い方を集める 2. 共有会月1回・部門横断雛形にして配る 3. 効果測定業務単位で時間・品質経営に報告・投資判断 →→ 測定結果をもとに、次に支援する業務を選ぶ
推進体制の3段階。推進役が使い方を集め、共有会で広げ、効果測定で次の投資を決める。

第1段階:部門ごとに推進役を置く

推進役は、各部門(品質保証、生産技術、設備保全、製造課、購買など)に1〜2名置きます。役割は次の3つです。

  • 部門内の使い方を集める(誰がどんな業務で使っているか)
  • 部門の同僚の質問に答える、使い方を隣で見せる
  • 部門で使えない理由(端末、ルール、データ)を推進事務局に上げる

選び方で大切なのは、ITに詳しい人より、その部門の業務をよく知り、同僚から相談される人を選ぶことです。利用ログから上位の利用者を見つけ、その中から業務に詳しい人に声をかけるのが効率的です。工場では、班長や係長クラスが適任であることが多いです。

第2段階:ユースケース共有会

月1回程度、部門横断の共有会を開き、各部門の推進役が使い方を発表します。発表は「業務名」「入力したもの」「出力をどう確認したか」「何分短くなったか」の4点に絞ると、他部門が真似しやすくなります。

共有会で出た使い方は、推進事務局が業務別のプロンプト雛形に整えて全社に配ります。雛形の書き方は製造業の業務別プロンプト雛形を参照してください。

第3段階:効果測定と経営への報告

四半期ごとに、業務単位で効果を測ります。利用回数ではなく、「不具合報告の作成時間」「保全記録の検索時間」のように、業務の時間や品質で測ります。測った結果は経営に報告し、次にどの業務に投資するか(社内文書の連携、専用ツールの導入など)の判断に使います。効果の測り方は生成AIのROIをどう測るかで詳しく扱っています。

役割分担と時間の確保

役割担う人主な仕事時間の目安
責任者担当役員、工場長方針の発信、推進役の業務時間の承認四半期ごとの報告を受ける
推進事務局DX推進部門、情報システムルール整備、雛形づくり、共有会の運営、ログ集計専任1〜2名
推進役各部門の実務者使い方の収集、相談対応、課題の吸い上げ業務時間の5〜10%程度
利用者全社員雛形を使う、使い方を推進役に伝える―

時間の目安は、推進体制を運営する際の一般的な考え方として示したもので、調査に基づく数字ではありません。重要なのは、推進役の活動を業務として認め、上司が時間を確保することです。善意だけに頼った推進役は、半年ほどで活動が止まりがちです。

社外の支援を使う場合

推進事務局の人手が足りない場合、外部の支援を使う選択肢もあります。日立や富士通は、顧客の現場に入って伴走するFDE(Forward Deployed Engineer)の体制を打ち出しています(ITmedia ビジネス、2026年9月/MONOist、2026年10月)。研修サービスや伴走支援を提供する会社も増えています。外部支援を使う場合も、推進役を社内に育てることを契約の目的に入れておかないと、支援が終わると活動が止まります。人材育成の全体像は製造業のAI人材育成で扱っています。

よくある質問

推進役は何人くらい必要ですか?

部門ごとに1〜2名が目安です。工場ではシフトごとに相談できる人がいるとよいため、交代勤務の職場ではシフトごとに1名ずつ置くことも検討してください。

推進役にはどんな研修が必要ですか?

一般的な使い方に加えて、社内の利用ルール(入力してよい情報の区分)、出力の確認観点、雛形の作り方を学ぶ研修が必要です。高度な技術知識より、業務の困りごとを生成AIで解ける形に言い換える力が重要です。

中小企業でも推進体制は必要ですか?

部門が少ない中小企業では、経営者が方針を示し、社内で最も使っている人を推進役に指名するだけでも効果があります。中小企業はトップダウンで進める傾向があるとされるため、経営者自身が使い方を見せることも有効です。

この特集について

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  1. 製造業の生成AI活用の全体像:業務別12ユースケースと導入の順番
  2. 製造業の社内文書RAG入門:手順書・図面・品質記録を検索する5層構成
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  4. 生成AIの情報漏えい対策:製造業が決めるべき入力禁止情報とログ管理の7項目
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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。