中国の家電大手は「工場単位」でAIを入れている

日本の電機・家電メーカーのAI活用は、外観検査、予知保全、設計支援といった個別の用途から進んできました。これに対し中国の家電大手は、工場全体を統括する「工場大脳」と呼ばれる仕組みの下に、多数のAIエージェントを配置し、計画・品質・設備・物流を横断して動かす形を打ち出しています。

企業・拠点公表されている取り組み公表値(発表元・時期)
美的・荊州洗濯機工場工場大脳の下で14エージェントが38シーンを担当、人形ロボット「美羅」とKUKAのAMR 81台が協働主要シーンの効率50%超、検査効率80%向上(第一財経、2025年8月)
美的・荊州(続報)AIグラスと品質エージェント初品検査15分→30秒、スケジューリングの応答90%高速化(科技日報、2026年7月)
美的グループ全体AIによるコスト削減2024年1.8億元、2025年約6億元(見込み)、2026年9億元(計画)(第一財経、2026年1月)
海尔・中央空調工場AIによる自動スケジューリング設計周期62%短縮、納期20%短縮、生産効率32%向上(海尔、2025年11月)
海尔・上海洗濯機工場射出成形のエージェント金型調整120分→10分(海尔、2025年11月)
格力(珠海)AIモデル155個を組み込み管理効率46%向上(中国経済周刊、2026年1月)
美的 荊州洗濯機工場の構成
14エージェント・38シーン
第一財経(2025年8月28日)
美的グループのAIによるコスト削減(2025年見込み)
約6億元
第一財経(2026年1月15日)、2026年は9億元を計画
格力 珠海工場に組み込んだAIモデル数
155個
中国経済周刊(2026年1月30日)

美的の荊州工場の詳細は美的の「智能体工場」で扱っています。

数字の読み方:何と比べた何%か

これらの数字は企業の発表か、それを伝える報道で、比較の基準や期間が書かれていないものがほとんどです。読むときは次の点に注意します。

  • 「効率50%超」の「効率」が何の指標か(作業時間、人員、処理件数)が明示されていない
  • 新工場の立ち上げと同時にAIを入れた場合、AI以外の設備更新の効果が含まれる
  • グループ全体のコスト削減額は、売上規模に対する比率で見ないと大きさを判断できない
  • 中国では政府のスマート工場認定でAIの応用率が要件になっており、AIの活用を多く見せる動機がある

一方で、灯塔工場(WEFのライトハウス)に選ばれた拠点は、第三者の審査を経ています。美的厨熱(蕪湖)は、113のデジタルユースケース(35%がAI)で、AI計画システムとサプライチェーンのコントロールタワーにより納期を39%短縮し、在庫日数を30%減らしたとWEFが公表しています(2026年1月)。美的通用制冷(重慶)は、79のデジタルユースケースで製品構成のリードタイムを81%短縮しました(WEF、2025年1月)。

エージェントの前に何があるか

美的や海尔の取り組みで見落とされやすいのは、エージェントの土台にある仕組みです。美的は、自社のデジタル化部門(美雲智数)で、生産管理・品質・設備・物流のシステムを長年かけて自社で整備してきました。海尔の卡奥斯(COSMOPlat)は、工業インターネットのプラットフォームとして、工信部の評価で7年連続首位とされ、16の灯塔工場の構築を支援したと同社は発表しています。

エージェントが計画を作り直したり、品質の異常に対応したりできるのは、MESやERPに正確な実績と在庫のデータがあり、エージェントがそれを読み書きできるからです。中国工業互聯網研究院の院長は、多くのスマート化改造プロジェクトで投資の50〜60%をデータエンジニアリングが占めると述べています(2025年9月)。この点は中国当局「AI投資の50〜60%はデータ工学」で詳しく扱っています。

工場大脳とエージェント、業務システムの関係 工場大脳(全体の監視・調整) 計画エージェント 品質エージェント 設備エージェント 物流エージェント MES・ERP・WMS・設備データ(長年かけて整備した業務システム)投資の50〜60%はここ(中国工業互聯網研究院の発言)
中国家電工場の「工場大脳」の構成(公開情報からの整理)。エージェントは業務システムのデータの上に乗る。

日本の電機・家電工場に持ち込める要素

日本勢との差は、AIの技術より、工場のデータを業務システムに集める度合いと、経営がAIの効果を金額で管理している点にあると考えられます(推測)。美的がAIによるコスト削減額を年ごとに目標化していることは、その表れです。

日本の工場が取り入れやすいのは次の3点です。

  1. 個別のAIを入れる前に、計画・品質・設備のデータを同じ基盤に集める
  2. AIの効果を、業務ごとの時間やコストで測り、年単位で経営に報告する
  3. エージェントには、まず読み取り専用の権限から与え、提案を人が承認する運用にする

3つ目の権限設計は、中国の事例でも詳細が公開されていない部分です。AIエージェントにMESやERPを操作させるときの権限の段階はAIエージェントにMES・ERPを操作させる権限設計で整理しています。

よくある質問

中国の家電工場の発表は信頼できますか

企業の発表と報道で、比較の基準が書かれていないものが多く、第三者の検証は限られます。WEFのライトハウスのように審査を経た拠点の数値の方が、相対的に信頼できます。取り組みの方向を知る材料として読むのが妥当です。

日本の家電メーカーの中国工場でも同じことはできますか

技術的には可能ですが、中国のデータ規制で、工場のデータを日本に送ることや、中国国内の生成AIサービスの利用に手続きが必要になる場合があります。現地の規制を確認したうえで、中国国内でデータを処理する構成を検討します。

人形ロボットの導入はどの程度進んでいますか

美的は自社の人形ロボットを荊州工場で初品検査や巡回に使っていると報じられていますが、台数や効果の数値は公開されていません。現時点では試行段階と見るのが妥当です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。