RFPがないと見積もりは比べられない
AIの提案では、同じ「外観検査のPoC」でも、手元の画像で精度を確かめるだけの提案と、撮像系を組んでラインで並行運用する提案が混在します。前者と後者では期間も費用も桁が変わり、どちらが良いかを比べることができません。発注側が前提をRFPで示せば、各社の提案を同じ範囲で比べられます。
製造業のAI開発のRFPには、次の12項目を記載します。
| # | 項目 | 書く内容 | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|---|
| 1 | 背景と課題 | 何に困っていて、なぜ今取り組むか | 提案が技術紹介になる |
| 2 | 目的と効果の定義 | 改善したいKPIと、目標の金額・件数 | 合格ラインが決まらない |
| 3 | 対象工程・品種・不良(故障)モード | 範囲と、範囲外のもの | 見積もりが数倍ずれる |
| 4 | 現行の業務と実績 | 現行の検査方法、人数、見逃し・過検出の実績 | 比較の基準がない |
| 5 | データの現状 | 種類、量、期間、形式、ラベルの有無、保存場所 | データ整備の工数が読めない |
| 6 | 設備・システム環境 | カメラ・センサーの有無、PLC、MES、ネットワーク | 連携費用が後から増える |
| 7 | 評価方法と合格ライン | 指標、評価データの取り方、合格ライン | 結果の解釈で揉める |
| 8 | 運用条件 | タクト、稼働時間、オンプレ・クラウドの制約、再学習の担い手 | 本番で使えない |
| 9 | セキュリティ・データ取り扱い | データの持ち出し可否、保管場所、削除 | 情報漏えいのリスク |
| 10 | 成果物と権利 | 報告書、モデル、コード、学習データの権利と引き渡し | ベンダーに縛られる |
| 11 | 体制と役割分担 | 発注側とベンダーの担当、現場の関与 | 発注側の作業が抜ける |
| 12 | スケジュールと予算の枠、選定基準 | 期限、予算の上限、評価の観点 | 提案の焦点が合わない |
1〜4:課題と範囲を書く
背景と課題(1)は、技術の要望ではなく業務の困りごととして書きます。「AIで外観検査をしたい」ではなく、「検査員の高齢化で2年後に検査人員が3人減る見込みで、目視検査の工数を半分にしたい」のように書くと、AI以外の解決策も含めた提案が返ってきます。
目的と効果(2)では、改善したいKPIと目標を数字で示します。効果を金額で出す方法はROI試算を参照してください。
対象範囲(3)は、見積もりの差を最も大きく生む項目です。品種、工程、不良モードを具体的に列挙し、今回は対象外とするものも書きます。現行の業務と実績(4)は、AIの合格ラインを決める基準になります。人の目視検査の見逃し率がわかっていれば書き、わからなければ「不明」と書いて、PoCで測ることを求めます。
5〜8:データと環境、評価、運用を書く
データの現状(5)は、提案の質を左右する項目です。データの種類(画像、振動、MESの実績など)、量、期間、形式、ラベルの有無を書きます。サンプルデータを提案前に提供できるなら、精度の見込みも含めた提案を受けられます。
設備・システム環境(6)では、既存のカメラやセンサー、PLC、MESの製品名とバージョン、ネットワークの構成を書きます。AIの判定結果をMESに書き戻す必要があるなら、それも明記します。連携の範囲が曖昧だと、本番化の段階で追加費用が発生します。
評価方法と合格ライン(7)は、PoCの評価指標と合格ラインで決めた内容をそのまま書きます。評価データは学習に使わない別ロットから取ることも条件にします。
運用条件(8)には、タクトタイム、稼働時間、オンプレミスかクラウドかの制約、再学習を誰が行うかを書きます。
9〜12:契約の条件を書く
セキュリティとデータの取り扱い(9)では、画像やレシピなどのデータを社外に持ち出せるか、クラウドに置けるか、契約終了後に削除するかを書きます。工場のOTネットワークとの接続がある場合は、接続方式の制約も示します。
成果物と権利(10)は、後で最も揉めやすい項目です。報告書だけか、学習済みモデル、ソースコード、学習データ、評価データまで引き渡すか、その権利がどちらにあるかを書きます。契約の論点はAI開発契約で詳しく扱っています。
体制と役割分担(11)では、発注側が担う作業(データの提供、判定基準の決定、現場の立ち会い)を明記します。予算の枠(12)は、上限を示したほうが、範囲に見合った現実的な提案が集まります。選定基準も先に示しておくと、提案の焦点が合います。
提案を比べる観点も先に決める
RFPと一緒に、提案を評価する観点と配点を決めておくと、価格だけで決まる事態を防げます。製造業のAIでは、次のような観点がよく使われます。
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 課題の理解 | 自社の工程と不良(故障)の特徴を踏まえた提案か |
| 手法の妥当性 | データの量と質に合った手法か。良品学習か教師ありかなどの選択理由 |
| 評価の設計 | 合格ラインと評価データの取り方が具体的か |
| 本番化の見通し | MES連携、運用、再学習まで見通しているか |
| 実績 | 似た工程・用途の実績と、その成果の条件 |
| 体制と費用 | 担当者の経験、保守体制、5年間の総額 |
価格の配点を高くしすぎると、評価の設計や本番化の見通しが手薄な提案が有利になります。PoCの段階では、評価の設計と本番化の見通しに重みを置くのが安全です。
よくある質問
RFPは何社に送ればよいですか
比較のためには3社程度が扱いやすい数です。類型の違う相手(AI専業、SIer、設備メーカーなど)を混ぜると、アプローチの違いが見えます。
サンプルデータはRFPと一緒に渡すべきですか
秘密保持契約を結んだ上で渡せるなら、精度の見込みを含めた提案を受けられます。持ち出せない場合は、データの仕様と代表的な画像の説明だけでも書いておきます。
RFPを書く時間がない場合はどうすればよいですか
最低限、対象範囲(3)、データの現状(5)、評価方法と合格ライン(7)、成果物と権利(10)の4項目だけは書いてください。見積もりの差と後の揉め事の大半はこの4項目から生まれます。
