禁止だけのルールは守られない

生成AIの社内ルールで最も多い失敗は、禁止事項を並べただけで、何に使ってよいかが書かれていないことです。現場から見ると「使うなと言われている」のと同じで、業務で必要な人は個人のスマートフォンで一般向けのAIを使い始めます。そうなると、会社は何が入力されたかを把握できず、ルールを作る前より管理が難しくなります。

エクサウィザーズが2026年10月に公表した利用実態の調査では、上位10%の利用者がメッセージ量の約半分を占めていました。ルールがあいまいだと、使う人はますます使い、慎重な人は使わない、という偏りが広がります。ルールの目的は、使ってよい範囲をはっきりさせて、安心して使える人を増やすことです。

4本柱と10項目

製造業の生成AIルールは、次の4本柱で10項目に整理できます。

入力・ツール・出力・記録の4本柱と10項目 入力 ツール 出力 記録・運用 1 入力禁止情報2 条件付きで入力できる情報3 他者の権利物 4 利用可能ツール5 アカウント管理 6 出力の検証責任7 使ってはいけない用途8 社外への表示 9 ログと相談窓口10 見直しの周期
生成AI社内ルールの4本柱と10項目。入力と出力の両方を押さえる。
#項目製造業で書くべき内容の例
1入力禁止情報配合・工程条件など極秘区分の情報、顧客から預かった図面、個人情報、未発表の製品情報
2条件付きで入力できる情報社外秘の文書は法人契約のツールに限る、など区分とツールの組み合わせ
3他者の権利物の扱い他社のマニュアル、購入した規格書、顧客の仕様書を取り込む場合の確認
4利用可能なツール会社が契約したサービスの一覧と、個人契約のサービスの扱い
5アカウント管理会社アカウントの利用、退職・異動時の扱い、協力会社への適用
6出力の検証責任出力を使った人が内容に責任を持つ。数値・規格値は原典で確認
7使ってはいけない用途品質判定の最終判断、安全に関わる設定値の決定、人事評価への単独使用
8社外への表示顧客に出す文書に生成AIを使った場合の扱い
9ログと相談窓口利用ログの保存、判断に迷ったときの問い合わせ先、事故時の報告
10見直しの周期ツールや法令の変化に合わせて、半年〜1年ごとに見直す

1〜3の入力の線引きは、営業秘密の管理と一体で考える必要があります。区分の付け方は営業秘密・ノウハウを守るAI活用で扱っています。

製造業で特に書いておくべき3つのこと

顧客から預かった情報

自動車部品や電子部品のメーカーは、顧客から図面や仕様書を預かっています。これらは自社の情報以上に慎重に扱う必要があり、顧客との秘密保持契約が生成AIへの入力を想定していないことも多いです。顧客の情報は原則として入力禁止とし、使う場合は契約を確認したうえで承認を得る、と明記します。

数値と規格値の検証

生成AIは、トルク値、公差、温度条件などの数値をもっともらしく間違えることがあります。作業手順書や検査基準を生成AIで下書きする場合、数値は必ず原典(図面、規格、検査規格書)と照合し、照合したことを記録する、という手順をルールに入れます。

品質・安全の最終判断に使わない

不良品の出荷判定、安全装置の設定、設備の運転条件の決定を、生成AIの出力だけで行わないことを明記します。これは生成AIの使い方の制限であって、外観検査AIのように評価と管理の仕組みを整えた専用のAIとは区別して書きます。

作成から定着までの手順

  1. 現状の把握:どの部門が、どのツールを、何に使っているかを簡単なアンケートで調べる。個人契約のツールの利用も正直に答えてもらう
  2. 草案の作成:情報システム、法務・知財、品質保証、現場の代表で10項目の草案を作る。AI事業者ガイドラインの「AI利用者」向けの事項も参照する
  3. 使ってよい例の作成:部門ごとに、使ってよい業務の例を3〜5個ずつ書く(議事録の要約、過去トラの検索、翻訳の下書き、など)
  4. 教育:ルールの説明と合わせて、入力してよい情報と悪い情報の具体例を示す研修を行う。研修の設計は全社員向けAIリテラシー研修を参照
  5. 見直し:相談窓口に寄せられた質問と、ログから見えた使われ方をもとに、半年後に見直す

よくある質問

生成AIの利用を全面禁止にしている企業はありますか

導入初期には全面禁止の企業もありましたが、現在は法人契約のツールを用意して範囲を決めて認める企業が多くなっています。全面禁止は個人のツールでの隠れた利用を生みやすく、管理の面でも不利です。

生成AIのルールとAI全体のガバナンスはどう分けますか

生成AIのルールは従業員一人ひとりの使い方を決めるもの、AIガバナンスは会社として導入するAIシステムの承認と管理を決めるもの、と分けると整理しやすくなります。後者は製造業のAIガバナンス体制で扱っています。

協力会社にも同じルールを適用すべきですか

自社の情報を扱う業務については、同じ入力可否の基準を契約や業務指示で示すのが望ましいです。協力会社が使うツールを指定するか、少なくとも自社の情報を入力してよい範囲を明示します。

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この特集について

製造業の生成AI、どこまで任せられるか

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  1. 製造業の生成AI活用の全体像:業務別12ユースケースと導入の順番
  2. 製造業の社内文書RAG入門:手順書・図面・品質記録を検索する5層構成
  3. Siemens Industrial Copilotの全体像:5系統の提供状況と狙い
  4. 生成AIの情報漏えい対策:製造業が決めるべき入力禁止情報とログ管理の7項目
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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。